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行政書士の活躍するフィールド

畑 光氏(行政書士/日本行政書士政治連盟会長)

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

半世紀以上にわたって行政書士としてご活躍の傍ら、「国民の利便性の視点」から行政書士制度を考え、日本行政書士政治連盟会長として行政書士の業務拡大・地位向上のためにご活躍されている畑光先生に、今後の行政書士の展望についてお話をうかがった。


■ まちの法律家を目指して

反町

行政書士が活躍できる分野は非常に幅広く、他の法律専門職の法律で定められている内容以外はすべての業務を行うことができます。

畑 光氏 行政書士/日本行政書士政治連盟会長

畑

従来は、書類作成のみが可能な代書人で、作成した書類の提出代行をするにとどまっていたのですが、平成13年の改正により、作成した書類の提出代理が行えるようになったほか、民事契約書を代理人として作成できるようになりました。そして、平成20年には、不利益処分前の行政手続法の「聴聞代理権」と「弁明代理権」を得ました。
今後は、行政書士の許認可業務と非常に深い関わりがある、不利益処分後の不服申し立て(異議申し立て・審査請求・再審査請求)を代理人として行えるようになれればと考えています。

反町

行政書士が審査請求や再審査請求を代理人として行えるようにするにあたっては、弁護士法との兼ね合いがあると思われます。

畑

そうですね。所管する省庁や関連法令との兼ね合いもあり、決して簡単なことではないでしょう。
不服申し立てというのは弁護士法第72条(※1)に明記される「争訟性」のある業務、いわゆる法律事件の法律事務に該当します。以前、近所の方に「不服審査をお願いします」と数万円の固定資産税の不服申し立てをお願いされたものの、弁護士法の兼ね合いで引き受けられなかったのには参ってしまいました。
弁護士の方を紹介すると言っても、数万円の不服申し立てをするのに弁護士では…と、尻込みされてしまいました。

反町

なるほど。今後は、国民の利便性という面からも、簡易裁判所と同じように対象案件の金額で切る、といったことも視野に入れて、関係各所と考えていくということですね。

畑

包括的にすべてを受けるというのは難しいですから、対象案件を絞っていくことになるでしょう。不服申し立てに限らず、他にも軽微な自転車事故など、対象案件の金額が小さい案件にも、「まちの法律家」として関わっていけるようになれればと考えています。
そのためには、他の士業の法律をよく考えなければなりません。

■ 職域を踏まえつつ広がりを

反町

司法制度改革(※2)では、法律専門職間で、さまざまな議論がされました。その過程において各々の法律専門職が、自分達の職域を改めて意識したかと思います。改革を経て、各法律専門職がその専門性を活かして仕事に広がりを見せていますが、職域を意識する場面は多いのではないでしょうか。

畑光氏、反町勝夫対談

畑

例えば、ゼロワン地域(※3)では、非常に難しい問題が発生しています。
弁護士も司法書士もいないといったようなところでは、依頼者の利便性を追及することと行政書士の職域を守ることとを両立させることは非常に悩ましいところです。
弁護士法第72条に抵触する内容の依頼があった際、「遠くの弁護士さんのところへ行ってください」とは、なかなか言えない。

反町

行政書士しかいない地域で開業をしていると、行政書士業務以外のことも「先生お願いします」と依頼されることは決して少なくないでしょう。

畑

そうですね。「先生一緒に来てください」、「先生お願いします」と言われると、本当に頭を抱えます。ボランティアでお付き合いすることはできますが、報酬を受け取ってしまうと、問題となってしまうわけです。
足代ぐらいと言って1万円を置いていこうとする方もいらっしゃいますが、これも受け取ることはできません。

畑 光氏 行政書士/日本行政書士政治連盟会長

反町

お金を受け取らなければ良いというのは簡単ですが、プロとして仕事をする以上、ボランティアというわけにはいきませんから、難しいところです。報酬ならまだお断りすることもできますが、お弁当やお土産を渡されたときに「いりません」とつき返すわけにはいけません。

畑

大学において、無償で法律相談を行っているところもありますが、これも同様の問題が発生します。
とはいえ、行政書士は、他の士業の法律で禁止されているもの以外、すべての書類を作成することができることもあって、業務の新規開拓が盛んに行われています。
そのような中、ADR(Alternative Dispute Resolution/裁判外紛争解決)は非常に注目されます。
行政書士として活躍されている女性の先生が山形県の県知事になるといったことも出てきています。今後もこのような明るい話題が行政書士会からどんどん出てほしいですね。

反町

行政書士制度の発展は、国民の利便性を向上する上で非常に重要になってくるでしょう。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(※1) 弁護士法第72条
「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

(※2) 司法制度改革
1999年から行われた日本の司法制度全般に関する改革。司法制度改革の一環としてADRの拡充、裁判員制度の導入、隣接法律専門職へ権限拡大といった改革が行われている。

(※3)ゼロワン地域
弁護士の登録が0人または1人しかいない地域をいう。

≪ご経歴≫

行政書士/日本行政書士政治連盟会長
畑 光(はた あきら)
1957年行政書士資格取得、現在、業務拡大・地位向上のために活動をする傍ら、国際行政書士協会(IGA)を開設し、後進の指導育成にもあたるなど、多方面で精力的に活躍している。著書に『許認可申請 Memo』(改訂版/新日本法規出版・2009)、『有限会社の設立と運営のすべて―チャンスを活かす失敗しない会社づくり!』(日東書院本社・1997)など。

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