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特別寄稿
さようなら20世紀(1)
――残り500日のあいだに
株式会社インサイダー代表 高野 孟 氏

★ 国家の世紀 ★



 20世紀は一面において,国家の世紀であった.国家など古代から無数にあったではな いかと言われるかもしれないが,ここで言うのはイギリス名誉革命(権利章典=1689), アメリカ独立革命(独立宣言=1776)という先行例に導かれながらも,本格的・典型的 にはフランス市民革命(人権宣言=1789)によって確立した西欧近代的な「国民国家(ネ ーション・ステート)」のことである.それから約1世紀をかけてそれが全欧に広まっ ていって,イタリア統一(ローマ遷都=1870),ドイツ帝国成立(1871)によってひと まず完成し, 各国が重武装して国境を隔ててせめぎ合う状況が生まれる中で20世紀が幕 を開け,やがてその摩擦熱が2度にわたる世界大戦として爆発する.それを通じて欧州 は勝敗に関わらず疲れ果て,その西欧近代の西と東の辺境である米国と旧ソ連が,巨大 な国土と人口と資源を持ち,核を事実上独占する「国民国家のお化け」としての超大国 となって世界的影響力を二分する一方で,陸続と植民地からの解放を達成した第3世界 諸国が米欧モデルかソ連モデルのどちらかを取り入れつつ近代化を目指したことによっ て,国民国家が地球的現象となるに至った.


 国家は古代からあり,国民国家は2世紀以上の歴史を持つけれども,それが全世界に 波及しながら,その頂点に米ソ超大国という爛熟形態を生み出したという意味で,この 世紀は国民国家花盛りの世紀だった.
 冷戦時代,すなわち超大国が思うがままに世界を動かせるかの幻想を抱いた時代が終 わって,では世界は50年前までの熱戦の時代に戻るのかと言えば,そこでは止まること が出来ず,
国境に仕切られた「国民経済」を基礎としてその上に中央集権的な国民総動 員型の国家をかぶせて,いざとなれば武力で国益を争い合うという国民国家の論理その ものの崩壊に行き着かざるを得ない.だから,米国が旧ソ連の解体を自国の勝利と勘違 いして,「唯一超大国」を気取ってあちこちを気儘に爆撃などしているのは,単に超大 国の解体が旧ソ連より少し遅れているだけであることに気が付かないための幻覚症状に すぎない.

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