キャリアコンサルタント資格を現職企業内で活かす取り組み〜Well-being支援室の実現と推進〜
企業内キャリアコンサルタントが語る、社員の悩みに寄り添うことと組織の成長を両立させる「Well-being支援室」の実践事例とそこで得た知見、キャリア支援と健康経営を結ぶ取り組みをご紹介します。
- 目次
1.キャリアコンサルタント資格取得までの経緯
新卒からインサイト産業(主にマーケティングリサーチ領域)で30年以上継続して勤務。現在はマネジメント職として従事し、関係会社の運営にも携わっています。
2020年以降、新型コロナウィルス感染拡大を契機として、一気にリモートワーク中心となるなど、働き方や考え方が多様化し大きく変わりました。そのような中で、私自身が「これまでの経験だけで社員の幅広い相談に本質的な意味で呼応するのには限界がある」と感じていた矢先に「キャリアコンサルタント」という資格に出会い、キャリアやカウンセリングについて体系的に学ぼうと直感的に駆り立てられました。
併せて50代に入り、自分自身の漠然としている今後のキャリアビジョンに関して、自ら考えるきっかけやその後の助けになるのではとも感じ、養成講座のスクーリングを経て、国家資格キャリアコンサルタントを取得しました。その後、2級キャリアコンサルティング技能士をはじめ、2級ファイナンシャルプランニング技能士や両立支援コーディネーター、健康経営アドバイザーなど、企業内でのライフキャリア全般の支援に関連する資格取得を進めました。
2.Well-being支援室の実現に向けて
企業内キャリアコンサルタントとして、日々多様なキャリア相談をはじめ、メンタル面やコミュニケーション面など、個人と組織の課題解決に取り組んできました。その中で今、強く感じているのは「誰もが安心して自分らしく働くこと」の難しさと重要性です。
現代の職場環境は、働き方の多様化や価値観の変化、DXや人・リソース不足など、従来の枠組みを超えるスピードで変化しています。こうした中で、社員一人ひとりが心身の健康を保ちながら主体的にキャリアを築くには、従来の人事制度や福利厚生だけでは対応しきれない状況が生まれています。
キャリアコンサルタント資格を取得した後、それを自身が担当する部門のメンバーをマネジメントするのに活かすことと併せ、私の資格取得を知った役員の勧めもあり、会社内で同じような意思を持っていた方々(心理カウンセラー有資格者や役割上日頃から色々な相談を受けることがあった労務担当マネージャー等)と共に、社員個々のキャリアやメンタルなどについて気軽になんでも相談できる会社内の保健室のようなポジショニングを目指した社内窓口「Well-being(ウェルビーイング)支援室」を新設しました。
これは社員のための「なんでも相談室」として、日常の悩みやキャリアについての迷い、人間関係の困りごと、メンタルヘルス領域などに寄り添う社内組織です。私は兼任にて室長として運営を統括しつつ、キャリア相談員としても相談者(社員)一人ひとりに伴走しています。
本稿では、キャリアコンサルタント資格を企業内でどのように活かし、Well-beingの考え方をどのように具現化してきたかを、実践を交えながら整理してお伝えしていきたいと思います。
そして、組織名として用いた(想いを込めた)【Well-being(ウェルビーイング)】について。そもそも【Well-being】という概念が注目されて久しいですが、実際に企業活動に取り入れるには、理念だけではなく明確な目的と仕組みが必要だと思っています。Well-beingの基本的な考え方や社会的背景、政治・行政・国際的な動向、日本の幸福度の現状を踏まえ、企業にとっての意義を整理した上で、私たちの企業内におけるWell-being推進の具体的アプローチと、その過程で見えてきた課題や可能性について、現場の視点から共有したいと思います。
2-1.Well-beingの基本概念と注目される社会的背景
Well-beingとは、世界保健機関(WHO)が1946年に定義した「健康とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態である」という理念に基づく概念です。単に病気ではないことではなく、生活全体の質(Quality of Life)を重視する考え方として発展してきました。
近年では、経済的成功よりも「人生の満足度」や「人間関係の豊かさ」など、主観的幸福感を中心とする考え方やアプローチが注目されています。コロナ禍を契機に、孤独・孤立・メンタル不調といった課題が顕在化し、企業においても従業員の幸福度や心の健康が経営課題として認識されるようになりました。
Well-beingの本質は、「個人が自分の価値を実感し、社会と良好に関わりながら生きる状態」を実現することにあります。企業内キャリアコンサルタントとしての実感としても、キャリア形成支援とWell-beingは深く結びついており、「自分らしく働ける状態」をいかに支援するかが、企業の成長にも直結すると感じています。
2-2.政治・行政の取り組みと世界の動向
