キャリアコンサルタントのための組織への働きかけ実践ガイド〜組織が変わらない理由と対処法〜
自身が所属する組織の課題に向き合い悩んでいる方や、会社・組織に関する相談を受けることの多いキャリアコンサルタントに向けて、普段あまり体系的に考える機会の少ないテーマをわかりやすく解説します。
(想定読了時間:約8分)
・組織への働きかけ能力を高めるための基礎の理論を学びたい方
・チェンジエージェント(変革の促進者)として行うステップやプロセスを学びたい方
・組織への対応で苦しむクライエントのために、組織変革の困難さや変革についての支援方法を学びたい方
- 目次
1.はじめに
キャリアコンサルタントに来る相談には
「会社の人事異動の仕組みが理解できない」
「なんで上はわかってくれないんだ」
「マネージャーとして、組織を変えろと言われても難しいよなあ」
「うちの会社は保守的で」
のような「人と組織」に関するものが多く寄せられます。そんな組織(会社や各種団体)にかかわるキャリアコンサルタントのために、あまり普段は理論立てて考えない「その組織の特徴(組織文化)はどうやって生まれるの」「組織や上層部は、なぜ変わりづらいのか」その理由などをご説明したいと思います。その上で、組織にかかわる相談に対応するキャリアコンサルタントへの、ヒントをご提供できれば幸いです。
2.なぜ会社(組織)は変わりづらいのか
まず、なぜ「環境への働きかけ」が必要なのか。(それは、「働きかけ」がないと環境(会社・組織)はなかなか変わらないからです。)ではなぜ、「会社は変わりづらいのか」について、いくつかの角度からご説明したいと思います。全てを紹介しようとすると果てしないので、抜粋していることをご承知おきください。
(1)組織構造が硬直的
伝統的な会社は、機能別(職能別)組織という形態を取っていることが多いです。(図1参照)
【図1】
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これは、製造、営業、管理といった機能に応じて組織が分割されているのが特徴です。長所としては、分業により、専門性が発揮され、効率が上がります。一方、短所としては、機能別の利益が優先され、コンフリクトが発生しやすいことが挙げられます。部署をまたがっての問題は、なかなか手が出しづらい。全体最適より、個別最適の方がやりやすいのは、一因として組織構造に問題があるということも考えられます。
(2)組織には文化がある(組織文化の逆機能)
組織文化(企業文化)とは、企業の構成メンバーの間で共有された価値や信念、思考様式や行動様式などを指します。組織文化は、明文化はされていませんが、組織の構成メンバーの判断や行動に対して、少なからず影響を与えています。
組織文化は、組織全体に関わるもので、企業という集団内で各メンバーが相互作用しながら形成されますが、創業者や経営者が大きく影響を与えることがあります。例えば、創業者のメッセージや生き方・個性などが企業内に語り継がれて、組織文化を形成することがあります。
そして、組織文化には、功罪の両面があります。組織文化が確立されていることは通常、組織の一体感や効率性を高める「機能(プラス面)」として働きますが、環境変化などの特定の局面では、それが「逆機能(マイナス面)」として牙をむくことになります。組織文化にない行動、その文化にはそぐわない変革は、なかなか実行できないですし、実行に移そうとする際、組織の内外から様々な抵抗を受けます。
(3)組織には慣性がある
物理学における「慣性の法則」を組織に当てはめた概念です。簡単に言えば、「現在進んでいる方向や状態を維持しようとする(変化に抵抗する)組織の性質」のことです。
もし組織慣性がゼロ(=毎日ルールや方針が二転三転する状態)であれば、その組織は崩壊します。しかし、組織慣性が強すぎると、組織は変わることなく停滞し、環境の変化に対応できません。
「現在の成功を生み出している源泉(=強い慣性)」こそが、「将来の死因(=変われない)」になり得るということです。これを「慣性のパラドックス」といいます。(表1参照)
【表1】
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(4)サクセス・トラップ
企業は放っておくと必然的に「知の深化(右手)」に偏り、「知の探索(左手)」を怠るようになります。これを「コンピテンシー・トラップ(能力の罠)」または「サクセス・トラップ」といいます。
深化(右手)は、短期的には確実な利益を生み、成功体験(=強い組織文化・慣性)を作ります。探索(左手)は、失敗が多く、短期的にはコストと無駄ばかりで、利益を生むかわかりません。
結果、組織は合理的に判断すればするほど、「不確実な探索」をやめて「確実な深化」に資源を集中させます。しかし、環境が激変した瞬間、探索を怠っていた組織は適応できず、「深化しすぎた慣性」によって終焉を迎えます。新規提案がなかなか通らず、危機に気がついた社員の声がなかなか届きづらいのは、組織全体がサクセス・トラップに陥っているのかもしれません。
3.どうしたら会社(組織)はかわるのか
