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カテーテル特許訴訟の逆転劇 米国特許弁護士 服部健一
米国特許弁護士 服部健一

大阪デポジション


 大阪でのデポジションはヤマザキ・メディカル社の山西特許部員と発明者3人に対して行うことになった。山西特許部員以外の3人はすでに同社を退職し、今はそれぞれ新しい会社で働いているが、当時の関係者ということでデポジションに呼ばれたのであった。まず、ヤマザキ・メディカル社の山西氏への尋問が開始された。
 デポジション開始まで、移動中さえも議論を重ねてきたことだが、デポジションでは、これらの4人に聞くべき重要な点があった。それはカテーテルが10℃で変化する点についてである。特許のクレーム(独占範囲を示す記録)は「最大でも約10℃(at most about 10℃)」となっていた。ところが、ヤマザキ・メディカル社からアメリカ特許弁護士へ伝えた英文の文章には単に「at most 10℃」と記載され、「about」という文字はなかった。何者かが手書きで「about」と挿入したことで、この「about」があるため反応温度が10℃かっきりである必要はなくなる。つまり、11℃や12℃で反応してもよいことになるのであった。そうすると、ウィルソン社のカテーテルは12℃で反応するものもあるから、特許侵害になる恐れが出てくる。そこで、「誰が」、「いつ」、「どういう目的」で「about」を入れたのかが焦点になる。山西氏への尋問が一時休憩になったところで、今後、4人の証人に対してその点を尋問するか否かがあらためて問題になった。
 
 ベルベスコス弁護士はじっくりその得失を考えていた。
「ケン、君はどう思う。直接尋問して聞いたほうがいいかな」
 こういうことを仲間に聞く弁護士は、まずしっかりした弁護士といっていい。アメリカの多くの特許弁護士は自信過剰で自分で勝手に独走して墓穴を掘る場合が多いのだが、抜け目のない弁護士なら仲間にどんどん意見を聞き自分が絶対正しいか確認してから行動する。訴訟弁護士には大胆にして細心という心配が必要なのだ。
「もし、山西らが10℃に拘泥せず、広い範囲のクレームを取るために入れたと答えたらわれわれにとって不利になるな」
「そうしたら、なぜ最初から『about』を入れなかったのかを質問するまでさ」
「う〜ん、その時は気が付かずに、後から気が付いたと答えるかもしれない」
「それなら、次に『at most(最大でも)』と『about(約)』とは矛盾する記載で特許無効になる覚悟があったのかと聞く」 
「彼らはそこまで米国特許法は知らなかったと答えるだろう」
「そうかもしれないが、あの状態からすれば、そうすらすら答えられないだろうさ」
「確かに今までも滅茶苦茶に緊張していますよね」
 まだ、米国訴訟の経験の少ない安斎弁理士でさえ、そう感じているようだ。
「うん、確かに緊張している。よし、その様子を見ながら少しずつ核心に入って、最後に質問するかどうか決めよう」
 ベルベスコスもどうやら決心がついたようだ。
「うまく答えられる様子があったら最初の質問は聞かないのか」
「そうなるかもしれない。まあ様子見次第だ」
 ベルベスコスが厚い胸をさすりながらクレームの書面を見てつぶやいた。
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