AI時代の企業研修・人材育成に「ITパスポート」を取り入れるべき理由とは?
2025.6.26

資格試験講師として数多くの企業研修に携わってきた黒川貴弘講師に、今注目すべき国家資格「ITパスポート」の活用法と導入ステップを聞きました。
- 目次
黒川講師に聞く!AI時代の企業研修・人材育成に「ITパスポート」を取り入れるべき理由とは?
AI・テクノロジーの時代におけるITパスポートの重要性
―― 黒川先生、本日はよろしくお願いします。まず、ITパスポートとはどのような資格なのでしょうか?
「ITパスポートは、社会人として必要なITに関する基礎知識を幅広く問う国家資格です。今やIT業界だけでなく、あらゆる業界においてITを活用する機会が増えている現代において、ITパスポートはビジネスパーソンにとって必須の資格となりつつあります。」
―― 具体的にどのようなメリットがありますか?
「ITパスポートを取得することで、ITに関する基礎知識を体系的に習得できます。これは、ITを活用した業務効率化やデジタル時代の問題解決能力の向上など、今日の職場で求められる基本的スキルを身につけることにつながります。」
―― 黒川先生は資格試験対策講座の講師として多くの方を指導されていますが、最近ではAIの話題も多いですね。AIとITパスポートにはどのような関係があるのでしょうか?
「今の時代、AI技術の進展は目覚ましく、企業においてもAIの導入が加速しています。しかしAIを活用するためには、ITの基礎知識が不可欠なんです。ITパスポートで学ぶITの基礎知識は、AIの仕組みを理解し、AI活用においても生かすことができます。」
「また、AIの活用にあたっては、セキュリティ面のリスクも把握したうえで適切に活用しなければなりません。ITパスポートではセキュリティに関する知識も学ぶため、基礎的なリテラシーだけでなく、実際にITを利用していく際のリスクの把握や注意点、セキュリティ対策の基本的内容も網羅することができます。」
ITパスポートを企業研修に取り入れるべき理由
―― なぜ企業はITパスポートを研修に取り入れるべきだとお考えですか?
「今や企業のどの部門でもITの活用が不可欠です。そのため、一部のシステム関連部門の社員だけがITの知識を持っていればよいというわけではなく、全部門、全社員のITリテラシーの底上げが必要といえるでしょう。」
「ITパスポートの出題分野は、テクノロジーに関する知識だけでなく、企業経営におけるITの活用やその基本用語、ITを活用するためのマネジメントに関する知識も網羅しています。そのため、ITパスポートの教材・研修は、体系的なITリテラシー研修への活用に最適なんです。」
―― 黒川先生は多くの企業のIT研修に登壇されていますが、実際に企業での活用事例はありますか?
「はい、私が携わってきた企業研修の現場でも、ITパスポートのEラーニング講座を全社員に受講させたり、ITパスポート試験の受験を推奨したりと研修に利用する企業が増えています。企業研修の講師として各社の取り組みを見てきましたが、最近ではITパスポート試験の合格を昇進・昇格の要件にしている企業も数多く存在しています。」
―― ITパスポート取得は企業の競争力強化にもつながるのでしょうか?
「間違いなくそうです。ITリテラシーの高い社員が育つことによって、新しい技術への適応力が高くなり、変化の激しいビジネス環境においても柔軟に対応することができるようになります。」
「また、ITパスポートを取得した社員は、既存ビジネスの業務改善など社員のアイデア創出が促されることも期待できますし、さらにはITを活用した新しいビジネスモデルの創出なども活性化する可能性もあるでしょう。ITリテラシー研修を実施していない企業と比較すると、今後ますます人的資源上での差が生まれてくると考えられます。」
―― コスト面ではどうでしょうか?
「ITパスポートの取得は、企業にとってコストメリットが大きい投資です。ITパスポートの受験費用自体が安価であり、講座研修費用も難関資格と比較すると圧倒的に安価に収まります。」
「そういった直接的なコストだけでなく、IT関連のシステム開発時のベンダーとの調整や条件交渉がスムーズにできたり、トラブル発生時にも自社での対応範囲が広がったりするなど、外注コスト削減にも繋がります。」
「また、ITパスポートを取得した社員は、キャリアアップの機会が増え、企業への貢献度も高まるため、投資対効果も高いと言えます。」
ITパスポート導入の具体的なステップ
―― 多くの企業研修を指導されてきた経験から、ITパスポートを企業研修に導入する際の具体的なステップを教えてください。
「まず導入計画を策定することが重要です。導入計画では、導入目的、対象者、期間、予算、評価方法、実施形式などを明確にする必要があります。」
「導入目的はITパスポートを導入する目的を企業が目指す目的と合わせて考えます。対象者はどのような社員を対象とするか、期間はどのくらいの期間をかけるか、年間に複数回で検討するかなどです。予算面では、どのくらいの予算を投入するかを決め、評価方法として導入効果を資格合格だけで見るか、長期的な業績で見るかなども検討します。」
―― 研修の実施形式にはどのようなものがありますか?
