行政書士合格後の開業方法・専門性の身につけ方
行政書士試験合格後の開業方法は?実務で役立つ専門性の身につけ方やおすすめ資格の組み合わせは?
更新日:2025年10月6日
行政書士試験に合格したからといって、すぐに「行政書士」を名乗って業務を行えるわけではありません。行政書士は「登録をしなければ資格が有効にならない」国家資格であり、試験合格はあくまで第一歩にすぎません。行政書士名簿へ登録して初めて、「行政書士事務所」として業務を開始することができます。登録を経ないで「行政書士」として報酬を得て業務をすることは罰則の対象になることもあるため、この点はしっかり理解しておく必要があります。
本記事では、登録から開業までの流れや、複数人で事務所を立ち上げる場合や、副業として開業する場合の注意点を具体的にご紹介します。また、開業後にクライアントから選ばれる行政書士になるために役立つ資格の組み合わせと、具体的にどう実務に活かせるかについても掘り下げて解説し、行政書士試験合格後に何をしたらよいかお悩みの方にお役立ていただける情報をご提供します。
1.行政書士登録手続き
行政書士の登録手続きは、「東京都行政書士会」などの都道府県行政書士会(以下、単位会)を経て、「日本行政書士会連合会(日行連)」に名簿登録されることで完了します。日本行政書士会連合会(以下、日行連)の審査を経て名簿に登録されます。この名簿に載ることが、行政書士を名乗るための必要条件です。
「登録手続きでは、多くの書類が必要となり、住民票や戸籍謄本、合格証明書といった公的書類を揃えるほか、指定の申請様式もあります。特に注意したいのは「事務所要件」で、書類だけでなく、実際の事務所の所在地や体制についての確認が行われます。
したがって、形式的に書類だけ揃え、登録して実体のない事務所を設立することはできません。
登録に必要な書類(例:東京都の場合)
- 行政書士登録申請書
- 履歴書(所定様式)
- 誓約書
- 入会届(東京都行政書士会)
- 住民票(本籍記載あり)
- 戸籍謄本
- 行政書士試験合格証明書
- 身分証明書(成年被後見人・破産者でない証明)
- 写真(縦3cm×横2.5cm程度)
各種の様式は 各都道府県行政書士会(単位会)の公式WEBサイトから入手できます。自分が所属しようとする単位会のサイトから書式を確認しましょう。
費用(東京都の例:2025年9月時点)
- 登録免許税:30,000円(収入印紙)
- 登録手数料:25,000円
- 入会金:200,000円
- 年会費:約72,000円
合計で30〜40万円程度かかります。全国的に金額は近い水準ですが、単位会によって多少の違いがあります。
2. 開業準備と事務所設置
登録申請が受理されても、すぐに業務が始められるわけではありません。事務所の準備が整っていることが登録の大前提であり、登録申請の際に「事務所の写真」や「配置図」を提出させる単位会もあります。形だけの事務所や自宅の一部を無理に流用した空間は認められません。
行政書士は独立して仕事を請け負うため、事務所の信頼性や見た目も重要です。看板や表札を掲げることで、依頼者に安心感を与える効果があります。登録が承認されると同時に、税務署への開業届や、国民健康保険・国民年金への切替といった実務的な準備も並行して進めていく必要があるでしょう。
必要な準備
- 独立した事務所スペース(寝室や台所兼用は不可)の確保
- 「行政書士〇〇事務所」と明示する看板・表札の確保
- 職印(業務に使う行政書士印)の作成
- 税務署への「開業届」「青色申告承認申請書」提出
- 社会保険・年金の切替(会社員から独立する場合)
3. 登録から開業までのスケジュール感
行政書士として登録されるまでには、審査に要する期間が必要なため、日数がかかります。登録申請から実際に登録され、行政書士証票が交付されるまで2〜3か月程度かかるのが一般的です。この間に実際に営業を始めるための準備や営業計画を整えると効率的です。
- 書類準備:2〜3週間
- 都道府県行政書士会(単位会)での書類チェック:約1か月
