スーパービジョンの効果とキャリアコンサルタントの自己研鑽
キャリアコンサルタントの資格は取得したけれど、面談力のクオリティはどのように維持していくのか。これは私たちにとって共通の課題といってもいいでしょう。そのための方法としていくつかのヒントをお伝えしたいと思います。
(想定読了時間:約12分)
<この記事をおすすめしたい方>
・国家資格を取ったばかりで今後どのような自己研鑽をしたらよいかと考えている方
・相談業務に携わっているが、なかなか勉強の機会に恵まれないと感じている方
・スーパービジョンというワードはよく聞くが、実際はどんな形で行われるのか、もっと詳しく知り、受けてみたいと思う方
・国家資格を取ったばかりで今後どのような自己研鑽をしたらよいかと考えている方
・相談業務に携わっているが、なかなか勉強の機会に恵まれないと感じている方
・スーパービジョンというワードはよく聞くが、実際はどんな形で行われるのか、もっと詳しく知り、受けてみたいと思う方
- 目次
1.国家資格キャリアコンサルタントを取得後から現在までを振り返る
今や国家資格の試験は1年に3回のペースで行われています。試験を受ける前は学科や論述、そして面接と、多岐にわたる試験に備えて勉強や練習を重ねられたことと思います。振り返れば、とても頑張った時間だったかもしれませんね。さて、めでたく合格の通知を受け取ってからはどうなさっていますか?試験前からともに学んだ仲間と引き続き自主勉強会を続けている方、または新しい関連分野に学びを広げたいと考えている方、しばらくお休みしたいと思う方、など様々な思いがあることでしょう。
「勉強は続けたいけれど、時間がなくて」
「コストがかかるのはちょっと・・」
「誰かが誘ってくれたらできるんだけど・・」
など、環境のせいにして後回しになっているケースも少なくないと思います。現状に満足せず、これからも面談スキルを磨くことの大切さを改めて考え、自分に合った方法を考えるきっかけ、動機付けにつなげていきませんか?ここではそのヒントになることをいくつかお伝えしたいと思います。
2.キャリアコンサルタントの自己研鑽
私たちキャリアコンサルタントにとって「自己研鑽」がなぜ大切なのか、改めて考えてみましょう。養成講座で学んだ理論や労働に関する法律は日々アップデートされています。また相談者を取り巻く労働環境は、経済状態に翻弄されながらどんどん変わっています。私たちは常にたくさんの情報を更新していかねばなりません。
面談のスキルはどうでしょう?試験は合格点に達すれば「資格取得」はできます。そこで皆さんはご自分の「できている点、まだまだ足りない点」の両方についてきちんと理解できていますか?何が良かったか、何が欠けているのかもわからずに「合格」の文字だけで満足するのは早すぎると思います。『常に謙虚に学ぶ姿勢を持って知識とスキルを磨いていく』ということ、これは私たちキャリアコンサルタントのためだけでなく、その先にいるクライエントのためでもあることを忘れてはいけません。ではまず「自己研鑽の基本的な3つの方法」からご紹介します。
2-1.知識のアップデート
1つ目は、「知識のアップデート」です。
キャリア理論、組織心理学、労働法関連、キャリア開発の最新情報などを中心に、専門書やネットなども利用してみてください。「キャリア理論ってなぜ必要なの?」「どんな時に使うの?」とキャリアコンサルタントという仕事をしている場面では、よく質問されます。
例えば「定年を数か月後に控え、会社から提示された再雇用の条件に納得できず、受けるべきか悩んでいる。いっそのことほかの会社に転職しようかとも考えるが、60歳を過ぎた自分が採用されるのか不安だ」というクライエントに出会ったとします。
さらに話を深く聴くと、「クライエントは、情報はある程度持っているが、その先の意思決定ができないで困っている」と見立てたら、クルンボルツ(Krumboltz,J.D.)の意思決定プロセス(表1)をヒントにして
「今あなたは方向性を定めるときに、経済的な課題と仕事のやりがい、そしてこれから先の60歳以降の人生をどう生きるか、という3つの問題に直面されているのですね」と問題の明確化を意識した応答をすることもできます。
または傾聴の結果、「このクライエントは定年という転機に直面しているが、そもそもこれまでに定年後のことを考えなさ過ぎた結果、今ここで迷っている」と見立てたら、
