データマネジメント試験、どういう試験? シラバス案とサンプル問題から見えてきた「問われる力」
2026.9.10
IPAの情報処理技術者試験に、新たに「データマネジメント試験(仮称)」が加わる予定です。
「データマネジメント」と聞くと、「データベースの専門家向けの試験?」「データサイエンティストを目指す人向け?」「統計やプログラミングができないと難しい?」といったイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、公開されているシラバス案とサンプル問題を見ると、この試験で重視されているのは、高度な分析技術そのものだけではありません。
データの意味や品質を確認し、適切に取り扱い、必要な分析につなげ、その結果を意思決定や業務改善に活かす。さらに、組織の中で誰がデータに責任を持ち、どのようなルールで管理していくのかまで考える。
つまり、「ビジネスの現場で、データを正しく扱い、正しく活用するための力」を問う試験と考えると分かりやすいでしょう。
本コラムでは、公開されたシラバス案とサンプル問題をもとに、データマネジメント試験がどのような試験になりそうなのかを見ていきます。
※現時点では試験名称は「仮称」であり、公開されているシラバスもVer.0.1の「案」です。今後、内容が変更される可能性があります。
- 目次
データマネジメント試験は、どんな試験?
IPAの情報処理技術者試験に、新たに加わる予定の「データマネジメント試験(仮称)」。
試験名だけを見ると、データベースや統計、プログラミングなどを専門的に学んでいる人のための試験という印象を受けるかもしれません。
しかし、公開されているシラバス案とサンプル問題を見る限り、想定されているのは必ずしも「データの専門家」だけではありません。
むしろ重要なのは、普段の仕事の中でデータを扱うビジネスパーソンが、そのデータを正しく理解し、適切に扱い、意思決定や業務改善につなげられるかという点です。
「データを分析する試験」ではない?
この試験の特徴を理解するうえで、まず注目したいのが、シラバスに示されている「ビジネスパーソンが担うデータマネジメント活動」です。
そこに描かれているのは、単にデータを集計したり、グラフを作ったりする仕事だけではありません。
目的に合ったデータを探し、その意味や品質を確認し、分析する。そして、分析結果を意思決定につなげ、その結果を検証して改善する。さらに、組織内にデータ活用を定着させ、新しい技術の活用にも取り組んでいく。
つまり、分析だけではなく、「分析する前」と「分析した後」まで含めた一連の活動が対象になっています。
実際の仕事でも、データを使おうとすると、
「この数字は、そもそも何を表しているのか」
「このデータに責任を持っているのは誰なのか」
「欠損や重複はなく、信用できる状態なのか」
「別のシステムのデータと組み合わせても問題ないのか」
「このデータを生成AIに入力してもよいのか」
といった疑問が出てきます。
データマネジメント試験では、こうした実務上の判断ができることが重視されているようです。
科目Aでは「データを扱うための共通知識」を学ぶ
シラバス案を見ると、科目Aの重点分野には、大きく
・データマネジメント
・データ分析・データ利活用
・AI利活用
が含まれています。
「データマネジメント」では、データガバナンス、データライフサイクル、データ品質管理、メタデータ管理などが取り上げられています。
「データ分析・データ利活用」では、DWHやデータレイク、ETL/ELT、BIツールなどのデータ基盤に加えて、回帰分析、相関分析、仮説検定、統計的バイアス、データの可視化なども対象です。
さらにAIについても、生成AIだけでなく、AIエージェント、人間による最終承認、ガードレール、ハーネスエンジニアリングなど、新しいキーワードが用語例として挙げられています。
そのほか、データベース、情報セキュリティ、倫理・コンプライアンスも試験範囲です。個人情報保護法や著作権、AI倫理、AIガバナンス、ハルシネーションなども含まれています。
試験範囲を見るだけでも、「データ分析だけを勉強すればよい試験」ではないことが分かります。
科目Aも「用語暗記」だけではない
では、科目Aでは単純にこれらの用語を覚えればよいのでしょうか。
公開されているサンプル問題を見ると、そうではなさそうです。
科目Aのサンプル問題では、
「なぜデータガバナンスが必要なのか」
「どのような対応がデータ品質の劣化につながるのか」
「ビジネスメタデータをどのように整備すべきか」