- 日本行政書士会連合会(日行連)での審査:約1か月
他県でも同様に、単位会の審査を経て、日行連の名簿に登録されることで、行政書士を名乗れるようになります。
4. 複数人で事務所を立ち上げる場合
行政書士は原則として「一人一事務所」ですが、複数人での運営も可能です。いずれの場合も「各自が登録済みであること」が前提となります。
- 共同事務所
複数の行政書士が同じ場所で業務を行う形態です。各自は独立した事務所を持ちながら、経費や設備を共有します。案件の協力も可能で、効率的に業務を展開できます。 - 合同事務所
同一室内で、他士業者(又は他士業法人)と各々の事務所を設置する場合に設置できます。例えば、社会保険労務士や司法書士など、他の士業の方との連携がスムーズに展開できる事務所形態です。 - 行政書士法人
2人以上の行政書士で設立できる法人格です。法人名義で契約が可能であり、大規模案件や継続業務に強いメリットがあります。設立には登記と行政書士会での法人登録が必要です。
5. 副業として事務所を立ち上げる場合
行政書士は副業での開業も可能です。法律上の制限はなく、会社員として働きながら登録し、事務所を開設することもできます。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 勤務先規則:勤務先に副業禁止規定があれば、会社に承認を得る必要があります。
- 事務所要件:副業であっても専用の事務所スペースと看板設置が必須です。
- 時間の制約:官公庁の手続きは平日昼間のため、対応業務を限定する工夫が必要です。
- 税務処理:副業開業でも税務署への「開業届」が必要で、会社員としての給与所得と事業所得を確定申告で合算します。
- 業務の確保:行政書士登録をして2年以上業務を行わないと、登録を抹消されることがあります。
副業開業は可能ですが、現実的には「夜間・休日対応できる業務」から始めるのが効率的です。
6. 実務で役立つ、おすすめの資格の組み合わせ
行政書士は幅広い業務を扱える資格ですが、顧客に選ばれるためには「専門性の打ち出し」が不可欠です。競争が激しい地域では特に、他資格と組み合わせることで大きな差別化要素になります。以下では、分野ごとに役立つ資格と実務シーンを詳しく紹介します。
不動産・資産系
宅地建物取引士(宅建)【国家資格】
不動産取引に関する国家資格で、土地や建物の売買・賃貸契約において重要な役割を果たします。行政書士の業務である建設業許可、農地転用、不動産契約関連業務と組み合わせることで、依頼者にとって利便性が高まり、依頼を一括で受けやすくなります。
実務例:建設業許可申請と不動産売買契約書作成を一括で受注。
ファイナンシャルプランナー(FP)【国家資格】
FPは相続・遺言業務に強みを発揮し、資産形成や税対策まで含めた包括的な支援が可能です。行政書士が行う遺言書作成や成年後見業務と組み合わせれば、依頼者に安心感を与えることができます。
実務例:遺言書作成サポート+老後資金シミュレーション。
相続手続カウンセラー【民間資格】
遺言書や遺産分割、相続人の確定、相続財産の調査など相続に関する基本知識を身につけ、各種サービスの解約・名義変更・税務申告など多岐にわたる相続手続や相談技術などの実務的スキルを身に着けることができます。行政書士として相続に関する初期相談を安心して任せてもらえる立場を確立できます。
実務例:銀行口座の相続手続きなどの一括支援
企業法務・人材系
社会保険労務士(社労士)【国家資格】
労務管理や就業規則作成に強い国家資格で、行政書士業務の「許認可」と組み合わせることで企業支援力が高まります。
実務例:外国人在留資格取得許可申請+外国人雇用状況の届出+就業規則作成を同時支援。
外国人雇用管理主任者【民間資格】
外国人雇用に必要な制度理解とビザ申請などの実務、雇用管理体制整備の知識を身に着けられる資格です。行政書士の在留資格申請取次業務と相性が良く、今後さらに市場規模の拡大が予想されています。資格登録すれば、外国人雇用の有識者による無料セミナーが継続的に受講でき、業界最新情報が得られたり、交流したりできる会員組織がある点もメリットです。
