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カテーテル特許訴訟の逆転劇 米国特許弁護士 服部健一
米国特許弁護士 服部健一

グアム・デポジション 
 ようやくデポジションが始まった。原告側に、やつれた中村発明者、シュナイダー弁護士、リンダ・ケリー弁護士、そしてヤマザキ・メディカル社の山西特許部員がいた。
 デポジションが始まるとシュナイダーが開口一番述べた。
「中村発明者はずっと前にヤマザキ・メディカル社を退職しており、新しい会社で超多忙にもかかわらず、わざわざ日本からここに来ている。この証人は大変疲れいる。本当はデポに出廷する義務も無いのに協力しているので、今回のデポジションの時間は3時間に限定してもらいたい」
 確かに中村氏の顔は緊張と旅の疲れで憔悴しきっているようだった。
「それはおかしい。われわれは休憩時間を2時間与えたし、夕方5時までは6時間はあるはずだ。しかもウィルソン社は飛行機代やホテル代もすべて提供している。8時間はグアム島に居られるという約束ならそれを守ってほしい」
 ベルベスコスはこれはシュナイダーの戦略でしかないと考えている。本来なら怒りを表したいところだが、すべての発言はコートレポーターによって記録されているのでできるだけ穏やかに事をすすめようとしているのだ。
「われわれもできるだけ協力するつもりです。でも証人の健康問題ではしょうがないんじゃないですか」
 リンダ・ケリー弁護士が凛と言い張った。これは説得力がある。まず協力するという発言が記録に残る。次に証人の健康というのは確かに絶対問題である。後に時間の短縮が問題になっても判事はこうした発言記録しか調べるべき書類はないから同調せざるを得ないだろう。今は完全に弁護士の表情で、海岸でのリンダはいない。
 ベルベスコスの顔に怒りが見え始めた。私は彼の耳元にささやく。
「スペロ。ここはこうしよう。われわれも承認の健康は重要と考えているので、取りあえず3時間行なって、その時にもう一度証人が続行できるか確認することにしよう」
「まあ、それしかないだろうな」
 ベルベスコスもそうつぶやいてその旨をシュナイダーに伝えた。3時間後に健康状態を再確認するという前提でデポジョンが始まった。
 中村発明者の証言内容はほかの4人の発明者とまったく同じだった。−“at least about 10℃”の“about”の手書き挿入−、−その意味−、−誰がいつ行ったのか−、−なぜそういう訂正をしたのか−、等すべての質問に対し、知らぬ存ぜぬの一点張りだ。疲れているという割にはしっかりと断定的に答えた。しかし、ベルベスコスは執拗に何度も同じ質問を繰り返す。シュナイダーも負けずに“Objection! Asked and answered(異議あり、すでに同じ質問があり答えている)”と割って入る。リンダも時折Objectionをかける。彼女の場合は理由が明快でシャープだ。
 しかし、証言の内容はほとんど意味のないものだった。ベルベスコスがイライラしていくのが手に取るようにわかる。シュナイダーは作戦通りと顔の表皮の下ではニヤついていた。私とリンダはほとんど表情を顔に出さず、リード・カウンセルを助ける。安斎弁理士も時折私やベルベスコスに耳打ちしてコメントを伝えたりする。こうして、予定の時間はあっという間に近付いてきた。デポをこのまま続ける要求をするべきかを検討するためにベルベスコスが休憩を要求し、われわれは控室へ引き上げた。




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