「予想できる転機。予想できない転機。予想していたことが起こらなかった転機」というようなシュロスバーグ(Schlossberg,N.K.)の転機(トランジション)(表2)をヒントに応答できるかもしれません。
理論は先に独り歩きするものではなく、面談のヒントとして私たちの拠り所となるものです。繰り返し学ぶことが大切ですね。知識のアップデートには他に学会や研究会に参加してみたり、受けやすいオンライン講座などもうまく利用して学ぶ機会を見つけましょう。
(表1)クルンボルツの意思決定プロセス
(表2)
シュロスバーグの転機(トランジション)の理論
2-2.実践経験の拡大
2つ目は実践経験を広げる、つまり面談力に係る自己研鑽です。
一番の近道はスーパービジョンを受けることです。実務者には欠かせない方法と言っていいでしょう。スーパービジョンを受けることで、自分の相談スタイルの癖や改善点がとてもよくわかるようになります。
またはロールプレイの練習を定期的に行い、自分の欠点を知る方法もあります。ロールプレイは相談場面の再現を通して、傾聴スキル、質問力、構造化の意識を磨くためにとても有効な手段です。録音データから逐語を作成し文字化することで後述する「セルフレビュー」に活かすこともできます。
さらにリアルな実践体験をしたい方は傾聴ボランティアの情報を探してみましょう。自治体や公共の団体、学校、社会福祉法人などでのニーズが期待できます。
2-3.専門性の深化
3つ目は自分の専門領域、得意分野を深めて、キャリアコンサルタントとしての「強み」を作ることです。
実務についている方は今の自分の活動をさらに充実させるという視点で考えてみましょう。例えば若者(女性・シニア)のキャリアについて学びを深める、組織内のキャリア開発について現在の動向を調べる、など。
これから実務につなげたいという方は、今の自分にプラスαの専門性を武器にして活動につなげるのもいいと思います。必要になると思われる関連資格にチャレンジするのもいいですね。社会保険労務士・メンタルヘルスマネジメント・FP(ファイナンシャルプランナー)・心理相談員・産業カウンセラー・コーチングなど。
専門性の高い分野で相談業務をされている方は、時として「いつも同じ」という思いこみに陥ることがあります。学生ばかり、シニアばかり、でも「一人ひとり違うんだ」という原点を忘れないために、面談のケース記録を蓄積し、定期的にセルフレビューすることも効果的です。
3.日々実践できる自己研鑽とは
自己研鑽には3つの方法があるとお伝えしましたが、ではもっと具体的に、身近にできる方法についてご紹介しましょう。次の4つのうち、3つは勉強仲間がいなくても一人で十分できる方法です。
1.相談記録のセルフレビュー
2.キャリア理論の要点を自分の言葉でまとめる
3.ほかのキャリアコンサルタントとのグループカンファレンス
4.自分自身のキャリアの棚卸し
3-1.相談記録のセルフレビュー
これはケース記録、または逐語記録をもとに自分でケースを振り返る方法です。大切なのは「感覚」で評価するのではなく「構造化して」客観的に振り返ることです。
ステップ1 事実の整理(主観をいれない)
まずは相談の中でわかる事実だけを整理します。クライエントの来談目的、相談の流れ、話題の順番、クライエントの非言語の状態、自分が行った介入(質問・要約・構造化・情報提供など)これらを整理していきますが、ここでは良し悪しを評価するのではありません。
ステップ2 自分の介入を分析すること
キャリアコンサルタントとしての自分の行動を客観的に分析します。自分の質問には意図が感じられたか、クライエントの話を広げることができたか、深く聴いて感情に触れることができたか、話が散らかったときに整理や要約が適切なタイミングでできたか、または情報提供のタイミングや内容はクライエントの主体性を奪っていなかったか、などが振り返りのポイントです。
ステップ3 仕上げは、次回の面談にすぐに生かせる「改善策」を行動レベルまで具体化すること
行動レベルとはすぐに実践できることを意味します。抽象的な目標は成長、改善につながりません。これはクライエントに対して目標設定をするときと同じですね。
3-2.キャリア理論の要約
キャリア理論の活かし方については前項でも触れましたが、自分の活動領域に合わせて必要と思われる理論を選んで整理するといいですね。興味のある分野や実務に近いことは「こんな風に活かそう」という具体的なイメージにつなげることができます。
