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ADR調停人候補者はどんな人におすすめ?
おすすめの業種・職種や資格の組み合わせとは
不動産業界で注目の「日本不動産仲裁機構 ADR調停人候補者資格」。この資格で身につく調停スキルは、実は様々な業界・職種で大きな武器となります。
賃貸トラブルから売買契約の紛争、相続問題まで―――感情的になりがちな当事者の間に立ち、冷静な対話で合意を導く力は、現代のビジネスパーソンに欠かせないスキル。他の資格と組み合わせによる「資格のかけ算」で、あなただけの専門性を築くことも可能。どんな場面でこの資格が活かせるのか、おすすめの資格の組み合わせと併せて詳しく解説します。
- ご注意いただきたいこと
- 以下の内容は、主にADR調停人候補者としての「調停スキル」を生かす場面について述べています。
その際、注意が必要となるのが「非弁行為(弁護士法72条)」との関係です。弁護士法72条では、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」とされています。
簡単に言えば、法務大臣から認証を受けた認証ADR機関(日本不動産仲裁機構がその一つです)からの正式な依頼を受けた調停手続でなければ、調停人候補者でも、紛争当事者の間に直接割ってはいて、報酬をもらって紛争を解決したりしてはならないということです。
これに違反した場合には、場合によって逮捕事例となることもありますので、十分に注意をしてください。
ADRとは?
ADRは「裁判外紛争解決手続」(Alternative Dispute Resolution)の略称です。
日常生活で発生するトラブルやもめごとを、裁判以外の方法で話し合いによって解決する方法です。
裁判より時間や費用を抑えながら柔軟な解決策を見つけることができます。
一般的に「調停」や「あっせん」と呼ばれ、裁判所だけでなく行政機関や民間事業者が提供しているものもあります。
ADR調停人とは?
ADR調停人とは、裁判外紛争解決手続(ADR)において、紛争の解決を図る調停を行う人のことをいいます。
法務大臣から認証を受けた公正中立な第三者が「調停人」として当事者同士の間に入り、解決を支援します。
通常、法律の専門家ではない人が、お金をもらって他人の法的トラブルに関わることは「弁護士法第72条」で禁止されています(これを「非弁行為」といいます)。 例えば、不動産会社のお客様が法的トラブルの相談をしてきた場合、弁護士でない限り、そのトラブルの解決に直接関わって報酬を受け取ることは法律違反になる可能性があります。
しかし、法務大臣の認証を受けた「ADR調停人」は特別です。
トラブル解決の手助けをする「調停業務」を行い、その対価として報酬を受け取ることが法律上認められているのです。
今回紹介する、日本不動産仲裁機構ADRセンターの「ADR調停人」は、主に不動産分野で専門的な知識を活かして話し合いによる解決を支援する専門家です。
ADR調停人の業務内容
- 不動産取引や施工、相続、境界、敷金問題などのトラブルの予防や解決
- 依頼者の相談に応じ、助言や指導
- 紛争の当事者双方からの依頼を受け、話し合いによるトラブル解決のサポートなど、紛争の解決だけでなく、予防や助言など多岐にわたります。
ADR調停人の要件
調停人の要件は、法律上「紛争の範囲に対応して、個々の民間紛争解決手続において和解の仲介を行うのにふさわしい者を手続実施者として選任すること」と規定されています(ADR法6条)。
そして、ガイドラインにおいてこれを「和解の仲介を行うために必要な能力及び経験を有し,かつ公正性を疑わせる事情のない者」と定義し、具体的に下記の要件の充足を求めています(法第6条関係)。
<調停人の要件>
- ① 法律に関する専門的能力<法律知識>
- ② 和解の仲介を行う紛争の分野に関する専門的能力<紛争分野の専門性>
- ③ 紛争解決の技術に関する専門的能力<ADR技術>
- ④ 公正性を疑わせる事情のないこと
「日本不動産仲裁機構 ADR調停人候補者」になるには
ここでは、法務大臣から認証を受けた認証ADR機関のひとつ「日本不動産仲裁機構」のADR調停人候補者として登録する方法について解説します。
①日本不動産仲裁機構が指定する「ADR調停人基礎資格」を取得された方
各分野における専門性は既に有しているものと認められる為、日本不動産仲裁機構が主催するADR調停人研修を修了することで、ADR調停人候補者として日本不動産仲裁機構ADRセンターに登録することができます。
