↑What's New ←目次
2000.vol.1
ワールド トレンド レポート
中国
 中国の国内法システムと司法制度

弁護士 森川伸吾


国内法システム

中国の国内法には(1)憲法、(2)法律、(3)行政法規、(4)部門規則、(5)地方性法規、(6)地方人民政府規則、(7)民族自治地域のにおいて制定される自治条例及び単行条例、(8)特別行政区1における当地の法律等がある。
これらの効力関係については、効力の高いものから順に、憲法、法律、行政法規、地方性法規という序列となる。部門規則の効力は行政法規よりも低く、地方人民政府の規則の効力は地方性法規よりも低い。部門規則と地方性法規の効力関係及び部門規則と地方人民政府規則との効力関係は法律上は明確にされていない。これらの間で矛盾が生じた場
合には全国人民代表大会(国家の最高機関;「全人代」と略称されることが多い)の常務委員会(「全人代常委会」と略称されることが多い)又は国務院(全人代の下位にあって行政権を司る国家機関)が処理方法を決定することになっている。特別行政区における当地の法律は、いわゆる「一国二制度」の原則の下、特殊な扱いを受ける。
憲法は全人代により制定・改正される。法律は全人代又は全人代常委会が制定・改正する。全人代は議員数が3000人弱と多数にのぼり1年に1回しか開催されないので、多くの法律は全人代常委会により制定される。行政法規は国務院


が制定する。国務院に対しては全人代が広範な立法委任をしているため、大多数の行政法規は具体的な法律の授権を受けていない。部門規則は国務院の各部・委員会(例えば外交部、司法部等)が、その所轄領域について制定する。部門規則の制定権は憲法上明文で認められており、部門規則の制定に際しては、上位法規による具体的な立法の委任は不要であると考えられている。地方性法規は地方各レベルの人民代表大会又はその常務委員会が制定する。地方人民政府規則は地方各レベルの人民政府2が制定する。
これら各種法令の公布については統一
された方法は存在しない。例えば法律については制定機関である全人代又は全人代常委会が法律案を採択した後、国家主席がこれを「公布」するという手続がとられるが、公布日に法律の内容が実際に新聞報道等により公表される訳ではなく、公表までに一定の時間差がある。また、行政法規については、国務院の最高機関である首相(中国語では「総理」)がこれを「発布」するという手続がとられるが、法律の場合と同様、行政法規の発布と新聞報道等による公表との間には一定の時間差がある。その他の法令についても同様の情況がある。このような時間差の問題に加え、法令の公表


に用いられる媒体が不統一であるという問題や、そもそも実際には公表されない法令があるという問題がある。公表媒体の問題については「当該官庁の公報3に法令を掲載する」という方向で徐々に解決されていく傾向にあるように思われる。
さて、中国においては制定法主義がとられ、判例には法規範としての効力は無い。更に、判例の蓄積による事実上の判例法の形成という考え方も一般には認められていない。従って、中国においては法規範の具体化・明確化を判例により図ることは現時点では困難である。
このような中国において法規範の具体
化・明確化の機能を担っているのは「有権解釈」である。有権解釈は、正式解釈、法定解釈、有効解釈等とも呼ばれ、国家機関が行う解釈であり、法的拘束力を有する。
日本においては国家機関による法の「解釈」という行為には法律上の明文の根拠は与えられていない。しかし中国では憲法第67条により、憲法及び法律の解釈権が全人代常委会にあることが明文で認められている。更に全人代常委会の決議(法律としての性質を有する)により、最高人民法院、最高人民検察院、国務院及びその部門並びに地方法規及び自治法規の制定機関にも一定の法律解


釈権があることが認められている。これらの機関の行う有権解釈は立法解釈、司法解釈及び行政解釈の3種に分類される。
立法解釈とは、全人代常委会、国務院、地方法規及び自治法規の制定機関が、各自の制定した法規に対して行う解釈である。また、憲法第67条により全人代常委会は全人代の制定した憲法及び法律に対して解釈を行うことができるが、これも立法解釈に分類される。
司法解釈とは、最高人民法院が裁判活動における法令の具体的適用
の問題について行う解釈、及び、最高人民検察院が検察活動における法令の具体的適用の問題について行う解釈を意味する。最高人民法院の司法解釈は下級の人民法院を拘束し、最高人民検察院の司法解釈は下級の人民検察院を拘束する。最高人民法院の司法解釈と最高人民検察院の司法解釈に原則に関わる不一致があった場合、全人代常委会に解釈の統一を求めるものとされる。
行政解釈とは、行政機関が、他の国家機関が制定した法規に対し、その具体的適用の問題について行なう解釈であ