といった内容が問われています。
たとえば、データガバナンスについては、単に情報システム部門のIT統制を強化するという話ではありません。
データの品質やセキュリティを維持し、意思決定の精度向上や法令遵守につなげ、組織の価値や信頼を高めるという目的まで理解する必要があります。
また、データ品質についても、入力形式や表現を各担当者の判断に任せてしまうことが、なぜ品質低下につながるのかを考えなければなりません。
メタデータについても、情報システム部門だけに管理を任せるのではなく、事業部門も参加しながら組織全体で継続的に管理していくという考え方が求められています。
つまり、「言葉の意味を知っているか」だけではなく、「実際の組織ではどうするのが適切なのか」まで理解する必要があるということです。
科目Bは、さらに「仕事」に近い
そして、この試験の特徴がより分かりやすく表れているのが科目Bです。
シラバスでは、目標とする技能が大きく四つに分けられています。
一つ目は、「データの適切な取扱い」です。
データの定義や意味を確認し、複数のデータの関係を把握し、利用目的、アクセス範囲、データ品質、メタデータなどを確認します。
たとえば、
「この顧客IDは企業単位なのか、部門単位なのか」
「データオーナーは誰なのか」
「欠損値や重複値はないか」
「AIに入力してよい情報なのか」
といったことまで判断する技能が示されています。
二つ目は、「データ活用による意思決定、検証と改善」です。
ビジネス上の課題から仮説を設定し、必要なデータを探して分析し、その結果から示唆を得て意思決定につなげます。
しかも、そこで終わりではありません。意思決定後の結果を検証し、さらに改善につなげるところまでが対象です。
つまり、「分析して終わり」ではなく、「仕事を良くするところまで」がデータ活用という考え方です。
三つ目は、「データ活用の組織文化の醸成」です。
データ活用の重要性を社内の関係者へ説明することや、部門をまたいだデータ共有に参加すること、データに基づく議論に必要な情報や意見を伝えることなどが含まれています。
そして四つ目が、「データ活用の向上」です。
AIを含む新しいデジタル技術について情報を集め、自社への適用可能性を検討し、PoC(概念実証)を企画・実施するところまで対象になっています。
かなり実際のDXプロジェクトに近い内容と言えるでしょう。
サンプル問題に見る、この試験の「らしさ」
科目Bのサンプル問題を見ると、この試験で何が評価されるのかがさらに分かりやすくなります。
ある問題では、社内データに品質上の問題が発見されたケースが取り上げられています。
そこで問われるのは、
「品質上の問題を誰に報告するのか」
「分析担当者が暫定的にデータを修正した場合、その数値に誰が責任を持つのか」
「恒久的な対策は誰が主導するのか」
「データカタログは誰が更新するのか」
といった判断です。
データを修正する技術だけではなく、「組織のルールに基づいて誰が何をするのか」を判断する力が求められています。
もう一つ、試験の特徴をよく表しているのが、ECサイトと実店舗の顧客データを統合する問題です。
ECサイトでは電話番号が「090-0000-0001」、店舗では「09000000001」という形式で登録されています。
これを見ると、最初は「電話番号のハイフンをそろえればよいのでは?」と考えたくなります。
しかし、問題の本質はそこではありません。
それぞれのシステムには顧客を識別するIDがありますが、そのIDは各システムの中で一意になっているだけで、販売チャネルをまたいで同じ人物を識別できるIDにはなっていません。
つまり、電話番号の表記という表面的な問題の裏に、「複数のシステムを横断して顧客をどう識別するのか」という、より本質的な課題があります。
そのうえで、緊急のレポート作成が必要というビジネス上の条件も踏まえ、現実的な暫定対応を判断しなければなりません。
「表面的な技術課題」と「本質的なガバナンス上の課題」を切り分け、その状況で現実的な対応を選ぶ。
この考え方は、データマネジメント試験の特徴をよく表していると思います。
データサイエンティストになるための試験ではない
ここまで読むと、「やはりデータの専門家向けの試験なのでは?」と感じるかもしれません。
しかし、シラバスでは、データ分析・データ利活用について、データサイエンティストなど高度な分析を担当する人からの要請や分析結果を正しく理解し、実務の観点から円滑に連携・協力するための基本的な知識を問うとされています。
つまり、受験者全員が高度な分析を行うデータサイエンティストになることを想定しているわけではありません。