※ADR調停人基礎資格とは:
- 土地活用プランナー(対応分野:不動産管理)
- 不動産仲介士(対応分野:不動産仲介)
- 投資不動産取引士(対応分野:売買・仲介)
- 相続診断士(対応分野:不動産相続)
- 住宅ローン診断士(対応分野:住宅ローン)
- 空き家再生診断士(対応分野:不動産管理)
- 民泊適正管理主任者(対応分野:民泊)
- サブリース建物取扱主任者(対応分野:サブリース)
- ホームインスペクター(対応分野:施工)
- 住宅建築コーディネーター(対応分野:施工)
- 太陽光発電メンテナンス技士(対応分野:太陽光発電システム)
- 太陽光発電アドバイザー(対応分野:太陽光発電システム)
- 敷金診断士(対応分野:敷金)
- 小売電気アドバイザー(対応分野:小売電気)
- 建物検査士(対応分野:施工)
- シックハウス診断士(対応分野:シックハウス)
- 雨漏り検診士(対応分野:漏水)
- 住宅販売士(対応分野:販売)
- リフォーム提案士(対応分野:施工)
- カビ・ダニ測定技能士(対応分野:かび・ダニ)
- ペット共生型住環境アドバイザー(対応分野:ペット)
- マンション防災推進アドバイザー(対応分野:防災)
- 相続財産再鑑定士(対応分野:相続)
- 認定火災保険調査員(対応分野:住宅調査)
- 地震保険調査士(対応分野:住宅調査)
②宅建士の方
宅建士の方であれば、
- まずは日本不動産仲裁機構が実施する「不動産相談員研修(対応分野:不動産取引)」を修了
- その後、日本不動産仲裁機構が主催するADR調停人研修を修了
することで、ADR調停人候補者として日本不動産仲裁機構ADRセンターに登録することができます。
「日本不動産仲裁機構 ADR調停人候補者」になるメリット
1. 公的な信頼性の向上
法務大臣認証の資格であり、日本不動産仲裁機構に調停人候補者として登録できる制度です。
トラブルの予防や解決に関わる専門知識と中立性をアピールでき、お客様からの信頼が大きく高まります。
2. 正当な報酬を得られる業務の拡大
トラブル解決の話し合いから最終的な和解まで、正式な立場で対応できます。
調停人として、調停業務の報酬を法律に基づいて受け取ることができます。
3. 本業(不動産業)との相乗効果
既存の業務に加えて調停業務を行うことで、業務範囲と収入源が広がることはもちろん、
不動産会社や建築関連会社、不動産系士業にとっては、「トラブル解決の専門家」としてのアピールが可能に。
他社との差別化が可能になります。
「日本不動産仲裁機構 ADR調停人候補者資格」はこんな仕事に役立つ!おすすめの業界・業種
それでは実際にどんな業種・職種で勤務される方にメリットのある資格なのか、また、どのような場面で資格を役立てられるのか、業界・業種別に詳しく見ていきましょう。
不動産賃貸業に従事されている方
不動産賃貸業では、貸主と借主の間に発生する日常的なトラブルにおいて、ADR調停人候補者としての知識やスキルが非常に有効に働きます。たとえば、家賃の滞納が続く入居者とのやり取りは、貸主にとって精神的にも経済的にも大きなストレスとなります。ある日、入居者が「申し訳ないんですが、今月も家賃を払えそうにありません…」と言えば、オーナーは「もう何度目だ?いい加減にしてくれ」と感情的になり、関係は険悪になります。こうした時に、調停的アプローチがとれる人物が間に立つと、まずは両者の言い分や状況を冷静に整理し、借主が支払える範囲での分割払いや、今後の支払計画を話し合い、合意に導くことができます。
また、退去時の原状回復費用をめぐるトラブルでも調停スキルは力を発揮します。入居者が「この傷、住んでたら当然つくでしょ?全部敷金から引くなんてひどい!」と主張し、管理会社側が「契約書に記載の通りです」と突き放した場合、争いに発展しやすいですが、ここで双方の主張と契約内容、そしてガイドライン(国交省の原状回復に関する指針など)を照らし合わせながら中立的に説明できる人物がいれば、納得感のある着地点を見つけやすくなります。こうした場面では、論理的思考と同時に感情の機微を汲み取る「対話力」が重要であり、調停スキルの真価が問われます。
不動産賃貸に関するトラブル相談は年々増加傾向にあり、適切な対応やアドバイスの重要性はますます高まっています。
不動産売買業に従事されている方
