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vol.2
ワールド トレンド レポート
朝鮮民主主義人民共和国
 新日米ガイドライン法案

権 錘聲(クォン ジョンソン)(朝鮮大学校 外国学部助手)


新日米防衛協力指針(新ガイドライン)への反発

 参議院を通過した新日米防衛協力指針関連3法案(注1)を朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)はどのように受け止めているか?
 法案が衆議院を通過した段階で共和国側から出た談話がある。99年4月29日付で発表された共和国外務省スポークスマンの談話をさすのだが、その中で法案を通すことは「結局日本が第二次世界大戦における敗北依頼、憲法上放棄した交戦権を復活させ、海外侵略へと進む道を法律的に公にしたもの」と指摘している。
また、「事実上、法的に朝日関係を交戦関係に固着化したも同然」としながら、最後に、「われわれは日米反動の軍事的脅威が現実化することを絶対に傍観しないし、日本の再侵野望を食い止めるため、それに必要なあらゆる手段と措置をとる権利を保有していることを厳粛に宣言する」と締めくくっている。要するに、ガイドライン関連3法案はすべて共和国を対象とした戦争法案であり、それによって朝日関係は交戦関係となり、戦争を仕掛けてくるならば戦争で立ち向かうということだ。


「周辺事態」(注2)というものだけ見ても、日本政府は「周辺」というものを「地理的概念」(注3)ではないとしているが、事実上、朝鮮半島を念頭においていることは明白である。また、想定される「事態」も朝鮮半島におけるものを前提としている。日本が自分に戦争をしかけてくると共和国が思っても仕方ない状況が、法案通過によってうまれたことは確かだ。実際、韓国のマスコミなどもこのことに関して危惧を表明している。
 新ガイドラインは、それ自体これまでのものとはまったく性質が異なる。まさに、攻撃型になった。共和国もそう受け止めている。
 この関連法案が通過する前に、共和国の朝鮮アジア太平洋平和委員会が朝日関係に関する「備忘録」を出した。この中に現時点における朝日関係の現実と共和国の認識、政策が反映されているのだが、日本が共和国との関係を本当に改善しようとしているのか疑問を呈している。
 日本は共和国を利用して政治・軍事大国化しようとしているのではないか? そんなに過去を清算したくないのか? だから、もともと関係正常化しようとする意思がないのではないか?


アメリカの東アジア戦略
 アメリカは東アジア地域において、10万人規模の米前方展開戦力を配置して確固たる軍事的プレゼンスを確保し、政治・経済的影響力を保持しようとしている。いわゆるアメリカ中心の覇権構造をつくり出そうとしているものと思われる。その中で日本や韓国との「同盟」関係、中国やロシアとの「戦略的パートナー」関係の強化を戦略的に図っているのである。 アメリカにとって、そのような戦略を遂行する際に共和国は格好の「エサ」となるのであろう。
 冷戦後唯一の超大国となったアメリカが覇権をもくろむということは(肯定するわけではないが)対して不思議なことではない。それが資本主義超大国ーアメリカーのいわゆる自然な志向・行動であろう。


 問題は、日本を傘下においたまま、東アジア地域に共和国、中国、ロシアを牽制するための覇権構造をつくり出そうとしている点であると思われる。
 とくに、アメリカが日本との同盟関係を強化することを戦略的次元で考えていると言うことが重要であろう。戦略的次元で考えているということは、
要するにアメリカが日本をいかに利用して自分の世界戦略を遂行するかを考えていると言うことである。
 アメリカの戦略目標はあくまでもこの地域における「自国の国益」の確保である。別に日本の「国益」を追求するために戦略を立てていない。


日本の自主外交
 このように考えた場合、なぜ、日本は冷戦後特に日米安保体制を強調し、再定義までするのであろうか? なぜ、日本は自らアメリカの傘下に収まろうとするのか?
 個人的に、私には理解できない。日本の安全保障政策、外交政策には自主性と合理性がまったくかけているとしか思えない。日本の平和と安全が重要ならば近隣諸国、特に「仮想敵」とする共和国との関係を改善するほか道はないし、そのためにも益士の清算をおこなわなければならないと言うのは明らかである。
それなのに、そのことに対する自主的かつ合理的な判断と判断を下しかねている。
 共和国からすると、日本のその非自主的な態度が疑問であろうし、アメリカと一体となってアジアでの覇権を追及するというのなら対抗するしかないと思うのであろう。むしろ日本が共和国との自主的な関係改善の方向に出ず、アメリカの世界戦略と一体となったその間隙をついて自衛隊の海外派兵をも視野にいれた時点で日本が自国の政治・軍事大国化を進めようとし、自分に攻撃を仕掛けてくると共和国が思ってもそれは仕方ない。