実務例:飲食店の外国人採用で、ビザ申請+雇用管理指導をセット提供。
経営・承継支援系
中小企業診断士【国家資格】
経営コンサルに関する国家資格です。行政書士業務と組み合わせれば「手続き+経営支援」の両輪で企業をサポートできます。
実務例:建設業許可申請と経営力向上計画策定を同時に対応。
経営心理士【民間資格】
経営の現場における心理的課題にアプローチできる資格です。事業承継や組織改革において心理面から支援が可能になります。資格登録すれば経営心理士コミュニティに参加することができ、経営者や士業の方とのネットワーク構築や、ビジネスチャンスの拡大も期待できます。
実務例:経営者や管理職が悩む離職防止問題へのアドバイスや、会社の組織づくりをサポートするコンサルティング業務・顧問業務の受注。
事業承継士【民間資格】
承継計画策定やその実行に関する本格的コンサル資格です。行政書士と組み合わせれば、契約面から経営戦略まで支援可能です。
実務例:親子間での事業承継支援とその実務的サポート。
事業承継プランナー【民間資格】
承継の初期段階で課題整理と専門家への橋渡しを担う資格です。行政書士の相談窓口機能を強化できます。
実務例:承継相談を受けた際に課題を整理し、税理士や承継士へ紹介する。
デジタル・新領域
生成AIパスポート【民間資格】
AI活用スキルを証明する資格で、行政書士業務の効率化・高度化に直結します。書類作成業務のスピードと精度を大幅に高められるのが強みです。
実務例:AIによる契約書作成・校正を活用することで従来より迅速な納品。
まとめ
- 行政書士は登録しなければ開業することができない資格です。試験合格はスタートにすぎず、前述のように登録費用は30〜40万円、期間は2〜3か月程度かかります。開業準備では事務所要件を満たし、税務・社会保険の手続きを並行して進めることが重要です。
- 複数人で開業する場合は「共同事務所」「合同事務所」「行政書士法人」という形態があり、副業開業も可能ですが勤務先規則や時間制約に注意する必要があります。
- 実務で活躍するためには「行政書士+他資格」の戦略が効果的です。宅建やFPといった不動産・資産形成分野、社労士などの人事労務分野、事業承継士や経営心理士といった経営支援や事業承継分野、生成AIパスポートといったデジタル系が有力です。
行政書士は制度上、登録の際に必要な事務所要件等が厳格に定められています。資格の活かし方次第で業務範囲を大きく広げられる資格です。地域ニーズに合わせた資格戦略と事務所運営を設計することが成功への近道になります。
監修者
(にとべ わたる)
LEC専任講師
| 保有資格 |
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|---|---|
| LEC担当講座 初学者向けコース |
パーフェクトコース/パーフェクトコースSP 通学:水道橋本校/千葉本校 |
プロフィール
駒澤大学法学部法律学科卒業。
その後、合格率2.89%だった平成15年行政書士試験に合格し、平成17年にとべ行政書士事務所を開業し、開業とほぼ同時にLEC行政書士講座の専任講師となる。
相続手続、遺言書の作成サポート、会社設立、入管業務、契約書の作成等を中心に業務を展開。
また、高校、大学、社会人とラグビーをしており、その経験を活かしてスポーツクラブにて筋力トレーニング、水泳、エクササイズ、スカッシュの指導等を行う。
ラグビーやスポーツの指導を通じてチームメイトとの信頼関係を深く実感する。
様々な人との出会いから様々な考え方を学び、それらの経験と知識を行政書士として、講師として大いに活かしている。
趣味はゴルフ、フットサル、ラーメン屋巡り。
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二藤部 渉講師の紹介ページへ
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