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vol.4

司法制度改革

外国法事務弁護士の制度改革に係る提言

司法書士制度改革懇話会 
●代表世話人 反町勝夫



 21世紀という新しい時代の幕開けを間近に控えている今日、わが国の国際関係は国家間にとどまらず、市民、企業、公益団体、地方自治体のレベルで拡大の一途にある。これを法的な次元で捉えると、まず私法の分野では外国人との婚姻・離婚、海外の不動産取引、国内企業の海外進出、合弁企業設立、企業買収、精密機器・コンピュータソフト・自動車・農産物等の輸出入、航空機・船舶の賃貸借など枚挙に暇はなく、契約上直接に外国の法律と係わる局面が増大している。 また、公法レベルでは、 人権、環境、通商の分野で条約、協定が数多く締結されている状況にあり、締約国の国内法整備などの履行確保が重要な課題となっている。特にWTO体制の下、通商問題と法的サービスの充実は不可分一体のものとして、市場開放が進められているところである。
 このように、上記の法的関係を世界的規模で保護するために、法制度の整備(具体的には、法的情報の整備、契約書の作成、法解釈とその適用、訴訟代理を業とする弁護士等の確保)を十分に行うことは国家の責務である。


 政府は、自由で公正(平等)な社会システムの実現を目指し、法の支配を実効的に担保する裁判システムを構築するため、7月に司法制度改革審議会を内閣に設置した。審議会は2年間にわたって、法曹人口の増加策、陪審・参審制の導入、公的法律扶助制度の拡充などの施策につき論議し、具体的な改革案を提出する予定となっている。
 しかし、実際に審議対象になる項目は、訴訟手続内の改革に関するものであり、市民の財産法関係、身分法関係、企業法務、行政法務など裁判外の法的需要に応えるだけの改革が視程範囲に入っていない。
 その一つが、外国法事務弁護士の問題である。外国法事務弁護士とは、外国で弁護士資格を有する者で法務大臣の承認を受け、日本弁護士連合会(以下、日弁連)への名簿登録をなした者をいう。現在約100名が登録されている。
 わが国では法律事務の一切を弁護士が行うことになっているが(弁護士法第3条、72条本文)、国際取引の増大、世界的な規制緩和の潮流を受け、外国法の取扱いを業とする外国弁護士に日本国内で一定の法律事務を扱えるようにするため、昭和61年5月23日に


「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法」(以下、外弁法)を制定、昭和62年4月1日に施行したところである。 もっとも、弁護士法と外弁法は一般法と特別法の関係にあり、外弁法は外国法事務弁護士による法律事務を例外的に許容するという規定の仕方を基調とし(第3条、5条等)、また、禁止事項については罰則を設けて対処している(第6章)。
 国際関係の中で法的需要が拡大している今日、当然のことながら外国法事務弁護士の活動するフィールドはそれに比例して増加する。
それ故、外国法事務弁護士の業務権限、活動範囲は、諸外国の実施状況を勘案し、時宜適切に拡大させていく必要がある。このような認識の下、法務省と日弁連は共同で外国弁護士問題研究会(以下、外弁研)を組織し、平成5年9月30日と平成9年10月30日に2度にわたって報告書を取りまとめている。この報告書の提言内容などを踏まえ、平成に入って6回の法改正が行われている。
 しかし、度々の法改正にも拘らず、外国法事務弁護士の活動実態、渉外法律事務に対する需要の度合いに鑑みると、


制度と運用の両面において未だ不十分な点が多いと言わざるを得ない。
 そこで、現在の外国法事務弁護士が抱えている実務上の問題点を明らかにしつつ、外国との関係において、わが国のあるべき司法制度を念頭に置きながら、以下の項目を提言する次第である。


『提言1』 外国法事務弁護士の改称について(第2条3号関係)
 外国弁護士を日本国内で活動させる場合、その名称をどう定めるかという問題が議論の出発点としてある。
 まず、「弁護士」という名称は弁護士法第74条1項の規定により、そのまま用いることは出来ない。
 しかし、「弁護士」の名称使用制限があるといえ、イギリスのソリシター(solicitor)を参考にし、その公定訳である「事務弁護士」の名称を使ってよいかは問題である。なぜなら、わが国には事務弁護士という士業がそもそも
存在していないので、司法書士、行政書士などの業務とどう異なるのか、また、将来に事務弁護士という資格を新たに作ることになるのか、当然に問題が生じるからである。
 そもそも、原資格国においては、○×国弁護士、○×州弁護士、という名称を使用しているのであるから、弁護士法第72条による規制、外弁法第3条による制限があるにせよ、そのまま原資格国の弁護士としての名称を使用させることが妥当である。


