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今問われる国会議員の政策能力

国会議員の政策能力の向上はなぜ必要か


 国会議員の政策能力を向上させるべきだ、政策決定の主導権を「官」から「政」にシフトさせるべきだという声が近年にわかに高まっている。その背景には何があるのだろうか。

(1)政党の流動化、活性化
 第一に挙げられるのは近年、日本の政党、および政党を取り巻く環境が劇的に流動化、活性化していることである。
 93年に生じた自民党の分裂による55年体制の崩壊はその後の多党化、政党間の離合集散、新党の誕生と崩壊、連立内閣・連合政治の常態化を招いた。
 流動化する政党環境のもとで、既成政党にしても、新政党にしても、党内からの(対内的)あるいは国民からの(対外的)求心力をなんとか高めようとしのぎを削ることになる。その努力に失敗した政党は遠心化の原理が働いて、自己崩壊を起こすか、他党に吸収されていくことになる。

 政党としての求心力を高めるためには政党ごとの政治理念・方針・哲学と、それを具体化するための政策体系が不可欠であり、他の政党と差別化された、より魅力のある政策体系を構築できない政党はその存在基盤を失ってしまう。
 93年以降の政党の流動化、活性化は必然的に党の政策立案活動を活発化させるものであり、同時に個々の国会議員の政策立案への意欲、ニーズを高めることになったのである。

(2)二大政党制への動き
 第二に、政党が流動化、活性化していく中、衆議院の選挙制度が中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に移行されたことによって、二大政党化に向けた動きが次第に強まってきたことが挙げられよう。
 無論、政権交代可能なほど強力な野党が一朝一夕にしてできるわけではないが、少なくとも野党は与党の政策を代替できるような実現可能性の高い政策を立案し、国民からの支持の獲得を目指していくことになる。

かつての自民党一極体制下のように、野党が単に与党の政策を批判していればよかった状況も変っていかざるを得ない。
 また逆に、与党の側もそうした強力な野党の代替案によって覆されないだけのしっかりした政策を立案して、現政権の正統性を国民に対して、常に説得していかなければならない。そうした国会を舞台とした与党と野党のダイナミックな相克が政治全体の政策活動を活発化させつつある。

(3)経済社会環境の激変
 第三は近年の経済社会環境の激変だ。これまでの日本の諸政策・諸法制度の改革を抜本的かつ迅速に実行する必要が多方面で生じていることである。
 特にバブル経済の崩壊以降低迷を続けている経済を立て直すため政府がこれまで実施してきた諸々の政策が目に見える効果を生んでいないことは、政府の経済対策の枠組みや考え方の組み替えが必要になっていることを如実に示していると言える。
 また経済活動のグローバル化、特に国際的な資金移動の巨大化・迅速化によって、マクロ経済の運営が国際情勢によって左右される局面が増えてきた。

こうした地球規模の資本主義(グローバル・キャピタリズム)への対応をどのように行っていくかは、政治・行政に突きつけられた新しい課題だ。
 さらに金融問題・不良債権問題の処理などに見られるように、従来とは比較にならないほどの高度な専門的知識・政策が政治に求められるようになりつつある。
 戦後の経済発展を支えてきた既定路線を変更させることが求められている中、新しい知恵、新しい試みが政治から出てくることが期待されている。

(4)官僚機構の閉塞化
 第四は官僚機構の閉塞化である。ここ数年の政治の混乱や政党の流動化によって、政治の官僚への依存が強まった面がある。
 しかし、その状況は官僚の側から見れば、かつてのように自民党の方だけを見ていればよかった状況が変化し、野党を含め、いろいろな方面に配慮する必要性が高まってきたことを意味することにほかならない。つまりどちらに向いて政策を立案するのかという、官僚の視座が曖昧になっているのである。
 その場合、イギリスに見られるように本当の意味で官僚機構の政治に対する中立化が進んでいけばいいのだが、日本では現実としてそのようにはなっていない。

戦後の長い行政・政治・産業界の癒着の関係は官僚機構の硬直化・閉塞化を招いてきた。次々と顕在化した官僚不祥事も手伝い、官僚機構全体のモラール(士気)は極度に低下しているのが現状だ。そうした状況のもとで、上記(3)に述べたような経済社会環境の変化に官僚機構が機敏に対応していくことがますます困難なものになりつつある。
 したがって官僚機構としては今後、能力的にも環境的にも政治との距離化を図っていくことは避けられない。一方、政治の側から見ると、そのことは今後、官僚依存から徐々に脱却していかなければならないことを意味する。

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