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vol.2


内閣官房「司法制度改革審議会」に対する要望書


司法制度改革懇話会 代表世話人 反町 勝夫

憲法を頂点とする日本の政治・裁判システムが今、変革を迫られている。戦後50年以上にわたり、わが国の司法制度は適時に改革が施されてこなかった。そのため市民生活の隅々で露呈している問題は法曹人口の不足、法学教育の問題、弁護士と他士業の業務配分、規制の問題など枚挙に暇がない。そのような状況下、6月2日、第145回国会において「司法制度改革審議会い設置法」が成立、 ついに司法改革に向けての本格的な議論が始まるはこびとなった。従来から司法制度に関する提言を行ってきた司法制度改革懇話会(代表世話人・反町勝夫)は司法改革の重要論点を項目ごとに整理、コメントを付した提言をまとめ、自由民主党司法制度調査会・保岡興治会長に提出した。ここにその前文を掲載する。


1.法曹人口の大幅増加〜司法試験改革〜

  • 今後の裁判外での法的ニーズの需要を見込み、司法試験合格者を年間1万人程度まで増加させられるように、制度改革を行うべきである。
  • 司法試験は本来資格試験であり、定員枠を設置すること自体、概念矛盾をきたしている。一定基準を充たした者についてはすべて合格させることが必要である。
  • 裁判官、検察官に任官した者が、改めて実務修習をやり直している現実からすれば司法試験合格者をすべて司法修習生として受け入れる必要はない。弁護士希望の合格者については、各弁護士会が責任を持って実務教育を行うなど、制度の弾力的な運用を行うべきである。
  • 難関な司法試験制度が生みだす社会的弊害を防止するため、試験は最低年2回実施すべきである。
  • 司法試験合格者以外であっても、一定の法律実務経験を積んだ者に対しては積極的に法曹資格を付与し、以て市民生活の隅々まで法的保護が行き渡るよう、その資格付与の客観的基準を早期に設定すべきである。


2.法曹一元制の採用

  • わが国では、裁判官任官後は裁判所内の人事・配転システムの中で養成されていくキャリアシステム(司法官僚制度)が採られているが、@最高裁事務総局が行う人事異動などが裁判官統制につながっている、A社会的実務的経験が乏しいまま裁判官としての偏った経験を積んでいくため、市民感覚とは乖離した事実認定、量刑をしがちである、との批判がある。
     そこで、裁判官の独立、民主的司法の実現・維持という観点から、裁判官  には弁護士等の実務家から登用する法曹一元制度を早期に導入すべきである。
  • 司法試験合格後はいわゆる統一修習が実施されているが、これは法曹一元制が採用されることを前提に置いていると考えられる。裁判所法など関連法令の改正をすぐに行うべきである。  
  • 法曹一元化が実現を見ない一方で、裁判官と検察官の人事交流(判検交流)が盛んとなっている。しかし、行政事件訴訟、刑事訴訟では裁判の公正さの点からして問題が多いことから、判検交流は原則として禁止すべきである。


3.陪審制・参審制の導入

  • 司法の独善化、非力化は即ち、市民の権利救済の回避、怠惰につながり、ひいては法の保護による民主的統治機構の根幹を揺るがすことになりかねない。そこで、あくまで市民感覚、社会通念に立脚した裁判を実現し、裁判制度に対する不信を払拭するために、陪審制・参審制の導入を早急に図るべきである。
  • 裁判所法3条は、刑事事件について陪審制を導入することを認めている。そこで、民事事件、行政事件については陪審制の導入を段階的に図るとしても、刑事事件については早期に実現するよう立法措置をすべきである。
  • 陪審、参審の評決に参加する市民の選定基準、選定方法、任期などにつき、制度実施に必要な事項を早期に審議すべきである。


4.ロースクール(法律大学院)の設置

  • わが国の大学法学部では、明治以来伝統的に法解釈に重きを置きながら補充的に判例評釈を行う教育を行っている。まして、大学院(研究者養成コース、専修コース)においては、カリキュラムの半分が外国語文献の購読に当てられており、国内の法実務の現状と課題について専門的な教育がなされているとは言い難い。
     それ故、とりわけ司法試験の若年合格者の中には法曹となった後も、実務世界に違和感がかき消せず、法曹としての活躍が大きく出遅れるという現象が生じている。
     そこで、わが国の大学法学教育を抜本的に改革するため、英米にならってロースクール(法律大学院)を設置し、徹底した実務教育を行い、実務の一線で活躍しうる法律家を輩出できるようにすべきである。
  • ロースクールの教官には、退職した裁判官、検察官、実務経験の豊富な弁護士など実務家を登用すべきである。そして、講義→演習の繰り返しにより、法的思考力(法的問題解決能力)の醸成を図るべきである。ひいては、企業法務や国会・官公庁における法案作成能力の教育を図るべきである。
  • ロースクールの卒業試験を法曹登用のための試験と位置づけ、その8割を法曹として輩出し、法的サービスの提供者として活躍できるようにシステムを整備すべきである。