世界的に見ると、Well-beingは経済指標に代わる「国の豊かさの新しい基準」として位置づけられつつあります。英国では2011年に「国家幸福度測定制度」を導入し、主観的幸福度を国の統計として活用しています。ニュージーランドやフィンランドなどでは「Well-being予算」や「幸福国家戦略」が展開され、政府が幸福度を政策のKPIとしていたりします。
日本においても、内閣府が「幸福度指標研究会」を設置し、主観的幸福度の測定や指標化について公表しています。また経済産業省では、健康経営を実践している企業を見える化すること、従業員や求職者、関係企業、金融機関などから社会的評価を得られる環境を整備することを目的とした「健康経営優良法人」制度が確立し、企業のWell-being推進が評価される時代になりました。さらに2023年には、デジタル庁や民間企業が連携し、データに基づく「ウェルビーイング指標」の標準化も進んでいます。
こうした世界的潮流を踏まえると、Well-beingは単なる流行ではなく、持続可能な社会と経済を支える構造的テーマであることが明確です。企業においても、これを戦略的経営テーマとして位置づける視点が求められています。
2-3.日本の幸福度ランキングの現状
国連機関「世界幸福度報告書(World Happiness Report)2025」によれば、日本の世界幸福度ランキングは55位(前年51位)と、先進国の中では依然として低位にあります(因みに1位はフィンランド:8年連続)。特に「社会的支援」「人生の選択の自由度」「他者への信頼」といった項目でのスコアが低く、個人が安心して自己実現を追求できる環境が十分に整っていない現状が浮き彫りになっています。
この背景には、働き方や人間関係における「心理的安全性の不足」や、「過剰な責任感・同調圧力」といった文化的要因も存在するといった意見も見受けられます。企業がWell-beingを推進するということは、単に健康を守るだけでなく、こうした社会的・文化的な構造を見直すことでもあります。
その意味でもキャリアコンサルタントには、企業内において個人支援と組織開発の橋渡し役としての役割が期待されるのではないでしょうか。Well-beingの視点を持つことで、個人のキャリアをより深く支援し、組織変革にもつながる可能性を拡張することができるのではないかと考えます。
2-4.企業にとってのWell-beingのメリット
企業がWell-beingを重視することには、複数の実利的メリットがあります。
先ず第1に「従業員エンゲージメントの向上」です。社員が心理的に安心できる環境で働くことで、創造性・生産性・定着率が高まります。
第2に「採用等のコーポレート・ブランディング効果」です。Well-being経営を掲げる企業は、求職者から"人を大切にする企業"として認識されやすく、採用競争力が向上します。
第3に「健康経営やESG投資との親和性」です。Well-beingはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」にも通じており、社会的評価の高い経営指標として注目されています。
私自身の経験からも、社員一人ひとりが"大切にされている"と感じられる環境は、組織全体の信頼感を醸成し、結果として業績向上にも寄与します。Well-being経営とは、単なる理念ではなく、企業の持続的競争力を高める実践的戦略なのではないでしょうか。
2-5.Well-being支援室創設までのプロセス
Well-being支援室を立ち上げるにあたり、まず着目したのは「誰もが気軽に相談できる安心の場」を社内に作ることでした。従業員へのヒアリングやこれまでの経験などを通じて、日常的に困っていることは、キャリアパスや能力開発、働き方・育児や介護との両立、人間関係、メンタルヘルスなど、大小多岐に渡る課題で、「不安」が存在していることが分かっていました。これらに早めに気づけず放置することになってしまうと、メンタル不調をはじめ休職・退職等に発展するリスクが増幅します。
そこで、キャリアコンサルタントや心理カウンセラー資格を有するメンバーを中心に、相談体制を設計しました。心理的安全性を確保するため、守秘義務・予約方法などの制度を構築し、明文化しました。また、産業保健スタッフや人事労務部門とも連携し、必要に応じて専門機関への紹介ルートも整備しました。
立ち上げ当初は利用促進が課題でしたが、「定例相談日設定」や「随時相談対応」、「外部専門家招聘によるセミナー開催」、「Well-being支援室の相談員によるミニセミナー開催」といったカジュアルな取り組み等も通じて徐々に浸透していきました。現在では、メンタル・キャリア・人間関係など多様なテーマで相談が寄せられています。
この経験から、制度を作ることよりも“信頼を築くこと”こそが、Well-being支援の核心だと感じています。
3.Well-beingを従業員に推進するための取り組み
企業内でWell-beingを根づかせるためには、仕組みや制度だけでなく、「社員一人ひとりが自分ごととして捉えられる文化づくり」が重要です。本章では、組織全体としての健康経営の推進と、Well-being支援室が果たしている役割・課題について触れつつ、「Well-being(ウェルビーイング)支援室」の現状と見えてきた課題についてお伝えしていければと思います。
3-1.組織全体での健康経営と注意点