売買契約に関わる場面でも、調停人候補者としての知識とスキルは重要な役割を果たします。例えば、土地の境界に関して「購入後に隣家の塀が敷地内に入り込んでいることに気づいた」として買主が不満を表明し、売主は「そんなことは知らなかったし、昔からこうだった」と反論する状況では、感情的な対立が激化しやすいのが現実です。このような場面で調停スキルを持った人間が関与すれば、事実関係を丁寧に確認しながら、双方の主張や感情に配慮しつつ話し合いの場を設け、可能であれば現地調査や図面確認を含めた解決プロセスに導くことが可能です。
また、契約解除時に発生するトラブル、特に手付金の返還を巡る争いも多く見られます。たとえば、買主が「やむを得ない事情で契約を解除したのだから、手付金を返してほしい」と申し出た際、売主が「それは手付解除になるので返金義務はない」と突っぱねた場合、法律的には売主に理があることが多いのですが、感情的なしこりが残ります。調停的立場であれば、法的根拠を正しく説明しつつ、双方が納得できるような形(例:一部返金、次回取引の優先など)を模索し、関係をこじらせずに終結させることも可能です。
不動産のオーナーとして事業を展開されている方
不動産オーナーは、入居者・管理会社・近隣住民との間で様々な利害関係を調整しなければなりません。たとえば、マンションの入居者から「上の階の足音が夜遅くまでうるさくて眠れません」という苦情が寄せられ、当の入居者は「普通に生活してるだけで文句言われても困る」と反発した場合、直接やりとりをさせるとトラブルが激化するおそれがあります。ここでオーナー自身が調停的姿勢で関われば、まずは苦情側の話に耳を傾けつつ、感情的な表現ではなく具体的な事実に言い換えて伝える工夫を行い、加害側とされる入居者にも理解を促すことで、現実的な対処(音を抑える工夫、生活時間の見直しなど)へとつなげることができます。
また、相続などによる不動産の共有問題では、調停的アプローチが必須となることも少なくありません。たとえば「兄は早く売却して現金化したい」「妹は亡き父との思い出が詰まっている家を手放したくない」といった感情が交錯する場面では、単純な「法定相続分に基づく割り算」では解決できません。調停人のように、背景にある感情や価値観を整理し、対話を通じて「納得解」を探ることが大切で、時には換価分割以外の方法(例:特定の相続人が不動産を取得し、他の相続人には代償金を支払う)など柔軟な合意を導く力が求められます。
認証ADR機関(日本不動産仲裁機構)からの委嘱による活用
実際に「調停人」としてトラブルに介入し、当事者間の合意を導く立場となるため、ADRに関する知識や技術を最も実践的に活用できる場面です。たとえば、住宅リフォームを巡る消費者トラブルで「予定通りの工事がされていない、追加料金も勝手に請求されている」と消費者が訴え、業者側が「施工ミスではなく仕様変更に伴うものだ」と反論する場合、話し合いは平行線になりがちです。調停人は、事実関係や証拠の整理に加え、両者の本音や感情をくみ取り、「どの部分で折り合えるか」を探っていく必要があります。たとえば、工事内容の一部修正、料金の一部返還、あるいは謝罪文の提出など、さまざまな選択肢を提示しながら、双方の納得を得る努力を重ねます。
また、紛争が起きる前の段階でも調停的スキルは活用できます。たとえば、契約締結時に「もし紛争が発生した場合は本ADR機関での解決を試みる」といった合意(調停合意条項)を文書に盛り込むことで、トラブル時の話し合いの場をあらかじめ設定しておくことが可能です。調停人候補者の関与は、単なる「事後対応」にとどまらず、信頼関係構築と予防的紛争解決にも役立ちます。
地方自治体の相談機関での活用
市役所や区役所などの地方自治体に設けられている相談窓口では、住民同士や住民と行政との間に発生するトラブルの初期対応を担うことが多く、そこでも調停人としての素養が強く求められます。たとえば、「隣家が毎回ゴミの出し方を守らず、カラスが荒らして困っている」という市民からの訴えに対して、相手側は「家族の介護で時間通りに出せない日があるんです」と答えるといった具合に、価値観の違いと感情の食い違いが重なるケースは日常茶飯事です。こうした場合に、両者の事情を丁寧に聞き取り、怒りや困惑を受け止めながら、「事実の整理」「価値観の共有」「譲歩案の提示」などの調停技術を用いて対話の道を開くことができれば、問題は解決に向かいます。
また、境界問題や騒音、日照権、通行権など、長期化しがちな地域トラブルにも対応できます。住民同士の関係性を壊さず、行政の信頼を損なわずに話し合いを導くには、法的知識とともに「住民の言葉をそのまま伝えない、角を立てずに翻訳する力」が必要であり、まさに調停人候補者のスキルがその場で生きるといえます。
資格の掛け算でさらに活躍!他の資格やスキルと組み合わせるなら何がおすすめ?