5.法曹教育への大学の積極的関与

  • 大学では、とりわけ学部段階で司法試験合格者を多く生んでいるにも拘わらず、合格後司法研修所へ入所するまでの間は、大学側からは何ら実務家の素養を培うための専門的なスクーリングはなされていないのが現実である。しかしそれでは、入所後かなりのステップアップを迫られることになり、学生合格者にとっては負担となる。
     そこで、入所までの期間を有効に活用するため、およそ実務で重要な商法、民事保全法、民事執行法、破産法等の実践講義を提供すべきである。
  • 裁判官、検察官、弁護士の定期的な学問交流を実現する場として、大学がもっと積極的な働きかけをすべきである。また、定期的な研究会には学生や市民が自由に参画できるような方策を採るべきである。


6.弁護士と各士業との権限配分の抜本的見直し

  • 戦後、国民経済の発展と生活向上を目指して、法律、税務、会計、経営の各分野で様々な法整備が行われてきた。個人、法人は法的な利益、サービスを当然に享受する地位にあるにも拘わらず、特に弁護士に対する関係で不都合を生じている現状にある。例えば、税理士が税務訴訟を担当できなかったり、司法書士に訴訟代理権が認められていないなど、迅速、的確な法的救済がなされず、基本的人権の侵害につながる事態となっている。
     弁護士の法律業務独占を規定した弁護士法第3条、72条はもはや時代の潮流に適合していないと考える。そこで、本条項は他の士業との業務調整規定として改正すべきである。
  • 上記弁護士法の改正に合わせ、司法書士法第2条、19条、税理士法第2条、52条、社会保険労務士法第2条、27条、行政書士法第1条、19条等も必要な見直しを行うべきである。
  • 現在、各士業の業務配分を見直し、規制緩和を適切に行う目的で、総務庁行政改革推進本部に規制改革委員会が設置され、99年末に具体的な見直し案を提示する予定となっている。
     そこで、司法制度改革審議会は、この総務庁規制改革委員会と充分な連携を保ち、真に国民の法的需要に合致した資格制度の改正を推進すべきである。
  


7.弁護士市場開放の推進

  • 全世界を駆けめぐる資本主義経済の発展は、企業活動のグローバル化と情報通信の飛躍的拡大に象徴されるように、毎日莫大な量の取引がなされていることを意味する。諸外国との取引関係が発生する結果、特に弁護士にとっては相手国の法体系を修得し、業務として扱う必要が出てきている。
     現在、昭和61年の外国弁護士に関する特別法により、当該弁護士の自国法の相談業務、書類作成に限り日本国内での活動が認められている。しかし、日本法を扱えないので訴訟活動が不可能であるばかりか、日本への進出を目論む企業の相談業務すら出来ないのが現実である。このような状況では、経済のグローバル化に臨機に対応しうるだけの法的整備の体制づくりが遅れ、それぞれの国家に莫大な損失を与えるおそれがある。
     そこでまず、外国弁護士による日本人弁護士との共同法律事務所の経営を認め、渉外関係の法的需要に応えられるようにすべきである。
  • 外国弁護士と日本国弁護士の双方の資格を有する者に対しては、当然の事ながら日本国内において、双方の資格に基づいた活動が可能となるように法的に保障すべきである。


8.総合的法律・経済関係事務所の開設に伴う規制緩和

  • 規制緩和推進3か年計画(平成11年3月30日閣議決定)に係る「総合的法律・経済関係事務所の開設」については、法務省、大蔵省及び通産省の検討結果、現行法の下でも弁護士、公認会計士、税理士、弁理士等の専門資格者が一つの事務所を共同使用し一定の協力関係の下に依頼者のニーズに応じた業務を提供することは可能であるとの結論が出されている。
     しかし、各専門資格者が単なる寄せ集めではなく有機的な結合体として、ワンストップサービスを供給していく実践面を重視していく視点が必要不可欠と考えられる。
     具体的には、各士業法によって課せられた利益相反回避義務は一定程度緩和し、利用者に予め明確に示しておく必要がある。
     また、現行法で許容されている業務範囲を超えて、専門資格者が他資格者と共同で案件を受任、処理することを認めるべきである。