る。これには法令の付則などで明文の委託を受けて行なわれる解釈と、裁判・検察活動以外の分野について国務院及びその部門が適宜行なう解釈とがある。
立法解釈及び行政解釈については、解釈が解釈対象と同等の効力を有するとされる。また、司法解釈には補充立法に近い内容のものも多く、法律の実務においては司法解釈が制定法と同様の形で機能している場合も多い。


司法制度

中国においては三権分立制は否定されており、全人代が国家の最高機関とされる。しかし中国においても、各国家機関の間における役割分担ないし権限分配の問題として、立法機関、行政機関、司法機関という分類は存在する4。司法機関とは、強制力による法執行(犯罪の処罰を含む)を担当する機関とされ、具体的には人民法院(裁判機関)及び人民検察院(検察機関)が共に司法機関として位置付けられる。
人民法院には最高人民法院、地方各レベルの人民法院及び専門人民法院の三種がある。地方各レベルの人民法院は基層人民法院、中級人民法院及び高級
人民法院の三レベルに分かれ、民刑事のみならず行政事件についても裁判権を有する。専門人民法院には軍事法院、海事法院、森林法院等がある。最高人民法院は国家の最高裁判機関であり、他の人民法院に対する監督権限を有する。
三権分立制の国家では「裁判権の独立」及び「裁判官の独立」を内容とする「司法の独立」が保障される。しかし中国ではこのような意味での司法の独立は存在しない。
「裁判権の独立」についていえば人民法院は人民代表大会の監督を受ける存在であり、その独立性は高くはない。各レ


ベルの人民法院の主要人事も全て対応するレベルの人民代表大会(又はその常務委員会)により決定される。更に、下級の人民法院の裁判業務は上級の人民法院による監督を受ける。
また、「裁判官の独立」の制度もとられていない。例えば、重要案件・難解案件については、担当裁判官ではなく裁判委員会(各人民法院毎に設けられる)に最終決定権がある。裁判官の身分保障も緩やかであり、人事考課の結果2年連続で不適任とされた場合にはこれを解雇することができる。
なお、裁判官(法官)の資格要件は従来は緩やかであったが、1995年の裁判官
法施行に伴い任官に試験制度が導入され、また一定の法律的素養が要求されるようになった。
三権分立制の否定とも関連して、中国では違憲立法審査制は存在しない。人民法院は憲法解釈権を有さず、全人代(又はその常務委員会)が制定した法律の当否を判断することはできない。
人民法院の事件審理は原則として公開で行われる。但し、国家機密、個人のプライバシー、商業秘密等に関る事件は非公開とされうる。また、公開で審理される事件についても、実務運用として傍聴に事前の許可を要する場合がある。
司法制度の一部として重要な弁護士制


度は、中国では政治的動乱5のため1950年代後半から20年以上に亙り事実上廃止されていた。しかし文化大革命終結後に弁護士制度も復活し、弁護士暫定条例が1980年に制定された。その後、弁護士試験制度の創設、国有弁護士事務所への独立採算制の導入、パートナーシップ制法律事務所の許容等の改革が行われた。これら改革の成果を総括する形で弁護士法(律師法)が1996年に制定され、現在に至っている。なお、中国においては弁護士自治の制度はとられておらず、弁護士は政府の監督に服する。
1 特別行政区とは、1999年12月1日現在では、香港特別行政区のみを指す。
1999年12月20日のマカオ返還後には、香港特別行政区とマカオ特別行政区を指すことになる。
2 各地方の人民政府は当該地方の人民代表大会の下位にあって行政権を司る。
3 「公報」、「文告」等、名称はまちまちであるが、定期購読可能な雑誌のようなものである。
4 立法機関、行政機関、司法機関という分類は存在するが、各機関は「対等」ではなく、あくまでも全人代(立法機関としての性質も有する)が最高機関である。
5 具体的には1950年代後半からの「反右派闘争」及び1966年から1976年までの文化大革命の影響である。


←目次

↑What's New ←目次
2000.vol.1
Copyright 2000 株式会社東京リーガルマインド
(c)2000 LEC TOKYO LEGALMIND CO.,LTD.