↑What's New ←目次
2000.vol.2

消費者契約法

 なぜ、消費者契約法か


 取引契約において、商品・サービスの保有情報、契約交渉能力で不利に立たされる消費者を法的に保護しようとする「消費者契約法」の成立が間近といわれている。そもそも、わが国の法体系では、私的自治の原則の下、契約当事者はあくまで対等であり(憲法第13条)、私法上の法律関係に政府が介入することは否定的に解されている。しかし、食料品、電化製品、自動車などの欠陥商品のリコールをはじめ、塾、エステのサービス内容をめぐるトラブルが続出した社会的背景の下、契約弱者たる消費者を 特別に保護するため、政府は消費者保護基本法(昭和43年法律第78号)制定と施行という立法政策を図ってきた。
 ところが、消費者保護基本法は、契約当事者の契約態様、内容について規制を設けず、消費者利益を確保するための努力規定にとどまっており、条文には具体的内容が伴っていない。また民法上も、消費者から相手方事業者に対し、錯誤無効(民法第95条)、詐欺取消(民法第96条)、担保責任の各規定(民法第561条以下)を主張しうるかどうか微妙なケースもある。さらには、相手方の一方


的、不合理な免責規定が約款に盛り込まれ、それと知らずに契約を締結しているのが通常といえ、これまで消費者保護法制は積極的に構築されてきたとはいえない。
 そこで、消費者にスポットをあて、取引の実情やトラブルの実態を踏まえた法的保護をめぐらすことは大きな意義がある。それは今後、電子取引が増大し、商
品・サービス取引契約の形態が非対面化し、商品・サービスを めぐる情報がますます事業者側に偏在していくことを踏まえると、消費者契約法の重要性は自明である。既に施行されている製造物責任法が契約目的物そのものに着目して消費者保護を図っていることから、これらは両軸の車輪としての法機能が期待されているわけである。



 政府の動き


 まず、国民生活審議会消費者政策部会が1999年1月、2年間にわたる審議経過を踏まえ、「消費者と事業者の間で締結される契約を幅広く対象として、その適正化を図るため、具体的な民事ルールを規定する消費者契約法(仮称)をできる限り速やかに制定すべきである」との報告をとりまとめた。
 また、行政改革推進本部規制改革委員会による『規制緩和推進3か年計画(改定)』(1999年3月30日)では、消費者保護という観点とは別に、「規制改革の一環として、消費者・事業者双方の自己
責任に基づいた経済活動を促す公正なルールを確立するという観点から、消費者と事業者の間で締結される契約に広く適用される民事ルールの検討を推進する」こととされた。1999年12月14日に同委員会から出された『規制改革についての第2次見解』でも、「規制改革などの経済構造改革の進展に伴い、政策運営の基本原則を事前規制から市場ルールの整備へと転換する必要がある中で、消費者契約法(仮称)については、消費者、事業者双方の自己責任に基づいた経済活動を促す公正なルールであること


が必要であり、消費者と事業者の間の紛争の円滑かつ迅速な解決に資するためにも、消費者契約法(仮称)の各規定については、要件が明確で予見可能性の高いものとすべきである。」との見解が付されている。



 法案の全容


 それでは、消費者契約法案の内容はどのようなものか。消費者契約法案は、全10条からなる。
 第1条は目的規定で、消費者と事業者との間に契約交渉力に格差があることに鑑み、事業者の行為によって消費者が契約内容を誤認したり、迷惑をこうむった場合、契約の取消または無効を認め、消費者利益を保護することが立法目的とされている。消費者と事業者の自己責任を確立し、自由・公正な取引社会を構築することも、見えざる立法事実として観念しうるであろう。
 第2条では、消費者と事業者の定義がなされている。事業者は、法人・団体または事業のために契約当事者となる個人とされている。当然、国、地方公共団体、特殊法人も含まれる。
 第4条は、消費者の取消しうべき行為が列挙されている。重要事項の虚偽告知、断定的判断の提示、消費者に不利益な事実の不告知、不退去によるセールス、である。
 第8条では、事業者の賠償責任を免除する条項が、第9条では、消費者が支払う損害賠償額に関する条項(違約金が


平均額を超えるものと遅延損害金が年率14.6%を超えるもの)が、第10条では、消費者の利益を一方的に害する条項が、それぞれ無効とされる。取消・無効事由については、これまで苦情の多かった事例をもとに類型化し、法文に盛り込まれたものであるが、施行後の法改正により追加される余地は残っている。
 全般的に、法案は民法上の典型契約はもちろんのこと、それに明確に当てはまらない契約についても網羅的に保護しようとしているのが特徴である(もっとも、ヒトの労働力の提供を内容とする雇傭契約を除いてのことである)。



 問題点とその解決法


 消費者契約法案は民事特別法として大きな前進をもたらすものであるが、問題点がないわけではない。
 まず、取消・無効事由となる事業者の行為について、違反が認められる場合の罰則が規定されておらず、一般予防効果が期待しえない。事後的、対処療法的な消費者保護では、事業者の「やり得」を招く危険が高い。
 消費者契約法は消費者保護を主目的としながらも、副次的ながら、自由で公正な市場社会の維持をも目的とすると考えるべきである。それ故、あくまで立法論であるが、懲罰的損害賠償制度の導入等を検討すべきではないだろうか。
 また、消費者契約法の施行に際しては、もともと契約概念が著しく希薄な国民につき、契約保護を全うしなければならないという、ある種のジレンマがつきまとう。消費者たる一般国民が法律の存在を知り、内容を一定程度認識していなければ、法律は画餅に堕する。そこで、政府が中心となり、法律の内容(より具体的に、消費者としての権利の行使方法)を十分に告知する施策が不可欠である。各自治体とその出張所に相談窓口を設けると共に、弁護士・司法書士の地方単位会が常時相談を受付けるような態勢整備が求められるといえよう。


←目次


↑What's New ←目次
2000.vol.2
Copyright 2000 株式会社東京リーガルマインド
(c)2000 LEC TOKYO LEGALMIND CO.,LTD.