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2000.vol.2

今月のことば

「グローバル化・産業構造の転換後、
雇用の流動化に即応した企業コンサルティングのあり方」


反町 勝夫
■ LEC東京リーガルマインド代表取締役会長 ■ 


1.長期不況による雇用対策の限界
 この2月に発表された1999年のわが国の失業率は4.7%で、史上空前の好景気を続けているアメリカの4.2%を上回った。わが国の失業率はこの15年で約2.6倍となった。
 政府は雇用対策の位置づけとして、景気変動や産業構造の変化などによって事業活動縮小を余儀なくされた時に支給される対策(雇用調整助成金等)を行ってきた。この政策は不況時における一時的な措置で必ずしも抜本的な対策ではない。
また、衰退している産業への延命措置という批判が強く、雇用調整助成金の拡大などは緊急措置の繰り返しで雇用対策の限界にきている。


2.雇用のミスマッチ
 産業構造の変化に伴い、労働者が他企業・他業種への移動をはかる際、それまでの知識や技能などの条件が一致しないために雇用のミスマッチ現象が起きている。
 通産省が日本商工会議所に委託して調査したところ、全国の職業安定所に登録された有効求人者数は121万人であるが、企業の実際の求人者数は267万人に達している。実際の求職者はこの数倍にものぼると見られているが、約2.2
倍の求人需要があるにも拘らず失業率が高いのはこのミスマッチが要因だといわれている。
 この現象は、更なる産業構造の転換・高齢化などにより今後さらに増えつづけ失業率の上昇に繋がる懸念が生じてくる。このミスマッチが解消されない限り日本の産業全体が生き残れない。
 それではこれらを解消するためどのような対策が必要であろうか?


3.高度な専門技術の能力開発
 リストラが進み、これまでの知識や情報を持つだけの労働者は必要とされない。また、グローバル化により様々な分野・技術において国際標準化が進みその業種・企業内だけの技術では対応できないのである。
 このような状況に対応するためには、企業は社員研修に相当力を注がねばならない。その中身としては雇用後の研修・教育にあり、企業内外において職種に適合する職業能力の開発を強め、広く、社員にその受講の機会を与えること
が急務である。また、技術力・得意分野を強化することにより高度な専門技術を持った社員を雇用・教育し従事させることが必要である。その一環として、労働省は雇用保険法第60条の2第1項により教育訓練給付制度を導入・実施している。また、通産省においても、この解決のため、人材紹介事業や人材育成事業を育成する必要があることを強調している。人材派遣においては、受け入れ企業が、より高い知識や技能、資格がある人を雇用しようとするニーズが高まってお


り、当初はコスト削減の目的で補助職として雇用していた時代は過ぎたといえる。特にIT(技術情報)分野においては各企業とも人材不足に悩まされ、人材派遣市場での需要が高い。また、大手派遣会社では、技術者の教育の強化や専門教育をする専門学校との提携などにより人材確保に懸命であるといわれている。
 高度な専門技術を持った社員は当然に雇用の流動化の流れの中で、自己の能力によってベンチャー企業などに移動する人がでてくる。労働者に対してだけではなく経営者に求められるものは何であるか?


4.企業経営管理士の誕生を期待する
 高度知識情報産業・グローバル経済化で、わが国の産業の根幹である企業を維持・発展させる経営者の育成が不可欠である。リストラはもとより経営環境の整備が必要である。経営者に求められるものは、市場の動向を見極め、法令に熟知することであるが、わが国には経営専門家を育成すべき公的機関がないのが現状である。確かに大学の経営学部や大学院の経営学研究などに代表されるものはあるにはあるが実務への実行が伴っていないのは周知の事実である。
 わが国では中小企業診断士制度があり、経営者に助言を与えているが、アメリカのMBAと同様の企業経営・企業診断・企業管理のプロとしての専門家(企業経営管理士)を今後誕生させ活躍することが要請される。企業経営管理士は起業支援・経営診断・経営革新及びその他企業の市場競争力強化に必要な助言を与える権限を有し、企業経営の健全な発展に寄与することを目的に業務に関する法令・実務に精通し誠実に業務を遂行することが必要である。他方、アウトソーシング(業務の外部への委託)などの経営判断を展開する時代がやってくる。


5.PWCのアウトソーシング
 世界5大会計事務所の1つであるアメリカのプライスウォーターハウスクーパース(PWC)が契約先の企業から経理・財務・人事の間接部門の社員を一括して引き受けて再教育をする新ビジネスを日本で展開する。このビジネスが浸透すると事業再構築により間接部門を切り離す企業が増え、欧米では既に普及しているアウトソーシングが急速に増えるであろう。もともと日本でのアウトソーシングは経費削減が主な目的だったが、人員削減については組合の反対によりなかな か実現できない状態であった。しかし、今回のPWCのように社員を業務と一括して引き受けることで、転籍がキャリアアップにつながると見る傾向が生まれる。
欧米では既に20社近い企業が間接部門をPWCに委託しているといわれ引き受け社員数は1万人にのぼるといわれている。これにより日本においても企業内において合理化が進み、アウトソーシングの引き受けにより、経営コンサルティング会社の発展につながると思われる。


6.企業コンサルティングのあり方
 企業経営者としては、より高度な専門技術を持った社員を雇用し、雇用後の社員教育を充実させ、さらなる高度な技術の向上を促進させること、また、経営者として、市場の動向を見極め、法令に熟知し実務に精通すること、が求められる。
 従来の公認会計士、税理士・中小企業診断士・社会保険労務士の各専門分野である業務からさらに発展した企業経営管理士の誕生を期待しつつ、より高度な専門性を備えた、企業経営・企業管理のプロが担うことが雇用の流動化に即応した企業コンサルティングのあり方といえよう。



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