 前述した「備忘録」では、日本が自主的な方向に進むことを暗に期待している。要するに、日本の自主外交に期待しているし、逆に言うと、日本が自主的でない限り関係正常化は無理であろうと示唆している。
 現時点では政府はそれほど自主外交に意欲を持っているのだろうか? 端的に見て、対共和国政策においては、アメリカや韓国に追随しているだけと思われる。
 橋本前首相は政権を発足させた当初、「自主外交」という言葉を使われた。
当時、それに対して共和国は一定の肯定的な評価と関心を示した。
 先日、私は読売新聞主催の国際フォーラムに参加したのだが、自民党外交調査会会長の中山太郎氏いわく、「対北朝鮮政策について日本が堅持すべき二つの原則がある」と言う。一つは、日米関係優先であり、もう一つは日韓関係優先であるということであった。アメリカの政策と違ってはいけないし、韓国を飛び越えてはいけないと言うことだ。
 まさに、今、日本の自主外交が問われていると思う。


無条件交渉の必要
 今後、日本政府が東アジア地域ばかりでなく世界において確固たる政治大国としての地位を得たいのであれば、外交政策に内包されている問題、特に共和国との関係をクリアーすることを避けて通れないはずである。要するに、いかに自主性を発揮できるかである。
 日本政府は、あたかも共和国側が国交正常化を望んでいるように考えているようだが、そうではない。共和国が賠償金欲しさに国交正常化を望んでいると言うが、むしろ過去清算の問題は国交正常化を進めている上で
日本にとって避けて通れない問題であるばかりでなく、日本の世界と歴史に対する態度が評価される事柄である。するかしないかは、日本にかかっている。
 ガイドラインも策定され、日米関係が新たなる段階に入ったこの時点において、何よりも重要なのは、真に自国の平和と安全、「国益」を考えるならば、共和国との無条件の国交正常化交渉をはじめることであると思われる。そうしなければ、両国間の不信と反日がどんどん拡がるおそれがあると私は思う。


 故金日成主席は、故金丸氏が訪朝した際、国交を正常化すればすべての問題が解決される、しかし問題は日本がいかに自主的になれるかが問題であろう、と言われたという。
 共和国にとって、日本との「善隣友好関係」を築くことは国家的目標であり、金日成総書記の意思でもある。
 問題は、これまで8回も国交正常化交渉を行ってきたのに、その都度アメリカや保守勢力の言う前提条件(核疑惑、拉致疑惑、ミサイル懸念等)によって打ち切りになってきたことだ。
そればかりか、98年8月31日に「人工衛星:光明星1号」が発射された際には共和国とのあらゆる関係を断絶した。まことに遺憾である。
 共和国は日本の非自主的な外交姿勢を否定的に見ている。
 日本は共和国を脅威とする前に、新ガイドラインとその関連法の制定によって、むしろ共和国のほうに脅威を向けているということを自覚した上で、自国の中にむしろ解決すべき問題があるのではないかという印象を受けざるを得ない。


注1 関連3法案

 1997年9月24日、日米安全保障協議委員会は日米防衛協力指針(Guideline for Japan-U.S.Defence Cooperation ガイドライン)について合意した。1998年4月には、政府は以下を閣議決定、国会に提出した。
  1. 「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」)
  2. 「日米ACSA(「日本国の自衛隊とアメリカ合衆国との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」)」
  3. 「自衛隊法の一部を改正する法律」
 周辺有事における日米協力の検討項目40のうち憲法が禁じる「集団的自衛権」の行使に抵触しかねないグレーゾーンの項目(機雷除去、米兵の捜索・救難、情報提供、邦人輸送、負傷への輸送、燃料・物資の補給、武器・弾薬の輸送など)も含まれ、議論となった。 * ACSA(Acquisition and Cross Servicing Agreement= 物品役務相互提供協定)」日本有事にのみ適用する日米安保条約の旧ガイドラインから周辺事態に拡大されている。

注2「周辺事態」

「周辺事態措置法案(「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」)」の第1条は「周辺事態」を「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と規定している。

注3「地理的概念」

 1998年版「防衛白書」に「『周辺事態』は、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態である。周辺事態の概念は、地理的なものではなく、事態の性質に着目したものである」との記述がある。

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