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企業内弁護士が増えれば、弁護士の専門性も変わる

芦原 一郎氏 弁護士/アフラック上級法律顧問

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

近年、企業内弁護士は増加傾向にあるものの、弁護士の就職先として依然として人気なのは法律事務所であり、弁護士の就職難にあると取り沙汰されている。しかし、企業や行政庁など、本当に弁護士が必要なところに弁護士がいっておらず、もっと企業内弁護士への理解が必要である。そこで、企業内弁護士として豊富な経験をお持ちの芦原氏に、企業内弁護士の使命や実態、魅力について、お話しいただいた。


■ 実務は経験が重要

反町

芦原先生はアメリカのニューヨーク州の弁護士資格もお持ちですね。アメリカではBar/Bri(バーブリ)が、司法試験対策の講座を実施していますし、LECでも日本国内での販売を引き受けていますが、先生もBar/Briを使われたのでしょうか。

芦原 一郎氏 弁護士/アフラック上級法律顧問

芦原

Bar/Briは使いました。アメリカの場合、ロースクールで教える内容と試験の内容はほとんど関係ないため、Bar/Briがないと受かりません。それに比べて、日本のロースクールは、実務に関しても試験に関しても近い授業内容にされていると思います。

反町

それでも、実務は基本的に座学ではなかなか難しいですね。

芦原

おっしゃる通りです。

反町

もちろん社会で実務やってきた人が座学というのであればいいのですが、実務経験のない人が座学で実務を身につけようというのは無理があると思います。

芦原

中小企業経営者の切実な資金繰りの苦しさなど知らないと「なぜ白地手形を出さなきゃいけなかったのか」「そもそも白地手形を出すのがおかしいだろう」と言う受験生もいます。そういう問題ではありません。

反町

単に、「出した人が悪い」というのでは、解決しません。

芦原

身もふたもないことになってしまいますね。


■ 企業内にいるからこそ最適なリスクの取り方を考えられる

反町

日本組織内弁護士協会によると、企業内弁護士は2008年12月末の時点で346人と出ており、前年と比べて100人ほど増えています。近年、認知度、注目度ともに高まってきている証左でしょう。長年、企業内弁護士を務めてらっしゃる芦原先生は、企業内弁護士のよさについてどのようなことを挙げられますか。

芦原

企業内弁護士に何の価値があるかというと、まず、会社の外で、弁護士として、極限的な状況を見ていることが挙げられると思います。自分は当事者でないにしても、刑事事件になると、被疑者なりが留置所でどんなに惨めな思いをして弁護士との接見を待ち遠しく思うか知っています。また、仕事柄、倒産処理、自己破産、多重債務で世の中の壁に落ち込んで、もがき苦しむのをまざまざと見せつけられることも多々あります。そのような、世の中の極限的な状況に立ち会ってきているからこそ、会社の中において、「そっちに行くと危ない」といったことが言えます。

反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

反町

意思決定の場に法的考え方が入っていくことは大事です。それも最初の段階で入るようにしないといけません。

芦原

弁護士が会社の外にいると、社内の方といっしょになってリスクをとるということがあまりありません。したがって、企業内弁護士の価値としてもうひとつ挙げるとしたら、リスクのとり方をいっしょに考えることができるということだと思います。訴訟は、言わば知的な原因分析です。その知的な原因分析をやってきている弁護士は、ビジネスの場に入ったとき、何が原因でつまずくかといったイメージ、想像力はほかの人よりあります。したがって、会社のうまいリスクの取り方をイメージし、お手伝いするのにもかなり役に立つはずです。

反町

ビジネスマンにとって、法的に物事を見て、リスクを避けていく、感知する能力というのは非常に必要です。特に現場における些細なミスが大変な損害になるということが日常茶飯事になっている現在、重要なことです。
企業の立場からすると、会社の外にいる弁護士はあまり会社の意思決定には役立ちません。外にいる弁護士が会社でどこの役に立つかというと、本当の訴訟の現場に入るくらいです。であれば、むしろ弁護士を中に入れて、そこで外部の先生と共同した方がずっと会社にとってプラスではないでしょうか。また、外の弁護士だと、一つひとつの案件はやっても、継続的にやるということはありません。