「実施形式については、企業ごとに研修目的や時間・場所などの制約条件を確認のうえ、自社のニーズに合った研修実施形態を選択するとよいでしょう。」
「代表的な形式には、eラーニングと集合研修があります。eラーニングは個々の学習ペースに合わせて進められ、費用的にも集合研修に比べて安価に提供できるメリットがあります。一方、集合研修は1日だけ集中的にやる気を引き立たせ、メンバーのコミュニケーションや士気を高めるといった目的での研修に最適です。eラーニングとのハイブリッド形式だと、さらに研修効果が高まるでしょう。ただし、集合研修は時間や場所の制約が生まれやすく、費用面でもeラーニングよりは割高になる傾向があります。」
「私が講師として関わってきた企業研修では、まずは集合研修で基礎知識の重要性を理解してもらい、その後eラーニングで個別学習を促進するという組み合わせが特に効果的だったと感じています。具体的な方法については研修会社や研修経験の豊富なコンサルタントに相談をしながら決めていくのがスムーズです。」
―― 研修実施後のフォローアップや評価も重要だと思いますが、どのような取り組みが効果的ですか?
「ITパスポートの導入は、研修の実施だけでなく、目的の達成に向けた社員のフォローと評価も重要です。例えば、社内座談会を開催して、すでに資格合格している社員からのノウハウを共有してもらったり、知識の共有や交流の場を設けることで、学習効果を高めることができます。」
「また、合格を早めるために、定期的な小テストや模擬試験の実施、アンケート収集による研修改善なども効果的です。合格のインセンティブとして資格一時金などの制度があれば明確に共有するなどしてモチベーションを高めることも大切です。」
「企業が経費を負担して研修やeラーニングを導入するのが予算的に難しい場合は、自己啓発支援や試験合格報奨金などの制度を設計し、従業員個人の学習を支援するといったことも効果的です。」
まとめ:AI時代のITパスポートの役割と今後の展望
―― 最後に、AI時代におけるITパスポートの役割と今後の展望についてお聞かせください。
「AI技術の進歩に伴い、ITパスポートの試験内容も常にアップデートされています。今後、ITパスポートは、生成AIを含めたAIに関する知識だけでなく、データサイエンスやDX推進などの最新論点に関する知識も問われるようになっています。こうした時代の変化や技術革新へのキャッチアップという面でも、国家資格として質が担保されているITパスポートは信頼に値する資格であり、研修活用に最適です。」
「企業においては、ITパスポートを単なる資格取得の手段ではなく、社員の成長を促し、企業全体のデジタル化を推進するための重要なツールとして捉えることで、社員のスキルアップを促し、企業全体のデジタル化をうまく加速させていくことができるでしょう。」
「私がこれまで多くの企業研修や資格対策講座で見てきた経験からも、ITパスポートの導入を通じて、社員のITリテラシーを向上させ、AI時代における競争力を強化していく第一歩を踏み出してほしいと思います。」
―― 貴重なお話をありがとうございました。
執筆者情報
黒川 貴弘(くろかわ たかひろ)
株式会社拠り所 代表取締役
株式会社フロントビジョン 取締役
株式会社AtFilm 顧問
LEC東京リーガルマインド講師
大学在学中に中小企業診断士資格に合格。システムエンジニアとして6年間勤務後、2011年に独立起業。その後10年間の間に、アウトドアブランド立ち上げ、WEB事業・映像事業などの一般事業の多角化展開を自身で手掛け、 実践重視型のコンサルティングサービスを提供している。IT導入・DX推進プロジェクトを多数行いながら自社ブランドのキャンプ用品開発・販売やコーヒー豆の焙煎・販売なども手掛けている。
LEC中小企業診断士・IT関係資格対策講座に多数登壇、官公庁・企業様向け研修の実績多数。実務と知識を融合した実践型の講義が特徴。DX研修やセキュリティ研修、中小企業診断士関連の講座など、10年以上の間に1,000以上の登壇経験がある。
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