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弁護士の新しいフィールド
〜これからの弁護士は新たなライフスタイルの創出が必要〜

伊藤茂昭氏 前日弁連弁護士業務改革委員長/日本弁護士政治連盟幹事長/日本弁護士連合会立法対策センター副委員長/シティユーワ法律事務所パートナー

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役


反町

近年、法科大学院も本格的に稼動し、新司法試験も始まって、多くの法曹が誕生しています。とはいえ、弁護士過疎地域の問題を解消するには至っておらず、まだまだです。その一方で、都市部を中心に弁護士の就職難といったことが懸念されています。伊藤先生は、長年、弁護士の活動領域拡大に取り組まれてきたお立場から、これをどのようにご覧になっていますか。

伊藤

現在、司法制度改革によって進められている法曹人口の増大は、社会が高度化、複雑化、国際化する中、国民が求めるリーガルサービスを弁護士が十分に提供していない、弁護士の在り方に不十分な面 があると認めざるを得ない、という認識に基づいてのものであり、過疎化対策、専門化対策、国際化対策等を積極的に推進していくために必要なものです。つまり、これまでの弁護士のリーガルサービスに加え、社会の変化に伴って生まれる新しいニーズ、新しいリーガルサービスに対応するための弁護士が必要なわけです。したがって、まずはどこかの法律事務所でノウハウを覚え、独立するといった従来のライフスタイル以外のあり方があってしかるべきなのです。これまでの司法試験合格者より数的に多い新司法試験合格者が、皆、従来のライフスタイルを求めていたら、あぶれる人が出て当然で、「就職難」となります。今は、企業の法務部や地方公共団体と弁護士を求めているところは多岐にわたっていますので、そういったところで多様な経験を積んで、新たな弁護士のライフスタイルを開拓して欲しいと思っています。

反町

弁護士の新しい活動領域として、具体的にどのようなものが挙げられますか。

伊藤

弁護士の新しい活動領域の表れとして、企業内弁護士・組織内弁護士を充実させる動きがありますね。 また、地方公共団体との連携もあり、任期付き公務員なども出ていますね。 例えば、東京弁護士会は、足立区と連携して債権回収の条例作りやそのノウハウの教育なども手がけています。 また、全国で包括外部監査人への就任の運動なども行っております。 要は、新分野を開拓していこうということです。

反町

企業では、今、特に需要が高いのではないでしょうか。 今年4月に施行された日本版SOX法による内部統制で、各企業とも監査やコンプライアンスの徹底など、 法律・会計の知識が必要とする場面がよりいっそう多くなっていますから。

伊藤茂昭氏(前日弁連弁護士業務改革委員長/日本弁護士政治連盟幹事長/日本弁護士連合会立法対策センター副委員長/シティユーワ法律事務所パートナー)

伊藤

そうですね。現在、組織内弁護士協会の加入者だけで、260人くらいおり、急速に増えつつあります。

反町

そのメンバーは常勤ですか。

伊藤

もちろん常勤の人数です。法律事務所に登録しそこに籍を置いてそこから企業に派遣されているという人も相当いますが、 この数字は、そういう人を除いての純粋数です。 事務所に籍をおいて、企業に行っている人は、リストに入っていません。 届出の事務所自体が、企業の中にある場合だけリストに入ります。

反町

企業の中に従業員として登録している、雇用契約を締結している人ですね。ほかに社外取締役であるとか、社外監査役もいますね。

対談風景

伊藤

現在、組織弁護士内協会理事長の梅田弁護士が、企業内弁護士推進のため、 講演などして一生懸命取り組んでいますが、企業によって反応はさまざまですね。 とある大企業は、最近、弁護士を大勢採用して積極的です。 しかし、別の大企業は、大学の法学部を出た人が法務をやっているから必要ないという発想で、 何とか1人採ろうかという話になっても、法務関係の部の人の理解が得られない場合もあります。 社内の法務関係の人は、あくまで自分たちがハンドルを握り、 弁護士は訴訟になったときに使えばいいと思っているわけです。 しかし、これからの時代、上層部の経営判断をもって法律のプロである弁護士を積極的に採用し、 経営の体制を整えていかなければなりません。まずは1人でも弁護士が採用されることです。 そこで「役に立つ」と思われれば、さらにもう1人次は指導体制があるから新人弁護士でもよいとなり 採用の間口が広がっていきます。 そうなっていかないと、いつまでたっても経験ある人をくださいとなってしまいます。

反町

そうですね。外資系は、結構積極的ですよね。外資系にいる弁護士は、本当にイキイキとやっている。

伊藤

私の事務所に勤務していた弁護士でも福岡の銀行に就職している 弁護士がいますし、事務所に籍を置いて、企業に2年間というような形で勤務して いる弁護士もいます。これからどんどん増えていくでしょうね。

反町

情報が多くて勉強になるのでしょうね。お給料はどうですか。

伊藤

これから弁護士になろうという人も、法律事務所に入って、何にもやらなくても来た事件やっていれば年収600万円とかいう時代ではない、ということをまず理解して、新しいところへ果敢に飛び込んでいって欲しいと思いますね。

反町

積極的にやるのであれば、企業がいい就職先でしょうね。いくら勉強しても終わらないほど仕事の範囲も広くて、やりがいは十分ではないでしょうか。ただ、弁護士としての実績、成果が表に出にくいなど、ネックになるところもあるかもしれませんね。それでも、やはり新しい弁護士のあり方のひとつとして、確立して欲しいですね。 本日は、ご多忙の中、ありがとうございました。


≪ご経歴≫
前日弁連弁護士業務改革委員長/日本弁護士政治連盟幹事長/日本弁護士連合会
立法対策センター副委員長/シティユーワ法律事務所パートナー
伊藤 茂昭(いとう しげあき)
新潟大学医学部中退。1977年中央大学法学部卒業。1980年弁護士登録(32期)。日本弁護士連合会事務次長(2001年3月〜2003年3月)。日本弁護士連合会常務理事、東京弁護士会副会長(2005年4月〜2006年3月)。日本弁護士連合会業務改革委員長(2006年6月〜2008年5月)。自らローファームのパートナーとして、多忙な本業に勤しまれている傍ら、司法制度改革の新たな立法がなされた時期には、日本弁護士連合会の事務次長としてその現場で直接関与し、直近では、日弁連の弁護士業務改革委員長として、今後の日本の弁護士業務のあり方についてその方向性を語る。

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