また、他の資格との組み合わせ(ダブルライセンス、トリプルライセンス)や資格のステップアップで、さらに自分だけの強みや専門分野を作ることができます。
例えば、以下のような資格の組み合わせは特におすすめです。
宅建士×不動産相談員研修修了→ADR調停人候補者
「契約書の裏側まで読み解く、不動産調停のエキスパート」
宅建士は、不動産取引において必要不可欠な法律知識と実務感覚を持つ国家資格です。これをADR調停と組み合わせることで、売買契約や賃貸借契約をめぐるトラブルに、法的・実務的な裏付けを持って介入できます。
たとえば、中古住宅の売買における「瑕疵(かし)」をめぐるトラブル。買主は「雨漏りなんて聞いてない!」と怒り、売主は「説明したつもりだったが…」と困惑しているような場面で、認証ADR機関から委嘱を受けた調停人が宅建士資格を持っていれば、重要事項説明書の内容や説明義務の範囲を的確に読み解くことができます。
調停の場で、「この部分が“説明すべき重要事項”として明記されていたかどうか」「買主がこれを理解できたか」という点を冷静に指摘し、双方の誤解や不安を和らげ、現実的な補償案を導き出すことができるのです。
敷金診断士→ADR調停人候補者
「退去精算も安心!お金の揉め事に強い“敷金問題のエキスパート”」
敷金診断士は、退去時の原状回復費用や敷金返還のトラブルに特化した資格であり、賃貸借契約終了時の“お金の揉め事”に極めて有効です。
たとえば、ある調停では借主が「クロスの汚れまで請求されて、敷金がほとんど戻らない」と憤慨し、貸主は「次の入居者を入れるには必要な修繕だ」と譲りません。ここで認証ADR機関から委嘱を受けた調停人が敷金診断士の視点を持っていれば、「これは通常損耗にあたりますから、貸主負担が妥当です」とガイドラインに基づいて説明し、金額の分担比を提案できます。
感情が先行しやすい“修繕費の線引き”も、第三者である専門家が客観的に評価することで、双方が納得しやすい合意へと進められるのがこの組み合わせの大きな強みです。
土地活用プランナー → ADR調停人候補者
「分け方だけじゃない。“活かし方”でまとめる土地の調停力」
土地活用プランナーは、相続・収益化・税務・地域特性など、土地の最適活用についてアドバイスする専門家です。この資格を持つことで、土地をめぐる複雑な人間関係や価値観の対立を「経済性」と「感情」の両面から捉えることができます。
たとえば、両親から相続した土地を兄弟で分ける際、「兄は月極駐車場にして収益を得たい」「弟は地域の高齢者向け施設に貸したい」と意見が真っ向から対立。両者が言い分をぶつけ合う中、認証ADR機関から委嘱を受けた調停人が「土地の一部を貸し出し、残りは活用の自由度を残す案」を提示し、さらに「収益シミュレーション」と「行政支援の可能性」まで示せれば、調停は大きく前に進みます。
経済的な利害だけでなく、家族内の感情的なしがらみもある“相続不動産”において、調停人+土地活用の知識は極めて効果的です。
太陽光発電アドバイザー×ADR調停人候補者
「反射光・騒音・近隣トラブルに。“再エネの目”を持つエキスパート」
太陽光発電アドバイザーは、再生可能エネルギーに関する設置・契約・運用・トラブル対処の知識を持ちます。特に、隣人間で起こりやすい「反射光」「騒音」「景観」などのトラブルに有効です。
典型的なのは「隣家に設置されたパネルの反射で、日中カーテンを閉めざるを得ない」という苦情に対し、設置者が「業者は問題ないと言った」と主張する構図。認証ADR機関から委嘱を受けた調停人が太陽光の専門知識を持っていれば、「設置角度の微調整や反射防止フィルムの活用」「景観条例や判例との照合」など、技術的解決策を提示できます。
「話し合いでは決着がつかない、でも法廷には行きたくない」――そんな地域密着型のトラブル解決で、この組み合わせは非常に実用的です。
ADR調停人候補者 × 行政書士・社会保険労務士・司法書士
「調停から“書面の出口”までを導く、法務×実務のプロ」
ADR調停において、最終的に「合意」だけで終わらせてしまうと、その後の実務が進まず、トラブルが蒸し返される可能性があります。しかし、行政書士・社労士・司法書士といった法務系資格を持つ調停人であれば、話し合いの先にある「文書化」や「手続き」にスムーズに移行できるのが大きなメリットです。
