ニッポンのサムライ
マネジメントフロンティア
中地宏の会計講座
内部統制報告制度へ取り組む視点について

はじめに
日本版SOX法適用初年度を迎えた。本法は、上場会社を対象とし、2008年4月以降に始まる事業年度から適用され、内部統制報告制度対応を余儀なくされる。そのため、現在、企業の大半は、内部統制評価の準備作業に追われていることであろう。
単なる法制度対応で、この内部統制報告制度に取り組むのではなく、有効活用できないものであろうか考えるべきである。この制度は、今後も継続して取り組まなければならないものである。したがって、どのような視点で取り組むのか、また長期的視点に立って取り組むかによって、適用初年度以降の結果に開きが生じるであろう。
この連載とともに、既に米国で先行適用された米国SOX法対応の筆者の経験を踏まえて、日本版SOX法対応における取り組む視点について、ご提案をさせていただければと思う。
なお、本文は所属する組織の見解ではなく、個人的見解であることをお断り致しておく。

1.内部統制強化への国際的潮流

まずは、原点に今一度立ち戻り、なぜ、この内部統制報告制度が導入されたのか、一連の流れを振り返ってみたい。

近年、米国においてエンロンなどの不祥事により米国でサーベンス・オクスリー法(SOX法)が成立した。すなわち、米国資本市場の根幹を揺さぶった、エンロンやワールドコムなど一連の不正会計事件以後、SEC(証券取引委員会)をはじめ、米国規制当局は、公開企業の経営者にいっそうのアカウンタビリティとコンプライアンスを突きつけることとなったのである。
他方、わが国では、平成12年9月の大和銀行ニューヨーク事件の大阪地裁判決において、内部統制システム構築の必要性が指摘され、これを契機に企業における内部統制の体制整備の必要性が急速に認識されるようになった。また平成16年10月に西武鉄道やカネボウ等の有価証券報告書の虚偽記載が問題となったことを受け、とりわけディスクロージャーの信頼性・財務報告の適正性確保の観点から、さらに内部統制がクローズアップされるようになったのである。
相次ぐ不祥事により、米国では内部統制の経営者評価を求めるSOX法404条が規定された。他方、わが国では、内部統制の評価、報告および監査について「金融商品取引法」で定め、平成19年9月に施行された。これにより、平成20年4月1日以降開始する事業年度から、上場企業に対して内部統制報告制度が導入されたのである。

2.日米SOX法対応における共通問題

米国SOX法は、内部統制報告制度をはじめ、罰則の引き上げや監査人の独立性強化など、大きなインパクトを世界各国に与えた。
このような米国SOX法の規定を具体的に実践するために、PCAOB(公開会社会計監視委員会)が示した内部統制の監査の基準であるAS2(監査基準2号)では、外部監査人は企業の内部統制の有効性に関する意見と経営者の評価手続の妥当性に関する意見を表明してきた。しかし、改定されたAS5(監査基準5号)においては、評価手続に関する意見表明、すなわち、インダイレクト・レポーティングは廃止され、有効性評価のみのダイレクト・レポーティングに集約された。
わが国においては、企業の負担を軽減すべく、はじめからダイレクト・レポーティングを採用しているものの、その負担は大きい。その結果、米国SOX法と同様に、日本版SOX法においてもコストと時間の問題が生じた。
企業に大きな負担を強いたもののひとつとして、文書化の問題がある。文書化とはいわゆるフローチャート、業務記述書、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)である。各プロセスごとに作成するため、その分量は膨大にならざるを得なかったのである。 そのため、さもすると文書化が内部統制の目的となってしまい、本来の目的である大きな視点を欠くこととなってしまう恐れがある。そもそも、内部統制とは、企業において違法行為や不正が行われることなく各業務が正しく遂行され、組織が健全かつ有効、効率的に事業を運営していくための取り組みである。
すなわち、何が自社にとって重要なリスクであり、それに対してどのように対応するのが合理的なのかを把握することが重要となる。
確かに、文書化は企業に負担を強いたものの業務の可視化により、非効率な手続きや、重複業務が明確となり、さらには業務プロセスの標準化で、いっそう効率化できたのではなかろうか。また、文書化は経営者が外部に自社の内部統制を評価した意見表明をする際の説明責任を果たす材料として、寄与したのではなかろうか。
しかし、内部統制の本質は、3点セットではなく、チェック・アンド・バランスである内部牽制機能であり、経営者の内部統制に対する理解とその具体的な評価活動が、さらに重要となってくる。この点について、十分に監査人と連携をとり、不要なコストと時間をかけないようにしていただければと思う。

