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禁治産宣告制度における事例


痴呆性高齢者などの財産管理や身上監護を代行することを主旨とした成年後見制度が来年4月にもスタートする見込みです。  司法書士会としては早くからこの問題に関心をもたれ、取り組まれていたわけですが、そのきっかけはどのようなことでしたか?
    岩澤
    「司法書士としては執務の内容から、当初は権利関係、財産関係が中心でした。例えば、不動産売買取引があったとき、売り主の意思が確認できない。そのような事例が出発点です。それはかなり深刻な問題で、そのような際、調査を行う権限はどこまで認められるのか? という問題もからんでくるわけです」

具体的な事例としては、どのようなケースがありますか?
    岩澤
    「半身不随で、若干、痴呆の症状がでている高齢者がいました。近所に住む人がその面倒をみていたわけです。高齢者は、不動産会社を中に入れ、所有不動産をその世話をしている人に売却することとなりました。ところが数日後、不動産会社から、その世話をしている人が積極的ではなくなってきているようだとの連絡がありました。調べてみると、遺言書がみつかって、世話をしてくれた人物に財産をすべて遺贈するという内容でした。将来もらえるものであれば、購入する意欲がなくなって当前です。しかし、さらに高齢者に真意を確認したところ、その気持ちはまったくないというわけです。周囲の人に様子を聞いてみると、以前もその人物はその高齢者の貯金を下ろさせようとしたことがあったという。どうやらその人物が誘導して遺言書を作成させたらしいことがわかったわけです。
     また一人暮らしの高齢者がさまざまな消費者被害に遭うといったケースも非常に多いですし、より一般的な例では、判断能力、知的能力が低下して、本来、受給できる障害者年金や老齢年金などの手続きをとっていない人なども大勢います」

これまで、意思能力、判断力が低下した人のため、禁治産宣告の制度が適用されていたわけですが、その制度の問題点についてはどのようにお考えですか?
    岩澤
    「最大の問題は、利用されていない、利用されにくいということです。しかし、禁治産制度の問題の本質は、高齢者や障害者の人権が守られないことにあります。そもそも日本の禁治産宣告制度は過去の遺物のような法律です。作るときモデルとしたのはフランスの民法でした。当時フランスではの市民の手による産業革命、市民革命の後でしたが、日本では官製の産業革命であり、近代市民革命は遠い夢でした。つまり、天皇主権主義の下で、国民の権利は、臣民の権利として、恩恵で与えられたものだったのです。そこから生まれてきた禁治産宣告の制度も、人権を守るというより、取引の安全を確保するための制度と言えないこともないわけです。 
     こういう事例があります。高齢者の親がいて、長男が禁治産を申し立てた。ところが裁判所が次男に確認すると、とんでもない話だと。兄は親の財産を独り占めにしようとしていると、裁判所に申し立てた。結局、裁判所は次男を後見監督人に指名したのですが、1年くらいして、裁判所のほうで再調査してみると、親は施設に入っていた。兄弟が仲直りをして、親の家を売り払い、山分けしていたのです。
     そのように、禁治産宣告は必ずしも本人のために使われていない。むしろ財産をめぐるトラブルのため、親族に利用されているという面が少なからずあるのです」

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