たとえば、相続に関する調停の場で、親が亡くなったあと、兄弟間で財産分与の方向性はなんとなく見えてきたが、「具体的にどうまとめたらいいのか」が分からず、話が停滞するケース。ここで行政書士としての視点から「遺産分割協議書にどう記載するか」「どの名義変更が必要か」まで具体的に提示することで、当事者にとっての“次の一歩”が見えます。
さらに司法書士資格を併せ持つ調停人なら、不動産登記に関する問題にも対応でき、遺産に含まれる土地や家屋の名義変更、担保解除などまで一貫して支援可能です。社会保険労務士であれば、労働紛争、退職金トラブル、労働条件の誤解による対立など、労務の専門性を持って調停を進められるため、企業内・従業員間トラブルに強いという特徴もあります。
ADR調停人候補者 × メンタルヘルスマネジメント・産業カウンセラー
「感情の揺れを受け止め、心の安全基地となる存在」
調停の現場では、法的な論点や事実の確認以前に、「話し合いそのものができない」ほど感情が高ぶってしまっているケースが少なくありません。特に家族や職場など、長期的な人間関係に基づく対立では、「傷つき」「怒り」「不信」が交錯し、論理的な対話が難しくなる場面も多々あります。
こうしたときに、メンタルヘルスマネジメントや産業カウンセラーとしての知見を持った調停人は、感情を鎮め、相手の心に寄り添いながら、「話せる場」を丁寧に整えることができます。
たとえば、職場のハラスメント問題をめぐる調停。被害を訴える側は「もう顔を見るのも嫌」と泣き、加害を否定する側は「そんなつもりはなかった」と困惑し、平行線が続く状況。ここで認証ADR機関から委嘱を受けた調停人が、まず被害者の感情を否定せず丁寧に受け止め、そして加害者にも「自分がどう見られていたか」という気づきを促すことで、互いの視点に変化が生まれます。
一度こじれた感情が癒えたとき、当事者の言葉のトーンは自然と変わります。事実を整理する前に、“心の交通整理”をしてくれる調停人の存在は、極めて貴重です。
ADR調停人候補者 × ファイナンシャルプランナー(FP)
「感情とお金の狭間で、“数字で見せる”安心感」
金銭をめぐるトラブルの多くは、表面的には「額」の問題に見えて、実際には「将来への不安」や「損したくない気持ち」といった、漠然とした不安のぶつかり合いであることがよくあります。
ファイナンシャルプランナーとしての知識がある調停人であれば、そうした不安を“数字で可視化”することで、話し合いを冷静なものへと引き戻すことができます。
たとえば、離婚に伴う財産分与の調停において、「マンションはどちらが持つか」という話し合いの場面。感情が先走る中で、FPとして「マンションのローン残高・評価額」「今後の家計のキャッシュフロー」などをシミュレーションしながら提示することで、「現実的にどの選択が妥当か」が見えてきます。
「払えるかどうか」だけでなく、「これからどう生きるか」を数字で描いてあげることができる調停人は、単なる仲裁者ではなく、“人生設計のナビゲーター”として信頼を集めるのです。
ADR調停人候補者 × コーチング
「“答え”を押しつけない。本人の中から導く対話術」
調停は、誰かが勝って、誰かが負ける場ではありません。理想は、当事者それぞれが「納得」し、自分で前に進む意思を持てるようになること。ここで、コーチングのスキルを持つ調停人は絶大な力を発揮します。
たとえば、親から会社を引き継ぐか悩む二代目社長が「どうしても父と話すと感情的になる」とこぼし、一方で父親は「任せる気はあるが、まだ未熟に見える」と突っぱねるケース。ここで調停人が「3年後、理想の経営者としてどんな姿になっていたいですか?」「そのために、今の父との関係をどう整えておきたいですか?」と問いかけることで、当事者の中に眠っていた“本音”が自然と言葉になる瞬間があります。
コーチングは、アドバイスや説得ではなく、「問いかけ」で本人の答えを引き出す対話術。このアプローチは当事者の「気づき」と「自発的な選択」を生み出し、長期的な納得感を伴う合意へと導きます。
ADR調停は、基本的には法的な強制力は持ちませんが、その分調停人のスキルとして「納得してもらう力」が求められます。そして、上記のような専門資格を持つことで、単なる仲裁者ではなく“内容に詳しい第三者”としての信頼を得ることができ、当事者の不安や誤解を一つひとつ取り除いていくことが可能になります。
