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厳しい時代における弁護士とは

樋口 收氏 弁護士/敬和綜合法律事務所パートナー

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

100年に一度の世界恐慌となっている今、各企業が厳しい経済環境にさらされ、苦しい経営状況にある。そのような中、企業法務にあたっている弁護士はどうなっていくのか。M&A法務や事業再生法務などをご専門にされ、企業法務の最前線でご活躍の樋口先生に、企業法務にあたる弁護士の実状についてお話いただいた。


■ 司法試験受験勉強時代

反町

樋口先生は、司法試験に受かるのが早かったと記憶していますが。

樋口

そうでもありません。中央大学大学院に進学しましたが、司法試験受験のため中退しました。そんなこともあって、合格したのは27歳くらいです。LECにも通っていたのですが、反町先生の講義のカセットテープをよく聞きました。合格に導いてくださったのは、この講義のおかげであると、今でも大変感謝しております。

樋口 收氏(弁護士/敬和綜合法律事務所パートナー)

反町

ありがとうございます。樋口先生は、大学、大学院でしっかり法律の基礎を学んでよく勉強していたので、受験勉強もスムーズだったでしょう。

樋口

だといいんですが(笑)。ただ、私は、岩崎茂雄先生のクラスだったのですが、岩崎先生の人間味あふれる授業は頭にすっと入ってくるものでした。

反町

講師にもそれぞれキャラクターがありますからね。同じテキストを使っていても、その講師の人柄は出てくると思います。皆プロ意識を持ってやっていますので、内容は差がないのですが、司法試験のように長い学習時間を要するものについては、クスリと笑える部分があったりするのがよかったり、とにかくテンポがいいのがよかったりしますので、弊社でも受験生のニーズに応える講座制作をしています。

樋口

今、思い返してみまして、ライブ感覚が良かったのではないかと思っています。岩崎先生の生の授業に出たとき、岩崎先生が花粉症でタオルをもって、くしゃみしながらの講義というのが、大変印象に残っています。その花粉症の「発作」とあわせてその授業の内容もよく覚えています(笑)。

反町

講師は、どんなひどい風邪をひいても、講義だけはやらないといけませんからね。私が講師をやっていたころ、非常に頭が痛かったときがあったのですが、講義を始めると不思議とその痛さがなくなるのです。思うに、講義は論理的に話さなくてはならないので、頭でその作業が始まると頭の痛さどころではなくなって消えてしまうのではないかと。私は、どんな風邪でも休まず、倒れるまでやっていました。倒れたときだけは、さすがに立てませんから無理ですが。体が動く限りは、講義をやる、始めれば頭痛は消える、とやってきました。

樋口

私も反町社長の講義を受けたことがありますが、商法の授業が印象に残っています。国会が株主総会、内閣が取締役会、株主が国民、裁判所が監査役、と憲法の立法権・行政権・司法権になぞらえて説明する、反町社長ならではの講義内容でした。反町社長は公認会計士試験も合格されていたので、時々、会計学的な内容が入るのですが、それも良かったです。

■ 弁護士業界の実情

反町

樋口先生は、福田大助弁護士との共著で『“崖っぷち”からの“大逆転”の法律相談』(ロングセラーズ・1999)という、インパクトのあるタイトルの著書がありますね。

樋口 收氏、反町 勝夫対談

樋口

硬軟取り混ぜた内容を持った本でした。現在、某テレビ局の同じく「法律相談」といったキーワードが入ったタイトルの番組が、法律の枠にとらわれない内容でありながら人気ですが、当時、我々も同じような思いで、結構気合を入れて書いたのを覚えています。

反町

今の時勢に合ったタイトルですね。

樋口

現在は企業が厳しい経済状況にさらされていますし、私が専門としている事業再生系の法務は需要が高まっています。

反町

現在、弁護士が増えてきていて、なかなか厳しい状況が報道されたりしていますが、先生はどのようにご覧になっていますか。

樋口

現在、あらゆるところで「格差」という言葉が使われますが、弁護士業界も例外ではありませんね。現在、法律事務所間での事業収入の差は結構大きくなってきているように思います。法律事務所の多くの運営は、経営に関与するパートナー弁護士という事業所得者によってなされていますが、法律事務所が担う社会的使命と事業体としての法律事務所の発展をどうバランスさせるかが、非常に重要かと思います。それについて、多少なりとも「事業所得者としての成熟」という部分でお話したいと思っています。

反町

弁護士の実情が分かると思いますので、ぜひともお話いただきたいですね。

樋口 收氏(弁護士/敬和綜合法律事務所パートナー)

樋口

事業再生のフィーという点について言いますと、日米では顕著な差異があります。例えば、日本で会社更生手続が行なわれると、法律家管財人は、事業再生分野のベテランとされる弁護士が担当しますが、その報酬・給与を裁判所が決定する場合、当該企業の取締役や部長職の方の月額報酬などを考慮しながら決めているのが実務ではないかと推測されます。これに対し、米国の場合は、かような事案の報酬についても、タイムチャージを基本としていると聞きます。5〜6年前にユナイテッド航空に関して、日本の会社更生手続に当たる、米国連邦倒産法第11章手続(チャプターイレブン)が開始したときに、周囲の米国人弁護士が、数ヶ月で数十億円などと話しているので、何の話かと思ったら、管財人団のタイムチャージの合計額だったということがありました。事の是非は別として、日米でこれだけ感覚が違うということを実感した記憶があります。

反町

すごいですね。日米で、そこまで差異があるとは知りませんでした。 現在こういった厳しい時代ですから、会社更生事件、民事再生事件の件数はますます増えてくると思いますが、樋口先生が、ますますご活躍され、日本経済の再生の道筋をつけていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

≪ご経歴≫

弁護士/敬和綜合法律事務所パートナー
樋口 收(ひぐち おさむ)
1960年5月31日生。1983年中央大学法学部卒業、1991年第一東京弁護士会登録。成和共同法律事務所を経て、京総合法律事務所において国内企業法務全般、事業再生・倒産法務や渉外法律事務に従事した後、2004年1月敬和綜合法律事務所設立にパートナーとして参加。M&A法務から事業再生法務まで幅広く業務をこなす。1994年株式会社東京共同銀行設立検査役補佐、1995年株式会社わかしお銀行設立検査役補佐、1997年〜2002年株式会社整理回収機構協力弁護士、1998年大同コンクリート工業株式会社保全管理人補佐、2002年株式会社マイカル九州管財人代理、株式会社ビブレ破産管財人常置代理人、2003年株式会社エルメ社外監査役、2006年株式会社キャピタルメディカ社外監査役、2008年株式会社大泉製作所社外監査役。同年東京簡易裁判所民事調停委員就任、同年社団法人発明協会模倣被害アドバイザー就任。

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