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特別寄稿
さようなら20世紀(1)
――残り500日のあいだに
株式会社インサイダー代表 高野 孟 氏

★ メディアの世紀 ★


 20世紀はまた一面で,メディアの世紀である.国民国家とその総力戦という戦争形態 は,全国民を動員してナショナリズムの熱狂に酔わせることなしには維持できないもの であり,新聞,ラジオ,映画,テレビなどマスメディアの巨大化と表裏一体の関係にあ る.
 メディアを通じての国民の熱狂の組織化を最も洗練された形に高めたのはナチスで, ヒトラーは,広場を埋め尽くした群衆が,はためく色とりどりの旗や幕,天に届くサー チライトの光,鳴り響く荘厳なワーグナーの音楽ですっかり気分を高揚させたのを見計 らって,
1本のスポットライトに導かれて白馬に乗って(実はそれで背が低いのを隠し た)ステージに登場し,火の出るような演説をした.これがゲッペルス宣伝相が編み出 した元祖マルチメディア演出であり,それを戦後,米国の広告会社が学んで広告やイベ ントに応用し,さらにそれを60年代の西海岸のカウンター・カルチャー世代が,光やス ライド写真や奇妙な色彩を組み合わせたロック・コンサートを,観客にドラッグを配る ことでさらに興奮を高めながら楽しませる手法に変換し,それを「マルチメディア」と 呼んだことから,今の普通名詞としてのマルチメディアが発祥した.


 20世紀のマスメディアの技術的な基礎はアナログである.文字,形,色,音声などの 表現要素をそれぞれ目的に応じて独特の仕方でアナログ(類似)物を作って加工・編集・ 蓄積・記録・伝送・流通させる方法が,お互いに関係なくそれぞれに発達したために, テレビはテレビでスタジオや機材やアンテナ塔などをラジオと共有するわけではなく, 新聞は新聞,映画は映画というように,広く世の中に配信しようとすればそれ独自の巨 大な設備・人員・資本を用意して,しかも権力の許認可を得て組織しなければならなく なった.消費者は,マスメディアから一方的にタレ流される情報をますます受動的に受 け取るしかなく, しかもテレビ,ラジオ,カセットデッキ,CDプレーヤー,ファックス 等々,メディアごとに別の受信機を次々に購入してメディアへの従属を深めなければな らなかった.
 20世紀はまた電気から電子への転換のプロセスであり,電子化によって初めてすべて の表現要素がデジタル化されて一元的に扱うことが可能になり,インターネットに代表 される世界的なネットワークの普及とも相まって,もはや少なくとも原理的にはマスメ ディアは独占的な発信者の地位を剥奪された.そのことが,情報消費者の情報生活者へ の転換の可能性をももたらしつつある.


 インターネットなどメディアの電子化は,狭い意味の情報のあり方を変容させるので なく,サービス業における単なる仲介業・代理業・流通代行業の存続を許さなくなるし, さらに製造業や農業にもインテリジェンス化による振り分けを持ち込みつつあるし,ま た国家と戦争のありようにも変化を与えつつある. 20世紀が何の世紀であったのかについては,まだいくらでもキーワードを挙げること が出来るだろう.本誌は本誌なりに,ここに挙げたようところから出発して歴史を振り 返りつつ,21世紀の可能性を探っていくとしよう. [以下次号]

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