「会社を変えるのは、よそ者、若者、ばかもの」という言葉を聞いたことがありますか?(この言葉を改めて調べてみましたが、誰が最初に言ったのかはわからないようです。)私も、「若者」「ばかもの」の頃(ばかものは今もですが)、新規事業に取り組もうとして、前述の逆機能を実感しました。当時は理論に基づいての理解はしていなかったので、なんでこんなに苦労するのか理解できませんでした。変わりづらい組織をどう変えるのか。そのヒントも、ほんのいくつかだけになりますが、ご紹介したいと思います。
(1)組織構造へのアプローチ(ただし、一時的な効果になります。)
プロジェクトチームという組織形態があります。(図2参照)
【図2】
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プロジェクトチームは、恒常的な組織でなく、臨時発生的な組織で、一定期間に限り、各部門をまたがって戦略的課題を解決するために編成されます。課題が解決されると(または一定期間が経過すると)、各メンバーは以前の部署に戻ることが原則です。
経営陣の全面的なバックアップと、元の在籍部署の理解が不可欠です。あくまで、一時的な組織であるため、課題解決後、チームの機能をどう引き継いでいくのか(既存の組織に分割して担当させるか、新規部門を設置するか等)が重要となります。新規事業を成功させたい場合には、この編成を提案することも一案だと思います。(私もプロジェクトチームのリーダー経験があります。もう本当に大変でした・・・。)
(2)組織文化変革のための4つの具体的手段
このコラムをご覧になっている方の多くが、キャリア理論で「キャリア・アンカー」を提唱された組織心理学者のエドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein)氏の名前はご存じだと思います。そのシャイン氏や、組織行動論を研究されているスティーブン・P・ロビンズ(Stephen P. Robbins)氏は、以下の要素が強力なレバー(てこ)になると指摘しています。(表2参照)
【表2】
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レバー1はトップマネジメントや経営企画メンバー等が、レバー2.3は人事関係の方が注目されると思います。ただし、これらは単独で行うよりも、4つすべての整合性を持たせ、同時に実行することで、より強力な効果を発揮するとしています。これらのレバーを操作する際、最も重要なのは「一貫性」です。
一貫性が取れていない例を挙げてみます。社長が「挑戦してみよう(レバー1:トップマネジメントの言動)」と言っているのに、失敗した社員が減点評価(レバー2:人事評価・報酬システムの変更)され、採用面接では従順なイエスマン(レバー3:採用と社会化)を選んでいる。このようにレバー同士の方向性が矛盾していると、社員は「本音では変わる気がないんだな」と見抜き、冷笑的な文化(シニシズム)が生まれて変革は失敗してしまいます。人的資本経営でも提唱されている経営戦略と人事戦略の連動が、変革のためには欠かせません。
(3)組織学習の観点からの解決策
組織学習を変革に活かすという観点も必要でしょう。前の章の(2)組織文化の逆機能を乗り越え、両利きの経営を実現するためには、以下の2つのアプローチが必要になります。
※2章(4)項のサクセス・トラップでご紹介した、「知の深化(右手)」と、「知の探索(左手)」を両立させる経営のことを「両利きの経営」といいます。
@ 構造的両利き チャールズ・A・オライリー(Charles A. O'Reilly III)とマイケル・L・タッシュマン(Michael L. Tushman)が提唱しました。
方法: 既存事業(深化)と新規事業(探索)の組織を完全に分離する。うまく行っている経営資源(お金や人材等)は利用するが、組織構造ややり方は別にします。
理由: 同じ箱(文化)の中で「効率を上げろ(深化)」と「失敗してもいいから実験しろ(探索)」という矛盾する命令を出すと、現場は混乱し、強い方(深化)に押しつぶされるから。
ポイント: トップマネジメント層だけは統合し、既存事業の資源(カネ・ヒト)を新規事業へ配分する権限を持ちます。
A 文脈的両利き クリスティーナ・B・ギブソン(Cristina B. Gibson)とジュリアン・バーキンショー(Julian Birkinshaw)が提唱しました。
方法: 組織を分けず、個々の従業員が日々の業務の中で「深化」と「探索」を使い分けられるような組織文化(文脈)を作ります。
条件: 上司の顔色を伺わずに自律的に動ける「規律」と「支援」の文化が必要です。文化を形成するためには、経営者のメッセージや、実際の成功例を「物語」化することが必要で、かつ、ある程度の時間の余裕と、自由と失敗を許容するリーダーの存在が必要になります。
4.まとめ:社員の相談に対応するキャリアコンサルタントのために
これまでの内容は、経営や人事に関わろうとしているビジネス・パーソンには、関心のあることだと思いますが、人事以外の現場のキャリアコンサルタントには正直、なじみにくい、難しいと感じられた方もいらっしゃるかもしれません。ここからは、環境への働きかけ・分析に関する知識を面談にどのように活かしていくかの視点もご提供したいと思います。
例、クライアントが「部署異動を希望しているが通らない」と相談に来ました。
さあ、今回の学びをどう活かしましょうか。
こんな切り口はいかがでしょう。
⇒組織構造の分析(この会社はどの形態?例:機能別組織だから、部門間の壁が厚く、異動にはトップの承認が必要かも?)