9.法務法人法の早期成立

  • 弁護士法は市場競争を排する目的で、法律事務所の法人化を認めず、個人事務所の形態しか承認していない。
     しかし、これが法律事務所の大都市圏偏在と過疎地の発現、経営規模の零細化を生み、これらが悪循環を繰り返していることが甚大な弊害を生んでいる。
     そこで、法務法人法として法律事務所の法人化を認め、事務所経営の多角化、効率化を図り、国内での自由な活動を認めることによって、国民の全てに法的なアクセスが容易に可能となるよう、制度作りを早急に行うべきである。
  • 法務法人における各弁護士の役割分担、経営責任、経営戦略等については、米国ローファーム(大法律事務所)を参照すべきである。


10.公的な法律扶助制度の充実

  • 裁判上、裁判外での様々な法的サービスにアクセスするためのコストを補助するために、まずは充分な司法予算を確保し、公的な法律扶助制度を充実させることが必要である。
  • 国民には、現在どのような法律扶助制度が存在するのか、各弁護士会の取り組みなども含めて、広く一般に周知すべきである。


11.弁護士等の積極的登用による企業法務の発展

  • 弁護士法は、弁護士が取締役等の会社役員もしくは使用人となることを原則禁止している(30条3項)。
     しかし、企業経営の大小を問わず、会社を巡る取引関係は量的に増大し、質的に複雑進化しているのが現実である。法的な問題点を事前にチェックし、企業の健全なる発展を図ることこそ、弁護士等の法律家が実務社会で活躍できる契機にもなりうる。また、米国においては会社経営に精通した
     社員・取締役が弁護士として職務遂行することは既に一般化しているといえる。
     そこで、企業内で勤務する弁護士を確保し、拡大する法律需要に応えるため、弁護士法30条3項は削除すべきである。
  • 企業法務の問題とパラレルに、国公立・私立の大学教授、各公共機関の職員に弁護士が就任した場合であっても、弁護士登録を抹消せずに済むよう制度を改正すべきである。なぜなら、産学協同による法律実務分析の発展こそ今日求められているし、法実務界で生起する法律案件を踏まえた大学講義、研究こそ不可欠といえるからである。
     さらに、ロースクール(前述)の指導教官にとって、弁護士登録は不可欠である。
  • 企業法務部門が将来発展していくためには、まずわが国の企業内弁護士の活動実態を把握する必要がある。
     法務省は日弁連と共同して、その現状把握に努めるべきである。


12.近隣アジア諸国への法的サービスの提供

  • 近隣アジア諸国(中国、韓国ひいては東南アジア)では、近時市場経済の高度化に伴い、国際貿易取引の量が激増している。国際社会学的な視点からすれば、アジア地域は欧米と違って普遍的な法思想、法体系を持たず、法文化の多元性が保たれているかもしれない。ところが今や、WTO体制における公正な自由貿易ルール、国際慣行が法的拘束力を有し定着していること、近い将来に国際会計基準が世界規模で採用されることからすると、未だ発展期にあるアジア諸国に対しては、様々な法制度上のノウハウを国家レベルで提供することが価値の高い国際貢献になると考えられる。
     具体的には、経済法、特許法、環境法の分野での制定ノウハウ、実践する意義について伝授するのが望ましい。
  • ODA(政府開発援助)予算については、財政難の下で年々減少する傾向にあるが、こうした知的財産の提供について政府レベルで積極的に取り組むべきである。


13.司法制度改革審議会の内容公開、期間延長

  • 司法制度改革審議会は2年という期限付きの会合であり、しかも多岐にわたる重要論点をわずか13人の委員で審議するものである。それ故、拙速な審議、市民感覚とはかけ離れた論議がまさに危惧されるところである。
     審議会に対しては、一般市民の率直な意見が反映されるように、電子メール、ファクス等で意見が伝わるように配慮すべきである。また、審議内容を把握する手段として、プレス公開は当然のこと、インターネットホームページを活用すべきである。
  • 2年間の審議で十分な結論が得られなかった問題については、引き続き継続扱いとし、半年後あるいは1年後改めて審議会を召集し、決して中途半端で終わらせないようにすることが肝要である。


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