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今問われる国会議員の政策能力

国会議員の政策補佐機能の現状と問題点


 政策立案の主導権を政治の側が持たなければならないという議論が高まっている背景は以上のとおりである。
 では、そもそも「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」(憲法第41条)と定められた国会の中で、
個々の国会議員が政策活動・立法活動を行うために
利用することができる補佐機関・機能には、官僚機構や民間有識者以外、一体どのようなものがあるのか。
 その実態と、それに関してどのような問題点が指摘されているのかを見てみよう。


(1)秘書
 国会議員にとって最も身近な政策補佐役は彼らの秘書たちである。
 国会議員には各々、国費によって2人の秘書(第1秘書、第2秘書)、および主として議員の政策立案、立法活動を補佐する政策担当秘書の計3人の公設秘書を置くことができる(国会法第132条)。さらに議員は公設秘書のほか、その必要性と財政能力に応じて私設の秘書も数名抱えていることが一般的である。
 特に議員の政策活動を中心になって支えることが期待されている政策担当秘書は

資格試験制度を伴なう専門職であり、94年1月より導入されている。政策担当秘書制度は政策補佐・立法補佐を志す一般の人が行政府ではなく、立法府で活動する門戸を開いたという意味において画期的なことであった。
 だが現状を言えば、政策担当秘書制度は必ずしも所期の目的・趣旨どおりには運用されていないのではないかとの指摘も多い。どのよう問題点が指摘されているのか列挙してみよう。


○政策担当秘書といっても所詮は1人である。1人では議員のニーズに十分に応えることはできない。仕事はどうしても広く浅く総花的になってしまう。より専門的、より高度、そしてより創造的な政策の立案が個々の議員に求められるようになっていることを考えると、これでは制度を有効に活用できない。
 前提となる制度が異なるため、単純に比較をすることはできないが、議員1人当たりの政策スタッフの数は米国と比較すると、著しく少ないのが現状である。
○そもそも使う側の議員の中には本来の主旨どおりに政策担当秘書を使う気がないケースがある。
その議員の主たる関心が政策立案になく、あくまでも選挙対策、資金集め、陳情処理、政局絡みの活動にある場合、政策担当秘書は政策関連以外の活動のために使われることになる。
○資格試験を受けなくても、一定の条件(例えば議員秘書10年以上)を満たす者は選考によって採用される道が開かれる制度になっている。実は現在の政策担当秘書には、こうした審査認定者が圧倒的に多いのだ。その認定が真に政策能力を基準とされているのであれば問題はないが、認定基準が曖昧ではないかとの指摘がある。


(2)委員会調査室
 衆議院、参議院には各々常任委員会と特別委員会があり、議案・請願等の審査を行なっている(国会法第40条)。常任委員会は常に設置されるもので、特別委員会は会期毎に設置される。
 委員会調査室は委員会が行う案件(法律案、予算、決算、請願、決議等)の審査または調査について専門的に補佐する機関である。各調査室は専門員である室長1名、首席調査員1名、必要がある場合には次席調査員1名、調査員7〜10名ほどで構成されている。

 委員会調査室はその業務量の割に人員があまりにも少ない。資金的手当も十分になされておらず、必要な文献・資料の購入もままならないなど独自の情報収集能力が弱い。さらに要所要所に行政府からの出向者がおり、行政府への依存、行政府からの影響力が強い等の問題点が指摘される。


(3)国立国会図書館調査及び立法考査局
 国立国会図書館は行政・司法および国民に対し図書館奉仕を提供する機関であるとともに、議員の調査研究に資するために国会に附置される機関でもある(国会法第130条、国立国会図書館法第2条)。
 国会に対する奉仕事務を主に担当するのは調査および立法考査局である。同局の業務には国会議員や委員会等の依頼に基づく調査と依頼を予測して行う事前の調査とがある。
依頼に基づく調査には法律案等の案件の分析・評価・国政審議に必要な内外の法制度等に関する調査・法律案要綱の起草等がある。
 その広範な業務の割に委員会調査室同様、人的要員が少ない。また指摘される問題点として、行政府からの出向者も多く行政府の影響力が強い等がある。


(4)議院法制局
 議員の立法活動を補佐する機関として、議院法制局(衆議院法制局と参議院法制局)が両議院に置かれている(国会法第131条および議院法制局法)。
 議院法制局では、両院とも法制局長のほか約70数名の職員(うち法律専門職は約50名)が働いており、その規模は内閣法制局とほぼ同じである。
 議院法制局は議院発議の法律案について、作成・審査して、法律案として仕上げることが主な職務である。

 議院法制局は内閣法制局と異なり、立法の構想の段階から参画して、法律案の作成に至る背景に関する実情調査はもとより、政策としての合理性についての検討も行なっている。他の政策機関と同様、要員が少ないとの指摘がある。


(5)政党(会派)の政策機関
 議員は以上のような公的な機関のほか、自らの所属する政党(会派)の政策機関(政策審議会、政務調査会など)を活用できる。政党の政策機関には独自の政策スタッフがおり、議員の個別の要望にも応えたりしている。
 特に与党経験の長い自民党では、党の政務調査会(いわゆる政調)が法律案の審議等の事前審査機関として実質的な決定権を持つ等、政策面で強力な権限を有しており、議員の最重要の活動拠点となっている。

 しかし議員の数に比較して政党の政策スタッフの数が少ないこと、その政策スタッフは会議等の準備、行政機関や外部機関(団体・産業界・有識者等)との調整等の業務で忙しく、また1人で複数の政策分野を担当しているため、専門化が難しい。さらに行政機関と同様に縦割り構造の弊害が出る等、多くの問題を抱えていて、十分に議員の政策ニーズに応えられないというのが現実である。


議会スタッフの各国比較
  日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス
事務局職員          
下院(衆議院) 1,832 2,548 1,384 2,160 1,279
上院(参議院) 1,378 2,322 328 179 935
小計 3,210 4,870 1,712 2,339 2,214
           
議会補佐機関等 152 4,599
           
議員秘書          
下院(衆議院) 1,500 7,282 1,423 4,008 2,111
上院(参議院) 756 4,410 942
小計 2,256 11,692 1,423 4,008 3,053
           
総計 5,618 21,161 1,712 2,339 2,214

日本:事務局職員は98年度予算定員(法制局,常任委員会調査室を含む)。
  議員秘書は,98年度の公設秘書の雇用可能人員の上限(各議員3名)。
  議会補佐機関等の152名は,国会図書館調査局の98年4月の現員。

アメリカ:人数は97年現在。事務局職員には委員会スタッフを含む。
  議会補佐機関等には,議会図書館調査局(747人),議会予算局(232人)
  会計検査院(3,500人)のほか,合同委員会スタッフ(120人)を含む。

イギリス:下院事務局職員は98年3月の定員。上院事務局職員は97年現員。
  議員秘書は,94-95年度の現員。

ドイツ:上下院事務局職員は,97年度予算定員。議員秘書は,91年末の現員。

フランス:下院事務局は99年度現員。上院事務局職員は,94年現員。
  議員秘書は,下院が98年,上院が97年の現員。

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