「活動分野が多岐に渡ったり、方向性が決まっていないけれど、理論は整理したい」という方は理論を特徴別にまとめてみるのもよいでしょう。例えば
「自己概念や自己分析に有効なもの」・・・ホランド/シュロスバーグ/マイヤーズブリックス
「意思決定」・・・ジェラッド/クルンボルツ
「キャリア発達に関するもの」・・・スーパー/シャイン/レヴィンソン
のような形です。「意思決定」・・・ジェラッド/クルンボルツ
「キャリア発達に関するもの」・・・スーパー/シャイン/レヴィンソン
本を読むだけでもいいですが、繰り返し触れることで毎回理解が深まります。ぜひ試してみてください。
3-3.他のキャリアコンサルタントとのグループカンファレンス
セルフレビューの手順に似ていますが、今度はグループダイナミクスが期待できる方法です。
セルフレビューとの共通点は「ただの話し合いではなく構造化して進める事」です。
異なる点は、代表者が一人、事例を提供する「事例提供者」になることです。事例提供者は自分の面談のケース記録を作成し、それを共有しながらカンファレンスを進めていきます。
1.事実の共有
ケース記録をもとにクライエントの来談目的、相談の流れ、クライエントの非言語で現れた状態、事例提供者が行った介入について、共有していきます。ここではまだ評価したり、感想を述べることは控えましょう。事実と解釈が混在すると論点がずれることが懸念されます。
2.事例提供者の意図を分析する
事例提供者がなぜその介入をしたのか、質問の意図、傾聴の効果、整理や要約のタイミング、などについて丁寧に探っていくことで事例提供者の意図を正しく理解します。理解することが優先であって、ダメ出しばかりにならないように気をつけましょう。ただこの辺りで初めて「良かったところ、改善すべきところ」に気づくことになります。
3.代替案(別の介入)について検討する
ケースを深めていく過程で、質問の意図と質問の仕方が合わなかったという課題が見つかったら「ほかにどんな質問の仕方があったか」について具体的な言葉で考えてみます。参加者が様々な角度から表現の仕方を出し合うことで、一人では気づけなかった言葉のバリエーションを広げることができます。
ここはグループカンファレンスの学びの核心といってもいい部分です。良い学びになるためにできるだけ具体的な言葉を出し合うことを忘れないでください。
4.学びを抽出しお互いの自己研鑽につなげる
事例提供者だけでなく参加者全員がこのケースから学んだことを明確にし、自分の学びにつなげることが大切です。事例提供者だけが学ぶのではなく、メンバー全員が自分のこととして考える姿勢が効果に繋がります。
3-4.自分自身のキャリアの棚卸し
これまでいろいろと自己研鑽の方法を見てきましたが、どの方法も自分が「キャリアコンサルタントとして何がやりたいか」といったことや、求めるもの、足りないもの、強みとなるものなどが理解できていないと始まらないのです。つまり私たち自身の「キャリアコンサルタントとしての自己理解」がどのくらいできているかが肝心です。
ぜひこの機会に自分のキャリアの棚卸しにチャレンジしてみてください。今までの仕事経験を今後も活かしていきたいと思うのか、新しい分野で資格を生かしていきたいと思うのか、その理由など。オリジナルのワークシートを作成してみるといいですね。ワークシート作成やそれを使う体験も、すべて今後の支援に役立ちます。
4.キャリアコンサルタントのスーパービジョン(SV)とは
スーパービジョンとは、経験豊富なスーパーバイザーと対話しながら、ケースを深く理解し、自分の支援のスタイルを改善する「専門家のための学習プロセス」です。
キャリアコンサルタントの倫理綱領にも義務として明記されており、資質向上のために不可欠なことと位置づけられています。今後は専門職としての発達、自律を促す活動として資格更新要件の必須化も検討されています。
4-1.キャリアコンサルタントにスーパービジョンが必要な理由
スーパービジョンは実技能力を高めるために次のようなことを目的として行う、専門的な対話です。
1.ケース理解の深化
面談記録(逐語記録・事例記録)をもとに、相談者の語り、感情、背景をより深く理解する
2.支援技法の改善
質問、傾聴、構造化、情報提供など事例相談者の介入を専門家視点で振り返る
3.事例相談者自身の成長(自己理解)