健康経営の基本は、従業員の健康をコストではなく投資と捉える考え方にあります。企業が社員の健康や幸福を支援することは、結果として生産性向上や離職防止に直結します。近年では「プレゼンティーズム(出勤・稼働しているが何らかの心身不調で業務効率・生産性が低下している状態)」や「アブセンティーズム(健康問題による欠勤)」の削減が重要視されており、Well-beingの視点はその根幹を支えます。
ただし注意すべきは、健康経営やWell-being推進が「管理的」になりすぎないことです。「会社が健康を強制する/管理監督する」という印象を持たせてしまうと、社員は逆にストレスを感じる可能性があります。大切なのは、会社が支援する“仕組み”と、社員が自律的に選べる“自由”のバランスです。
そのため、私たちWell-being支援室では相談者に対して「一人ひとりが自分のWell-beingを考える機会」を重視しています。例えばキャリアカウンセリングの中で「自分にとっての幸福な働き方とは?」と投げかけて考えを一緒に整理したり、気づきを与える機会をできるだけ設けるようにしています。相談員として活動する際はいわゆる“上司”ではありませんので、上長の判断スピードや指示・命令などとは異なる対峙の仕方ということになります。地道な努力ではありますが、こうした対話を通じて社員自身が“自分のWell-being”を定義できる(せめて考える機会を創る)ことが、真の推進につながると考えています。
3-2.Well-being支援室の現状と課題
Well-being支援室は現在、社内における信頼のある「社員の保健室」として機能しはじめています。キャリア相談・メンタル相談・働き方・育児や介護との両立支援・人間関係調整といった個別支援のほか、社内セミナーや社員が自分自身で相談先として選択できる外部メディカルカウンセラーとの連携など、組織全体への波及も進め、以前の相談を受ける場=受動型から、少しずつですが発信などもして能動型へシフトしていっています。
一方で、まだまだ課題も少なくありません。以下に3つ程挙げてみます。
1つ目は「相談文化の定着化」です。日本のビジネスパーソンは、悩みを外に出すことへの心理的抵抗が根強く、支援室の存在を知っていても利活用に踏み切れないケースがあります。これに対し、私たちは「相談=前向きな行動」であるというメッセージを繰り返し発信し、経営サイドも巻き込んで対話の文化づくりを進めています。
2つ目としては「支援の可視化とデータ活用」です。守秘義務・個人情報を守りつつ、社員から見たWell-being支援室についての現状について定期的にアンケートを実施し分析を行い、評価と課題の早期発見につなげています。データに基づいたアプローチは、感覚ではなく“エビデンスに基づくWell-being経営”を実現するために大変重要です。そして、まだ我々に相談したことがない社員のポテンシャルや要望などを把握・確認することは、今後のWell-being支援室運営の方向性を左右します。
そして3つ目は「支援者(相談員)自身のWell-being」です。相談員は全員兼務にてこのWell-being支援室の活動を行っています。主軸は他の組織に属し業務を遂行していますので、支援者(相談員)自身が疲弊しないよう、また相談員のカウンセリングスキル向上のためにも、スーパービジョンやピアサポート(ピアスーパービジョン)の機会を設け、自己研鑽に励むことと併せてチーム全体で支援体制を維持し成長することを心掛けています。
まとめ
企業におけるWell-being推進は、「個人の幸福」と「組織の持続可能性」を両立させる新たな経営課題です。キャリアコンサルタントは、その中で【人を理解し、つなぎ、支える専門家】として重要な役割を担っています。
Well-being支援室の運営を通じて私が実感しているのは、制度や仕組みの前に「信頼」と「対話」が必要だということです。社員が安心して自分を語り、他者とつながれる場をつくることこそ、企業のWell-beingの出発点です。
これからも、キャリア支援やカウンセリングの専門性を活かしながら、社員一人ひとりが「自分の人生を主体的にデザインできる組織」を目指して、他のカウンセラーなどの仲間たちと共に取り組みを成長・進化させていきたいと考えます。
筆者

取得資格;
国家資格キャリアコンサルタント/2級キャリアコンサルティング技能士/NPO生涯学習認定キャリアカウンセラー/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/両立支援コーディネーター/メンタルヘルス・マネジメントU種/健康経営アドバイザー/高齢社会検定(総合コース)他
インサイト産業において多くの業種・クライアントのマーケティング関連業務に従事。現在は担当部門のマネジメントに加え、社員のライフ・キャリア、メンタルヘルスなどの相談に寄り添う
「ウェルビーイング支援室」室長を兼務し、企業内キャリアコンサルティングを実践中。
また、中高大各学生向け職場体験授業/職業・就職活動フォーラムなど企画運営や講師、社会で活きる学びを提供する小中学生向け講座レギュラー講師としても活動中。
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