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中小企業診断士のあるべき方向性

新井 信裕氏 社団法人中小企業診断協会相談役/アイコンサルティング協同組合理事長

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

右肩下がりの経済により、中小企業がますます厳しい経営環境にさらされる中、中小企業の経営を立て直す方策や提言等コンサルタントにあたる中小企業診断士には、よりいっそうの期待が寄せられている。そこで、長年、中小企業診断士業界の最前線でご活躍されてきている新井信裕氏に、現行のコンサルタントの意識改革についてご提言いただいた。


■ 診断士試験を牽引していくのは一種の人生観を持った人でないといけない

反町

新井先生は、中小企業診断士(以下、診断士)の団体であり、かつ試験の実施機関である社団法人中小企業診断協会の元会長代行、現相談役というお立場から、現行の試験制度について、どのようなご意見をお持ちなのでしょうか。

新井

我々としては、基本的に試験は必要であると考えますが、試験に受かって、即コンサルティングが出来るという人物は極めて少ないので、一定のトレーニングなりを積んでから現場に出て行くようにする仕組みが必要ではないかと考えます。

新井 信裕氏(社団法人中小企業診断協会相談役/アイコンサルティング協同組合理事長)

反町

おっしゃる通りです。

新井

経営コンサルタントは、経営者に約束した成果が上がるようなアドバイスをしなければいけません。診断士には、この点について肝に銘じ、責任感を持ってやってもらいたいと思っています。

反町

そういった気概がないといけませんね。

新井

私は、常日ごろより、経営診断は「匠の手作り」対応だと言っているのですが、診断士の資格を取っている人の中には、経営診断ができるようになりたいというよりも、名刺の肩書きに入れるとよいといったステータス重視の人もいます。

反町

確かに診断士は、ステータスになっていますよね。60歳以上で診断士をとって名刺に記載している人は、私の知人にも多く見受けられます。

新井

それはそれでよいのですが、ステータスを目的に診断士の資格を取得して、ほとんど実務に携わっていないような人が実際に現場に出て、不適切なことをした場合、実績を積み重ねている診断士まで同じように見られてしまい、我々「中小企業診断士」の連帯責任になってしまいます。プロとしてやるなら中小企業診断士としての連携が不可欠です。

反町

やはり、実際に現場でコンサルティングをするためには、トレーニングが必要であるということですね。

新井 信裕氏、反町勝夫対談

新井

昔はそれこそ徒弟制度のような、いわゆる「かばん持ち」の期間がありましたが、今の時代、そのような修行を我慢してやる人はほとんどいません。さらに診断士の資格取得は、独立するための前提条件になっていることもあり、そういったことは根付きにくいところがあります。だからこそ、診断士の試験機関を牽引していくのは、「日本の本物の中小企業を育てていく」というような一種の人生観を持った人でないといけないと思っています。

反町

新井先生は、そのような信念をお持ちだからこそ中小企業診断協会の理事に就任されたのですね。

新井

試験機関の求めがあれば見ましょうということで理事をやったのですが。

反町

現行の診断士試験の流れは、1次試験に合格した後、2次試験を受け、その後養成課程を修了すると「2次試験合格」とみなされ、診断士資格の登録資格が与えられる、となっています。最近は、各大学でも、中小企業大学校と同じように養成講座を実施しているようですが、その流れについてはいかがご覧になっていらっしゃいますか。

新井

私は、1つの資格に対して2つの試験制度があるのは、おかしいと思っています。本来は2次試験なのですから、それを大学や大学院で終わらせるということはいかがなものかと思います。そこで私が考えているのが、LECさんで、診断士を養成いただき、LECさんで養成された診断士をビジネスチャンスにマッチングするため、大学や大学院と協力し合っていくような教育をやるということです。診断士試験がどうあるべきかということを考えたときに、今のような記憶力で勝負するようなものに偏ってはならないと思います。LECさんにとっても、これから重要な課題になってくるのは、試験に受かることよりもむしろ、受かった後のことだと思いますが。

反町

そうですね。独立を目指して資格取得を目指す方は多いですが、それだけに資格試験に受かった後のことを気にされる方は非常に多いですし、重要になってきますね。

■ 今後の診断士のひとつの方向性

新井

私は、経営診断の「診断」という言葉は、あまりよい言葉ではないと思っています。そもそも「診断」というのは、「diagnosis」という英語を訳したがゆえにおかしくなっています。本来は、コンサルテーションという言葉があるのですから。しかし、相談をしてくる方に対していろいろ提案をしていくといったようなやり取りのことを「支援」と言うのも違和感がある。

反町

中小企業支援士では、少し変な感じがしますね。

新井 信裕氏(社団法人中小企業診断協会相談役/アイコンサルティング協同組合理事長)

新井

つい最近、地方を回っていましたら「経営革新士なんてよいのでは?」という提言者がいまして、これはおもしろいなと。そのようなかたちでも少し考えようかという話もあります。いずれ民間化していけば、当然そういうことも考えられるかと思っています。イノベーション(経営革新)の成功確度を上げるのがわれわれのミッションですから。さらに技術が分かり、イノベーションの目利きとなることが今後求められる最も重要な資質です。

反町

現在、多くの中小企業が苦しい経営を迫られ、診断士の力を求めています。新井先生には、日本の企業の発展のためにも、それを支える診断士の育成のためにご活躍いただきたいと思っております。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

≪ご経歴≫

社団法人中小企業診断協会相談役/アイコンサルティング協同組合理事長
新井 信裕(あらい のぶひろ)
慶應塾大学卒業後、大手メーカー勤務を経て、1963年同社退社後、新井経営戦略研究所創設、主催。1966年中小企業診断士登録。1986年社団法人中小企業診断協会理事を皮切りに常任理事、副会長、会長代行を歴任。現在、社団法人中小企業診断協会相談役。40年以上に渡り、「中小企業近代化審議会専門委員」、「日本経営診断学会理事」、「中小企業庁中小企業診断士制度見直し研究会委員」等、官公庁主催の委員会委員などの公職を歴任。1996年黄綬褒章授章。2006年旭日小授章授章ほか多数。

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