 さらには、現在の外国法事務弁護士が当然に日弁連の(特別)会員となることからすれば(第40条1項)、弁護士業務を行っていると判断されるのが通常であり、あたかも異業種を連想させる事務弁護士の名称を使用させることは、利用者からみて分かりにくい。原資格国弁護士の名称で以って活動を認め、その上で第3条1項但書のような制限を加えれば足りる。
 従って、法務大臣の承認を受け、日弁連へ名簿登録を行った外国弁護士は、原資格国の弁護士の名称を使用させるべきである。法律の名称は問題ないが、第2条3号は改正すべきである。


『提言2』 法務大臣承認制度の見直しについて(第3章第1節関係)


 外国弁護士が外国法事務弁護士としての活動を認められるための承認制度について、幾つかの問題点を指摘しうる。
 まず、外国法事務弁護士の資格を得るために、法務大臣の承認が必要とされる(第7条)。そしてその承認の前には、日弁連の意見を聴かなければならない(第10条4項)。
 国家主権の壁がある以上、国内法体系・運営システムの保護、既存の士業の業務権限との調整を行うために、法務大臣の承認を行うことは当然のことであるとしても、その基準は客観的に見て公正と判断されるものでなければならない。
 まず、承認基準として、資格取得国で3年以上の職務経験があることが要求されている(第10条1項1号)。
これにはみなし規定が存在し、国内で雇用され、活動した期間につき1年を限度として、上記職務経験とみなされるのである(第10条2項)。
 この点、諸外国の運用を見る限りでは、資格取得国で3年以上という職務経験要件は短い方に属する。しかし、外国弁護士は実際、日本国内で活動を行おうと承認申請しているわけであるから、日本での活動実績こそ評価されるべきである。


 そこで、第10条1項1号は、「資格取得国もしくは日本国内において外国弁護士として職務を行った経験」と改正すべきである。また、その意味で第10条2項は無意味となり、削除すべきである。
 また、法務大臣の日弁連に対する意見聴取義務については、その運用如何によって承認の実質的判断権者が日弁連に変移するおそれがある。承認基準を客観的に判断することができるならば、法務大臣の専権で十分可能なはずである。
日弁連への意見聴取は、あくまで参考意見として事後的に行っても問題は生じない。
 よって、第10条4項は、「承認をする場合は、事前あるいは事後に・・・聴くことができる」と改正すべきである。


『提言3』 職務範囲の拡大について(第3条関係)
 外国法事務弁護士はその登録後、「原資格法に関する法律事務」(第3条1項本文)と、さらに法務大臣の指定(第16条1項)を受けた場合には「指定法に関する法律事務」(第5条1項本文)を職務対象とすることができる。
 しかし、第3条但書1号〜6号により禁止される法律事務が列挙され(指定法に関する第5条1項但書も同様)、さらに認められた法律事務でも「弁護士と共同し、又は弁護士の書面に関する助言を受けて行わなければならない」事項が列挙されている(第3条2項、5条2項)。
 第6条2項により、弁護士法第72条は適用排除されているにもかかわらず、原資格国法、指定法、第三国法(第5条の2)につき、外国法事務弁護士の可能な業務はかなりの制約を受けている。
 例えば、国際取引、外国投資、企業の海外進出等につき法律相談、調査を依頼されたとしても、外国法事務弁護士は訴訟手続、行政手続が禁止されているので、わが国で数少ない渉外弁護士が事案処理に当たることになる。


さらに、業務の内容によって、第3条2項但書に抵触する事案が出てきた場合、途端に弁護士と共同処理しなければならなくなる不便が発生してしまう。
 現実の外国法サービスに対する需要を考えた場合、第3条1項但書において法律家の根幹にかかわる業務を広範に、一律に禁ずるのは妥当でない。これでは、弁護士法第72条を適用除外し、外国法事務弁護士の業務権限をいったん白紙の状態で定めていく特別措置法としての意味がない。
 そこで、外国法事務弁護士の職務については、以下のように改正すべきである。
 まず、第3条1項但書に規定する法律事務は、全面禁止とするのではなく、弁護士と共同し、又は弁護士の書面による助言を受けて行えるものとする。
 また、第3条2項の列挙事項については、弁護士の助言(書面でなくてもよい)があれば行えるものとする。