芦原

そうですね。弁護士は企業内外ともにいいところがあると思います。


■ 今後、弁護士の専門性は変わる

反町

企業内弁護士が増えていけば、企業はもちろん、弁護士にもさまざまな変化が出てくるかと思いますが、芦原先生はどのような変化が出てくると思われますか。

芦原 一郎氏 弁護士/アフラック上級法律顧問

芦原

今後、企業内弁護士が増えていくことで、弁護士の専門性は変わると思います。今までの専門性というと、会社法や独禁法、労働法など業界・業態に関係のない、業界横断的な専門性でしたが、企業内弁護士が増え、各種業界のエキスパートが出てくると思われます。例えば私が所属するアフラックで、社内弁護士をやって独立した弁護士は、保険のプロです。保険のような規制の強い業界だけではありません。私の知人の女性弁護士は、とある映画会社の社内弁護士やっていていたときに、ぼやっとしていた業界のルールをつくったそうですが、今はエンターテイメント知的財産ビジネス専門の法律事務所のメンバーとしてご活躍されています。このように、弁護士の中に業界の専門家というのが今後はできていくと思います。実際、アメリカでは、既に弁護士の中に業界ウォッチャーがいて、業界の専門家が出てきています。

反町

なるほど。

芦原

社内弁護士となって業界通になるというのは、業界の規制やルールについて知っているということだけにとどまりません。会社のビジネスは、業界の規制や商品など市場に合わせて会社が出来上がっていることから、会社の仕組みも良く知っているという専門家となるわけです。

反町

これから企業に入っていく弁護士は増え、専門性も細分化する方向になっていくでしょう。そもそも、そのために弁護士増やそうとなったわけです。ただ、現在、大方の弁護士はそのような意識を持っていません。大手法律事務所に入る、あるいは個人事務所やるというのがまだ主流です。それで弁護士が就職難ということにもなってしまっているのです。しかし、この不況で変わります。この不景気だから弁護士も企業に入るっていうのあるでしょう。

芦原

もし社内弁護士になるのであれば、ぜひ、業界の専門家になる意気込みでやってほしいと思います。

反町

企業内弁護士は、日本の経済発展にも大きく寄与する存在となるでしょう。本日はお忙しい中、ありがとうございました。


≪ご経歴≫

弁護士/アフラック上級法律顧問
芦原 一郎(あしはら いちろう)
〔学歴〕1991年3月 早稲田大学法学部卒業、1995年4月最高裁判所司法研修所修了(47期)、2003年5月 米国ボストン大学ロースクール(LL.M)卒業。
〔職歴〕1995年4月 森綜合法律事務所(現:森・濱田松本法律事務所)入所、1999年10月アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)入社。
〔弁護士資格〕1995年4月 東京弁護士会 弁護士登録(〜現在、24071)、2006年5月米ニューヨーク州 弁護士登録(〜現在)
〔弁護士会務など〕1995年4月 東京弁護士会 民事介入暴力対策特別委員会 委員(〜現在)、1995年8月 地下鉄サリン事件被害者弁護団 団員(〜1999年)、2006年4月東京弁護士会 労働法制特別委員会 委員(〜現在)2007年4月大宮法科大学院大学(ロースクール) 非常勤講師(〜2009年)、2009年 4月日弁連 法的サービス企画推進センター企業内弁護士諸課題検討チーム メンバー(〜現在)
〔著書〕『新労働事件実務マニュアル』(共著/東京弁護士会 労働法制特別委員会編著/ぎょうせい・2008)、『社内弁護士という選択』(商事法務・2008)、『ビジネスマンのための法務力』(朝日新聞出版・2009)など。

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