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「権利を奪って保護を与える」


禁治産・準禁治産宣告という、これまでの後見制度における問題について、どのようにお考えですか?
    額田
    「従来の制度に関して、私が最大の問題と考えていたのは、本質的に援助制度であるべきにもかかわらず、その手段が行為能力(*注)の制限に偏っている点です。ある法学者は『権利を奪って保護を与える』という言い方をしていますが、まったくその通りで、そういった基本的構造は今回の法案においても、変わっていないと言えるでしょう。
     例えば、今回の改正の目玉である補助にも、行為能力に制限ができましたが、うがったとらえ方をすれば、たんに行為能力制限の対象者の範囲を広げただけと取ることもができる。そういう理解があるからこそ、補助人制度に反対する声があるわけです。援助の対象を広げようという発想そのものはいい。またそれにふさわしい援助制度を作るべきだと思いますが、行為能力を制限するという従来の手法のままでは、反対意見が出てきて当然ですし、一方で、取引の安全を害するという批判が出てくることも理解できます。手法を抜本的に考えるべきだったのに、過去の発想から抜けきれなかったということでしょう。
     そこまで含めて評価すれば、今回の法律の内容は50点から60点というところではないでしょうか。
     ただ衆議院において、一定期間を置いて見直す必要があることが決議されたことは今後、改善していくにあたって、大きな足がかりになるものと期待しています」

    注 「行為能力」
    権利・義務をもつための行為を一人で完全にできる能力のこと。この能力をもたない者を無能力者(制限行為能力者)という。これまで民法の認める無能力者は未成年者、禁治産者、準禁治産者の三種類だった。

行為能力を制限された人が行った行為は後見人が取り消すことができる。いわゆる取消権が論点になるのですね。
    額田
    「取消権という発想そのものを全否定するわけではないが、われわれの感覚からすれば、結局、取消権を中心として法制度を構成しても、問題は残るということです。
     悪徳業者に対して事後的に取り消しを要求したところで、現実には被害は取り返せないことがある。そういうことを、われわれは身にしみているわけです。本当に取り消したい取引は取り消したところで、元には戻らない。そもそも本当に悪質で巧妙な業者であれば、後見制度の対象者でなくても、引っかかる可能性があるわけです。であれば、クーリング・オフなど、一般的な消費者保護法を拡充することによって、不公正な取引を排除していくほうが現実的な対処ではないでしょうか。
     あるいはフランス法で採用されている法制ですが、対価的にみて、その取引が見合ったものであるかどうかを判断して、著しく不均衡な場合に取消権を認めるという方法もあります。そうすれば、少なくとも、まともな業者との取引きは取り消せないわけですから、やましいところがない真っ当な業者であれば、取消権の行使を心配することなく、安心して取り引きに応じられるわけです」

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