『提言4』 在留義務規定の撤廃について(第48条関係)
 外国法事務弁護士は、1年のうち180日以上本邦に在留しなければならない(第48条1項)。
 この180日以上という日数はおそらく、1年の半分以上日本に滞在させ、その業務活動を日弁連が監視する趣旨で設けられたものであろう。
 しかし、外国法事務弁護士は活動拠点を日本に置いているとはいえ、
事実、外国法(原資格法、特定法、第三国法)を取り扱っているのであり、委任された事案について現地に赴いて、綿密に調査、分析、検討する必要がある。それ故、外国法事務弁護士であるからといって、在留義務を科すのは妥当でない。
 よって、第48条1項は削除すべきである。


『提言5』 弁護士雇用の承認について(第49条1項関係)
 外国法事務弁護士は、弁護士を雇用することができない(第49条1項)。
 その理由として、かねてから言われていることは、外国法事務弁護士は日本法に関する法律事務を取扱うことができないにも拘らず、弁護士の雇用を認めると、資格が無いのに使用者・被用者という指揮・監督関係を通じて日本法に関する法律事務に介入してくる危険性があるということである。
 確かに、雇用契約は「労務ニ服スルコト」(民法第623条)を本質とするから、被用者は業務上使用者の
指揮命令に従わなければならないことになりそうである。
 しかし、外国法事務弁護士と弁護士というプロフェショナル同士の関係において、そのような指揮命令関係が実際に発生するのか疑問である。なぜなら、いくら雇用関係にあるにせよ、各々が専門法規について熟知し、実務経験を十分に積んでいるのであるから、お互いがプロフェショナルとして活動する以上、外国法事務弁護士(使用者)の意思決定に被用者(弁護士)が一方的に従うことはありえない。


 また、第3条2項で弁護士との共同業務、書面による助言を義務付けている以上、外国法事務弁護士に弁護士の雇用を認めなければ、同条項各号の法律事務の迅速な処理は著しく阻害されると言わざるをえない。
 従って、弁護士の雇用を禁止する第49条1項を削除すべきである。
 さらに、同条2項のパートナーシップ(共同事業)の禁止についても、『提言6』で詳しく述べるように意味のない規定となるので、削除すべきである。


『提言6』 特定共同事業の制度見直しについて(第49条の2、49条の3)
 特定共同事業とは、外国法事務弁護士が組合契約その他の契約により弁護士とパートナーシップを形成し、行う法律事務のことである(第49条の2)。平成6年の法改正により認められた。
『提言5』の内容に従い、法改正が行われた場合、むしろこちらの方が原則規定となるので、それを前提として提言を行う。
 まず、第49条の2第1項では、5年以上の職務経験がある特定の弁護士との間に限り、パートナーシップを認めている。しかし、このような相手方弁護士の条件を規制するのは妥当でない。
 そもそも、パートナーシップの形成は、事案の性質等種々の条件に鑑み、
外国法事務弁護士自身が最も相応しいと判断する弁護士と組むことに意義がある。その特定共同事業に対する評価は依頼先が決定すれば足りることであり、自由競争に委ねなければかえって満足の行く法的サービスを享受できない事態が考えられる。
 よって、第49条の2第1項につき、パートナー弁護士の条件を削除すべきである。
 同条3項は、特定共同事業の実施に際し、外国法事務弁護士がパートナー弁護士に対して「不当な関与をしてはならない」と規定する。これは雇用禁止の趣旨を受けて、日本法への直接・間接関与を禁ずるものである。


 しかし、既述の通り、双方が職業法律家として業務を遂行する場合、 法律という高度の専門性を有する領域はお互いに侵害しえないものであるから、不当な関与をすることはそもそも不可能なことである。それにも拘らず、このような規定を置くことは、外国法事務弁護士に対する不当な偏見を生むだけである。実際、弁護士法には、特定共同事業について、外国法事務弁護士の業務に対する不当な関与を禁ずる規定は存在しない。
 よって、同条項は削除すべきである。
 特定共同事業に係る届出として、第49条の3第1項は日弁連への事前届出を義務付けている。しかしこれでは、日弁連による事実上の業務統制につながるものであり、委任者のプライバシー(企業秘密など)の侵害に発展する。
 そこで、同条項は法務省への事後届出で足りると改正すべきである。