また、これらの資格は机上の知識だけでなく「現場感覚」や「相場観」を育てるものです。そのため、調停の席で「現実にあり得る解決策」をその場で出せるようになり、結果として合意形成をスムーズに導く“実行力ある調停人”になれるのです。
専門知識 × 中立性 × 信頼感。この三位一体が揃ったとき、ADR調停はただの話し合いではなく「解決の場」に進化します。どの資格を組み合わせるかは、自身の強みや興味、対応したい分野によって選ぶのがベストですが、いずれも“争いを止め、次へ進む力”になることは間違いありません。
ADR調停人を目指すなら、LECがおすすめする「ADR調停人養成通信講座」
LECのADR調停人養成通信講座は、日本不動産仲裁機構ADRセンター(法務大臣認証裁判外紛争解決機関)の調停人候補者研修。調停人としての法的知識、面談技法・調停技法【理論と実践】、倫理・活動を学びます。
WEB通信講座だから「いつでも、とこでも」、自分のペースで隙間時間を活用して効率的に学習を進めることができます。調停人を目指す人は講座受講をご検討ください。
執筆者情報
林 雄次(はやし ゆうじ)

LEC専任講師/はやし総合支援事務所 代表
情報処理安全確保支援士・資格ソムリエ®・デジタル士業®
| プロフィール | はやし総合支援事務所代表 LEC講師(ITストラテジスト/G検定/基本情報技術者/情報セキュリティマネジメント/ITパスポート/DX戦略研修/生成AI活用研修など) 1980年生まれ、東京都足立区出身。筑波大学附属高校卒業後、社会福祉を志し、淑徳大学にて社会福祉を学び社会福祉士の資格を取得。卒業後はITを通じて多くの方に役立つべく、 IT関連企業で1000社以上の中小企業の業務改善に従事し、業務・システムに精通。副業として『はやし総合支援事務所』開業、兼業2年を経て独立。 保有資格はシステム監査技術者、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、情報処理安全確保支援士、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、 ITサービスマネージャ等の高度情報処理技術者資格から、kintone認定カイゼンマネジメントエキスパート、中小企業診断士、社会保険労務士、行政書士、ファイナンシャルプランナー等ビジネス系、 健康経営アドバイザー、潜水士、防災士、さらには僧侶まで大変幅広く、550を超える。 上場企業からベンチャーまで幅広い企業での顧問や、講演、執筆、監修などに対応。士業向けに「デジタル士業」オンラインサロン主催、個人向けの資格・開業コンサルなどで幅広く活動。 「資格ソムリエ」としてテレビ・ラジオ・雑誌等のメディアで活躍中。 |
|---|---|
| 経産省:認定情報処理推進機関 中小企業庁:認定経営革新等支援機関 デジタル庁:デジタル推進委員 日本パラリンピック委員会 情報・科学スタッフ 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)セキュリティプレゼンター 全国社会保険労務士会連合会 情報セキュリティ部会委員 東京都社会保険労務士会 デジタル・IT化推進特別委員 広報委員 日本の資格・検定 公認アンバサダー |
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| 著書 |
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監修者情報
平柳 将人(ひらやなぎ まさと)

一般社団法人日本不動産仲裁機構 専務理事兼ADRセンター長
株式会社M&Kイノベイティブ・エデュケーション 代表取締役社長
一般社団法人マンション管理サポートセンター 共同代表
(一社)日本不動産仲裁機構 専務理事兼ADRセンター長として、不動産トラブルに関するADR調停実務を担う。株式会社M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役社長及び講師として企業研修やWEB講座等を行う。様々な企業より依頼を受け、主に不動産関連資格の講義や執筆を担当