むしろ、データの専門家と、実際の業務を担当するビジネスパーソンをつなぐ「共通言語」を身につける試験と考えた方が実態に近そうです。
現在は、営業、人事、総務、経理、マーケティング、企画、管理職など、職種を問わずデータを使って仕事をする機会があります。
そのため、
「そのデータは正しいのか」
「誰が責任を持っているのか」
「利用して問題のないデータなのか」
「違うデータ同士を本当に比較できるのか」
という判断は、一部の専門職だけに必要なものではなくなっています。
AI時代だからこそ、「データを扱う力」が必要になる
生成AIの普及以降、「AIを使える人材」の重要性が盛んに語られるようになりました。
しかし、AIの性能がどれだけ高くなっても、入力するデータが間違っていたり、意味が統一されていなかったり、品質が悪かったりすれば、良い結果は期待できません。
さらに、そのデータをそもそもAIへ入力してよいのかという問題もあります。
だからこそ、AIの使い方だけを覚えるのではなく、その前提となる「データをどう管理し、どう扱うのか」という知識が重要になります。
生成AIによって大量のデータを簡単に扱えるようになった今だからこそ、データの意味、品質、責任、利用条件を確認できる人材の必要性は高まっています。
まとめ:データとビジネスをつなぐ試験へ
シラバス案とサンプル問題を見る限り、データマネジメント試験は、単純に「データを分析できるか」を問う試験ではありません。
重要なのは、
・データの意味や品質を確認する
・利用してよいデータかを判断する
・誰が責任を持つのかを理解する
・分析結果を意思決定につなげる
・結果を検証し、改善する
・組織の中でデータ活用を進める
・AIを含む新しい技術を適切に活用する
といった、一連のデータ活用を実務の中で行う力です。
高度な分析を担当する専門家だけではなく、その専門家と連携しながらデータを仕事に活かしていくビジネスパーソンにとっても関係の深い試験になりそうです。
AI時代に求められるのは、単にAIを操作できることだけではありません。
AIや分析に使うデータを信頼できる状態で扱い、そのデータをビジネスの意思決定や価値創出につなげる。
データマネジメント試験は、そうした力を身につけるための新しい試験として、今後注目していきたい資格です。
監修者情報

林 雄次(はやし ゆうじ)
LEC専任講師/はやし総合支援事務所 代表
情報処理安全確保支援士・資格ソムリエ?・デジタル士業?
1980年生まれ、東京都足立区出身。筑波大学附属高校卒業後、淑徳大学で社会福祉を学び、社会福祉士資格を取得。卒業後はIT関連企業で1,000社以上の中小企業の業務改善に従事し、業務・システムの双方に精通。副業として「はやし総合支援事務所」を開業し、兼業2年を経て独立。
LECでは、ITストラテジスト、G検定、基本情報技術者、情報セキュリティマネジメント、ITパスポート、DX戦略研修、生成AI活用研修などを担当。システム監査技術者、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、情報処理安全確保支援士、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、ITサービスマネージャをはじめ、中小企業診断士、社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー、防災士など2026年9月時点で700を超える資格を保有する。
経済産業省 認定情報処理推進機関、中小企業庁 認定経営革新等支援機関、デジタル庁 デジタル推進委員、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)セキュリティプレゼンターなどを務めるほか、上場企業からベンチャー企業まで幅広く、顧問、講演、執筆、監修などで活動。「資格ソムリエ」としてテレビ・ラジオ・雑誌等のメディアでも活躍中。
主な著書:『かけ合わせとつながりで稼ぐ 資格のかけ算大全』(実務教育出版)、『資格が教えてくれたこと 400の資格をもつ社労士がみつけた学び方・活かし方・選び方』(日本法令)、『行政書士・社労士・中小企業診断士 副業開業カタログ』(中央経済社)、『社労士事務所のDXマニュアル』(中央経済社)、『40代・50代で必ずやっておきたい 「学び直し」超入門』(PHP研究所)ほか多数。
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