『提言7』 日弁連総会等における議決権行使について(第43条関係)
 外国法事務弁護士はその登録承認を受けた際、弁護士会には強制加入することとなり(第40条1項)、同時に会則遵守義務が生じる(第42条)。それ故、会則に従い会費を支払わなければならない。
 現在、外国法事務弁護士は特別会員としての扱いになっている。即ち同じ会員として、しかも会費を支払っている以上はその団体としての自治、運営に主体的に参加することは当然の権利であるといえる。
 また、役員選挙の投票、年中行事の決定と運営など、外国法事務弁護士が参加することがむしろ弁護士会の活性化につながり、
望ましい。
 さらに、渉外法律事務の増大、高度化を背景にした特定共同事業の規制緩和が今後も進むことを考えると、外国法事務弁護士と弁護士ひいては弁護士会、日弁連が常時、意見交換、情報提供をなす場が確保されていなければ、制度の発展はまず見込めない。
 この点、第43条は外国法事務弁護士に係る事項について審議される総会のみ、議決権を認めているが、これはまさに排除の論理でしかない。
 そこで、同条を改正し、一般会員と同一もしくはそれに準じた議決権を認めるべきである。


『提言8』 条文の整理について
 外弁法は昭和62年の施行以後、幾度にもわたる法改正を行っている。もともと外国法事務弁護士の業務を規制する色合いの強かったものが、徐々に緩和され、今日の条文構造をつくり上げていると言える。つまり、法改正の連続により、原則禁止→例外承認→例外事項の規制緩和という過程がある。
 その結果、外弁法の条文は個々の解釈を含め、条文同士の関係など実に乱雑で、国民に理解しづらいものである。ある条文を読んだだけでは、権限が認められているのか否か判断が困難な場合がある。
 例えば、平成6年改正によって追加された第49条の2については、特定共同事業を認める要件を定めているにもかかわらず、前条2項では禁止する条文をそのまま残している。これは一つの条文として整理しうる。
 今後、さらなる規制緩和が進み法改正が行われると、ますます法構造が複雑化する。
 それ故、外弁法全体として、枝分かれしている条文を中心に、内容・配置を整理すべきである。


『提言9』 外弁研の定期開催について
 平成4年9月から外弁研がスタートするまでには、弁護士市場開放を迫る他の先進国からの強硬な要求があったことは言うまでもない。平成元年にアメリカ通商代表部(USTR)から、[1]外国法事務弁護士と日本弁護士との共同経営を認めること、[2]外国法事務弁護士による日本弁護士の雇用を認めること、[3]法相の承認要件である5年の職務経験期間に、日本において弁護士又は外国法事務弁護士の事務所で補助的な仕事に従事する法律トレーニーの期間を算入すること、 [4]原資格国において所属する法律事務所(ローファーム)の名称を外国法事務弁護士の事務所名として直接使用できるようにすること、[5]国際仲裁手続において仲裁の当事者の代理人となることを外国弁護士に認めること、の5点が要求された。
 その後、法務省と日弁連が共同で外弁研を組織し、平成5年9月30日と平成9年10月30日にそれぞれ報告書を提出した。これら2回の報告書の内容に従い、上記[2]を除く各点で法改正がなされたわけである。


 しかし、これまでの経緯を見る限り、外国法事務弁護士の制度改革に係る外弁研が法施行後、2回しか報告書を出していないというのは、制度について主体的に議論をする姿勢に欠けている証拠である。結局のところ、外圧に押し潰され、仕方なく小手先の改正を済ますことの繰り返しでしかない。
 外国法事務弁護士の登録者数が伸び悩んでいるのも、制度改革が適時実施されていないことが大きな要因としてある。需要が少ないことは理由にならない。
まず、法的サービスの供給者側に存在する問題を抽出、公開し、利用者側にとって分かりやすい形で改革を進めていく必要がある。
 『提言1』から『提言8』までの内容についても、審議は相当の労力と時間を費やすものであるし、問題をめぐる状況は刻々と変化するものである。
 そこで、外弁研は少なくとも毎年一回は開催し、その現状報告、問題点について小冊子としてまとめるか、法務省インターネットホームページ上で公開すべきである。 






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