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21世紀の大学象とは?
実務家を入れるメリット


反町
社会の実務的な教育に対するニーズについて、どのようにお感じになっていますか?
    手塚
    従来型の、一部の大学の助手コースや大学院を経た人たちだけの大学の教授陣というのはややもすれば伝統的な講座制の発想を引きずってしまうでしょう。明治に旧帝国大学の法科大学ができて以来、100年以上の伝統がある講座制で育ってきた人たちが大半を占める国立大学では、これまでにない実務教育に対する認識が欠けがちになると思います。
     しかし、大学は実務の後追いをしているだけだという実務家からの率直な意見があるのです。また今、議員立法が少し増えてきていますが、行政が法律を作っているのが日本の実情で、立法府の立法能力が低いため、行政主体の国家運営になっている。学者はその後付けだけしていていいのか? という批判もあるわけです。
     行政や立法の領域でも、先を見通した立法をすることができるだけの能力をもつ人が少なくなったといえるかもしれませんが、学者にも当然、問題があります。私は“族議員”“族マスコミ”“族学者”と言っていますが、主要な官庁の御用学者が多すぎるのです。審議会の数が減ることは大賛成です。これまでは行政の情報公開が進んでいないこともあり、審議会なり、政府の委員会に属し、資料をもらって、後追い的な解説をするだけしか能力がないというところに学者が落ち込んできている可能性はないか。そして、それが大学のプレステージが落ちている原因なのではないか。とくに立法と行政との関係で、きちんとものを言える学者が存在することが必要です。戦後、そういう時代が若干あったとも言われていますが、現状はその機能が弱体化しているといわざるをえません。今の日本の課題、私の研究領域でいえば、高齢社会の研究についても、専門家が行政サイドとしっかり対話しているとはいえない状況です。
反町
行政サイドもたんに解説をしてくれる機能だけを学者に求めているという面があるかもしれません。
    手塚
    それに比べて、欧米の一流の学者は政府が施策を示したとき、研究のストックをもとに、すぐにその政策の是非や妥当性、適法性などについてコメントを出せるわけです。具体例を出しますと、今年の1月19日、ドイツの憲法裁判所が子供を育てている夫婦に対して約70万円の所得税の控除をせよとの判断を下しました。そういう処置をとらないと違憲である、即座に立法措置を取れ、という結論です。これに対して、翌日、年金審議会の会長を務める学者が意見を発表しました。ドイツの年金は現役世代の実所得にリンクしているので、現役世代は所得控除が増え、可処分所得が増える。それが年金受給者の年金に跳ね返る。年金受給者はそれを跳ね返さないことを鉄則にすべきだという談話でした。
     日本ではなかなかそのような瞬間がありません。新聞にコメントを出す人たちは解説記事に相当するような発言しかできていないという傾向があるように思われます。またその会長の意見にドイツ政府も従う方向になったのですが、果たして、日本の学者にそれだけの権威があるかといえば、それも疑問といわざるえません。
反町
結局、日本の大学院における研究者の養成は伝統として抱えてきた講座制の教育でなされてきたがために、時代にさきがけて発言するということができにくくなっているのですね。

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