自分の価値観、癖、思考パターンが支援にどう影響しているかを明確化する
スーパーバイザーは指導をする立場ではありますが、一方的にダメ出しをしたり、アドバイスを押し付けるものではありません。事例相談者の行った面談の意図を丁寧に理解し、尊重することをベースに一緒に課題を見つけていく対話です。ある意味、カウンセリング的な関わりでもあります。
4-2.スーパービジョンの進め方(実際の流れ)
実際にスーパービジョンを受ける際の手順についてご説明します。
1.日程、スーパーバイザー選択
希望の日程と指導者を選ぶ
2.逐語記録・事例記録の作成と提出
ロールプレイを行い、録音を取って振り返り、自ら逐語記録・事例記録を作成するこの過程が、気づきの第一歩になります。
手間がかかりますが、丁寧に作成しましょう。実際の面談について指導を受けたい場合は、ケース記録の形で、個人が
特定されないような加工をして提出します。守秘義務があることを忘れないようにしましょう。
3.セッションの実施
時間は60分〜90分程度、オンラインでの実施も可能です。スーパーバイザーと進める内容は基本的に次の通りです。
(1)ケースの事実を整理する
(2)事例相談者の介入の意図を分析する
(3)代替案の検討
(4)事例相談者の課題の明確化 ケースを通じて明らかになった癖、改善点
(5)次回の面談に生かせる行動目標設定 改善のための第一歩として具体的な行動として考える
(2)事例相談者の介入の意図を分析する
(3)代替案の検討
(4)事例相談者の課題の明確化 ケースを通じて明らかになった癖、改善点
(5)次回の面談に生かせる行動目標設定 改善のための第一歩として具体的な行動として考える
スーパーバイザーによって多少の違いはありますが、基本的にはこのような流れで行います。
4-3.スーパービジョンで得られる効果
スーパービジョンを受けることでどんな効果が期待できるでしょうか。
1.ケースの理解が深まる
セルフレビューやグループカンファレンスでも同じことが言えますが、ここでは指導者のもとに振り返ることで専門家としての視点がより深まり、客観的な学びにつながります。
2.自分の課題が明確になる
的確な指導の結果として自らの成長課題が見えてきます。
3.支援の質が安定する
迷いが減り、介入の意図がわかるようになるので、面談力が安定します。
4.倫理観が強化される
学ぶことによって自分の欠点に気づくことができます。自分の欠点に気づかないまま支援を続けることはクライエントのためにもよくありません。
5.相談者の変化が起きやすくなる
相談者に良い影響を与え、気づきにつながることで、より適切な支援ができるようになります。
まとめ
今回はキャリアコンサルタントの自己研鑽をテーマに、その具体的かつ身近な方法をご紹介いたしました。
スーパービジョンの効果や内容についてもより詳しく知っていただくことで、これも身近な方法に加えていただけることを期待しております。
ご自分にできそうな方法は見つかりましたか?
できそうだけど、まだ難しいと感じていることは何でしょうか?
「誰かが声をかけてくれたらいいのに・・・」
「自分だけで頑張るのは自信がない」
「時間か取れない」
「コストをかけたくない」
など、いろいろありますね。最後に、自己研鑽の原動力は「主体性」だということを忘れないでください。
私たちはクライエントの主体的なキャリア形成を支援する、キャリアコンサルタントです。
筆者

筆者:岩井 昌江 講師
取得資格;
産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント/1級キャリアコンサルティング技能士/交流分析士インストラクター
企業研修・大学生就職セミナー・再就職支援職業訓練での講師、高校生就職ガイダンス・交流分析をベースにしたコミュニケーション研修の実施等に幅広く事業を展開中。
取得資格;
産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント/1級キャリアコンサルティング技能士/交流分析士インストラクター
企業研修・大学生就職セミナー・再就職支援職業訓練での講師、高校生就職ガイダンス・交流分析をベースにしたコミュニケーション研修の実施等に幅広く事業を展開中。
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