2.この組織には、どんな慣習があるの?
⇒組織文化・慣性の分析(例:「前例がない」と言われるなら、リスク回避文化が強い。→ 前例に近い小さな実績を作ってから提案しよう)
3.どこを押せばこの組織は動きますか?
⇒組織文化の変革プロセス(変革のレバー)(例:人事評価制度が変わったタイミングなら、「新しい評価基準に合う行動です」と言えば通るかも?)
こんな風にぜひ、実際の相談に結びつけながら、組織に関する学びを続けてみてください。
ポイントは、「個人の声を組織に届ける“翻訳者”になること」です。
・キャリアコンサルタントは、社員の声をただ集めるだけではなく、“組織が動ける形に翻訳して伝える”ことが価値になります。
・「個人支援 → 課題の傾向把握 → 組織への働きかけ 」という流れをつくれると、企業内での存在感が一気に高まります。
・組織の問題を捉えるために、「組織の特徴」も頭の片隅にいれておくことを心掛けてください。
5.参考文献と今後の学び
今回の主な参考文献は
・入山章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社/2019年
・チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン(渡辺典子訳)『両利きの経営』東洋経済新報社/2019年
・スティーブン・P・ロビンス(木春夫訳)『【新版】組織行動のマネジメント』ダイヤモンド社/2009年
・E.H.シャイン(尾川丈一監訳・松本美央訳)『企業文化 改訂版』白桃書房/2016年
です。
入門書としては
・金井 壽宏『経営組織』日経文庫/1999年
は手ごろでおすすめです。
私は、中小企業診断士の1次試験「企業経営理論」の組織論や、2次試験「事例T(組織人事の事例)」や、ファイナンスMBAの学びの過程でも、組織についての学びを得てきました。
ただ、いきなり診断士やMBAではハードルが高いなという方は、経営の学びの入り口として、東京商工会議所の「ビジネスマネージャー検定」を取ってみるというのもありかもしれません。その他、更新講習でも、組織に関するものが増えてきていますので、ぜひ調べてみると良いと思います。
私は、中小企業診断士の1次試験「企業経営理論」の組織論や、2次試験「事例T(組織人事の事例)」や、ファイナンスMBAの学びの過程でも、組織についての学びを得てきました。ただ、いきなり診断士やMBAではハードルが高いなという方は、経営の学びの入り口として、東京商工会議所の「ビジネスマネージャー検定」を取ってみるというのもありかもしれません。その他、更新講習でも、組織に関するものが増えてきていますので、ぜひ調べてみると良いと思います。
筆者

取得資格;
中小企業診断士/ 1級キャリアコンサルティング技能士/国家資格キャリアコンサルタント/ファイナンスMBA(ファイナンス修士)/ビジネスマネージャー検定/基本情報技術者/簿記(全経上級/日商2級) ほか
1967(昭和42)年生まれ
中学時代3年間不登校を経験し、その後、大学まで卒業。在京ラジオ局に入社後、スポーツ部、営業部、デジタル事業局、編成部等で計17年弱勤務。中高年になってからの転職を3回経験した末に、現在の株式会社セレナに入社。
求職者支援訓練に参入するのをきっかけに同社代表取締役に就任。また訓練のキャリアガイダンスや簿記講師として現在も教壇に立ち、訓練キャリコンの育成にもあたっている。
さらに、LECの中小企業診断士講座講師として、1次企業経営理論(組織論)、中小企業経営政策などを担当、大学や企業でも講義を行っている。求職者支援訓練における就職支援に活かすため、キャリアコンサルタント養成講座をLECで受講して、標準+技能士2級ストレート合格を運よく果たす。合格後は、千葉労働局就職支援セミナー、ジュブカフェちばの「やりたい仕事探し」セミナー等の実務にも従事している。
ラジオ番組制作の経験を活かし、講義は、情報量豊かに、感情にも訴える独特の講義スタイルを取っている。
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