3.今後の内部統制評価の実務的視点

4月からは、内部統制評価の体制を構築して運用していくこととなる。評価を実施する体制には、(1)評価に係る計画策定、(2)評価手続・スケジュール作成、(3)監査窓口対応(4)内部統制の起案等を行う管理機能、(5)テスト・評価を行う評価機能を考慮する必要がある。
経営者の行った評価の妥当性を検討するため、監査人の監査手続の実施期間は、経営者の評価手続きの実施期間に依存することになる。そのため、内部統制の評価体制のみならず、全体のスケジュールをまずは策定することが、効率よく円滑に評価を実施する上で有効である。 全体スケジュールにおいては、(1)評価範囲の決定、(2)全社的内部統制、(3)業務プロセスに係る内部統制、(4)ITに係る全般統制(5)決算・財務報告プロセスに係る内部統制(6)内部統制の不備及び重要な欠陥の判定などについて、各評価ごとのそれぞれの作業区分ごとの実施時期および終了時期を決める、すなわちマイルストーンを設定することが重要となる(資料参照)。 全体の整合性がとれた評価スケジュールを作成し、整備状況の評価そして、運用状況の評価など、できる限り早期に対応していくことが、最終的な内部統制評価を有効に導くこととなる大きな要因となる。仮に、整備状況評価時に不備が発見された場合、不備の是正を行えばよいが、是正を行うにも時間がかかるため、全体的に早期対応が望まれるところである。
また、平成20年度から多くの新しい会計基準の適用が開始される。一例をあげると(1)棚卸資産の評価に関する会計基準、(2)連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取り扱い、(3)(改正)リース取引に関する会計基準、(4)関連当事者などの開示に関する会計基準等がある。 新しい業務であることから、前年度の運用状況を利用した予備的評価が難しいため、また新会計基準の適用の誤りは、重要な欠陥になる可能性があり注意が必要である。そのため、評価範囲の決定については十分に留意されたい。

4. むすび

第1回は、内部統制報告制度導入の一連の背景と今後の内部統制評価における全体像をとらえた。法制度の背後にある社会的要請を考え、常に何が根本なのかについて見失わない視点を持ち続け、自社における内部統制に取り組んでいただきたい。次回は、不正の視点より内部統制について述べることにしたい。

【資料:内部統制報告制度年間スケジュール概要(3月決算会社モデル)】
内部統制報告制度年間スケジュール概要(3月決算会社モデル)


森田 弥生 氏

森田弥生(もりた やよい)

公認内部監査人(CIA)/公認不正検査士(CFE)/法学修士

2000年中央大学大学院法学研究科卒業。新日本監査法人にて大手企業における SOX法対応および金融商品取引法対応に従事。 経済産業省委託調査「情報セキュリティ市場調査」WGメンバー(2007年〜現在)。 著書・論文に『内部統制の要点Q&A構築・評価・監査の実務』(金融財政事情研究会・2007)、「会社法務A2Z 特集 経営者による内部統制の評価」(第一法規株式会社・ 2008)他。「日本版SOXへ挑め! −内部統制活用術−」(六本木ヒルズ・ライブラリートーク講演2008)他。

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