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vol.4


続・カリフォルニア弁護士日記



州を超えて
米国カリフォルニア州弁護士
石鍋法律事務所
石鍋賢子
visalaw@ishinabe.com


 先日移民局スタッフにより、新しいウェブサイトに関するプレゼンテーションがあった。ワシントンにある移民局本部の人間が直々PRにやって来た。面白いことには、参加者の中に議員のスタッフも招待されていたことだ。というのも、いろいろな事情で、あるケースが必要以上に複雑化したり、途方もなく審査に時間がかかってしまっている場合に、ケースがマスコミざたになったり、議員が関与する場合がある。 特に、通常の法律のもとではどうにもならないケースや、移民局の手違いで途方もない結末になった場合などがそうである(後者の場合、弁護士が代理人であれば、移民局を提訴するのに及ぶ場合もある)。また、企業が議員に法案改正にアクションを求めることもある。途方にくれた一個人、あるいはネガティブな影響を被っている会社から、議員のオフィスへも移民局に関するSOSは頻繁に起こるのだろう。


 今回のウエッブサイト変更について、内容の更新・変更によって、ユーザーフレンドリーになったことを宣伝すると共に、基本的なリサーチは予めスタッフが調べ上げられるようになったという改善点を指摘する意図もあったかもしれない。移民局のほうから政治家のスタッフへ手をさしのべて、今後の関係を円滑に、という姿勢がうかがわれた。 
 どちらかと言うと、私の場合、仕事上は、移民弁護士会で運営している、
インフォネットという別の専門的なプログラムのほうが不可欠だ。こちらはもともと独自のオンラインサービスだったが、近年は会員オンリーのインターネットサイトとなっている。頻繁に変わる法律や、随時の公示をキャッチする上で非常に有益なプログラムだ。リサーチ用にも使うし、会員が書きこめる掲示板もあって情報交換に役立つ。


 リサーチや情報取得の観点から、インターネットの発達が私達の仕事上で大きな役割を果たしていることは言うまでもないが、メールも不可欠な道具である。かつて大手法律事務所にいたころ、人数が多いので、社内での情報伝達や情報交換に大変重宝した。その後ハイテク系のクライアントと日常のコミュニケーションに電話やファクスと兼用するようになり、現在では他の法律事務所の弁護士との連絡にもメールを使っている。
 先日も、こんなことがあった。ある件でホテル経営学、料理学といった大学教授レベルの専門家に、
意見書を書いてもらうことが必要になった。公の場にアピールする前に、まずは地元から、と思い、身近な弁護士に何人か電話をしてみたが、適当な教授が挙がらない。そこで例のインフォネットの掲示板にメッセージを載せることにした。アメリカ中の移民弁護士がすべて見ているわけではないが、一対一で送るEメールとは異なり、他州の弁護士に恥を曝すようでもあり初め躊躇したが、そうも言っていられない。メッセージを打ち込む手も慎重になる。移民弁護士会の会員は約5000人だから、何らかの情報が得られる可能性は確かに高くなる。


すると翌日までには、たった1通ではあるが、レスポンスがあった。ニューヨークの弁護士が、ぴったりの教授を推薦してくれた。しかも、この教授はカリフォルニアにいる。お陰で滞り無く準備を進めることができた。
 移民法は連邦法なため、基本的には全州共通であり、アメリカ国内4箇所にあるどの移民局サービスセンターにも、ビザや永住権に関する請願を提出できる。仕事の大半はやはり州内の件であるが、特に、書類審査のみで、出頭や面接を伴わない手続きの場合は、州外の住人や企業から依頼を引き受けることも珍しくない。いずれにせよ、
他地域の弁護士ともすぐに連絡を取り合える態勢になっているということは情報の幅が広がる。
 連邦法と州法とあるうち、州法は州ごとに異なるため、通常弁護士はライセンスを発行されている州内に仕事が限られており、州外の案件では副代理人ということになって、他州の弁護士と同じレベルで仕事をする機会は少ないと思う。その点、州の境を超えて、大陸中の移民法弁護士といわば肩を並べて仕事をしているようで、妙な感慨を覚える。この贅沢は他の分野の弁護士にはなかなか味わえないかもしれない。


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