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vol.2
特別寄稿
自自公で危ない橋を渡る小渕
−総選挙までの呉越同舟?
株式会社インサイダー代表 高野 孟 氏

 通常国会も一応山を越えて,政局の焦点は,小渕恵三首相が,自民党総裁 選を通じての党内構造の変動と総選挙に向かう自自公連立の枠組みの動揺を 乗り切って,“長期政権”への道を開くことが出来るかどうかに移りつつあ る.
 昨年8月に橋本前首相の後を襲ったとき,あれほど無知無能を揶揄されな がら,自分から「ボキャ貧」などと自虐的なギャグを飛ばしてひたすら耐え るしかなかった小渕にとっては,それによって何をするかではなく,政権を 長期に渡って維持して世間を見返してやること自体が中心的な政治目標であ り,そのためにはどんな毒でも皿まで食うというのが彼の基本的なビヘイビ アである.
あの明るい間抜けぶった笑顔の裏に,抑圧された暗い自己顕示欲 と,それなりにしたたかな計算高さが働いていることを見逃すべきではない.
 彼自身の思惑では,まず総裁再選を果たした後,絶好のタイミングで解散・ 総選挙を打って,自民党単独過半数は無理としても自自公合わせて過半数を 超えて政権を維持しさえすれば,そのうちに景気回復の兆しが見えてきて多 少とも浮揚力が働いて,やがて来年6月,自らの決断で場所が決まった沖縄 サミットの晴れの舞台まで繋げば,人気も上々,本格的な長期政権への展望 を開くことが出来る――ということだろうが,その道筋にはいくつもの地雷 が仕掛けられている.


★総裁再選は確実だが
 8月下旬か9月上旬に行われる可能性が高まっている自民党総裁選で小渕 が再選を果たすことはほぼ確実である.
 小渕は政策は苦手で,まして頭脳明晰風で口が達者な加藤紘一を相手に政 策論争などやりたくないので,人を介して加藤に立候補取りやめを働きかけ てきた.「ここは無投票再選にしてくれれば,次は君に譲るんだから」と, たぶん本気で考えていて,そのようなメッセージを加藤に伝えているし,野 中広務官房長官も「小渕は再選してもあと2年持つかどうか分からないんだ から,ここは自制して」というようなことを囁いているが,
加藤にすれば, どうせ当てにならない密約を信じて待つよりも,堂々と名乗りを上げて,勝 敗はともかく,昨年末に宮沢喜一蔵相から多少強引に引き継いだ派閥内に求 心力を働かせ,世間的にもポスト小渕の筆頭格としての立場を認知させるの が王道である.
 95年総裁選では,同じ派閥でリーダーを競っていた河野洋平総裁が,橋 本龍太郎の挑戦を恐れて自ら降りてしまい,以後は誰からも相手にされず少 数の手勢を率いて漂流する身となったのを,加藤は間近で見ている.それだ けに,あの二の舞は避けたいという思いも強いだろう.


 1つの不安は,小渕や野中の意向に逆らって出馬することで感情的な対立 が生まれ,総裁選後の人事改造で山崎拓ともども完全に非主流派に追いやら れることである.しかしバランスを重視して荒事を嫌う小渕の性格ではそう いうことは起こりにくく,逆に総選挙を意識した挙党体制という名目でそれ なりの処遇を得られる可能性のほうが大きい.その期待感をこめて,加藤は 盛んに「後腐れのない“さわやか総裁選”を」と言っている.
 小渕は,表だった論争は得手でなくとも,裏に回った票固めとなれば竹下 派以来の得意中の得意だから,再選そのものには不安がない.
 総裁選は,371人の国会議員が1人1票を持ち,約300万人の一般党員が 1万人につき議員の1票と同じ重みを持つという形で行われる.議員レベル では,小渕派93人,森喜朗幹事長の派が62,これまで非主流に甘んじてき た村上・亀井派が60の合計215に加えて,反加藤の河野グループの16があ るので,6割を超えて230程度はすでに確保している.また党員レベルでは, 強力な支持団体を抱える参院議員を小渕派で押さえているため,6割どころ か7割程度の票を固めるに違いなく,どうやっても加藤に勝ち目はない.


 小渕にとっての心配の種はむしろ再選後の人事である.今の党3役は橋本 時代のMプラスYKK体制をそのまま横滑りさせていて,その中からKとY が小渕の挑戦者となるわけだから,枠組みは変動せざるをえない.森は,早々 と小渕再選を支持することで幹事長留任もしくは主要閣僚ポストを得て,戦 わずしてポスト小渕で加藤より優位を確保しようというはっきりした路線で, 小渕はそれを尊重しなければならない. 他方,村上・亀井派は,1月の自自 連立発足の時に3役入りを熱望したが小渕が人事を先送りし,その際には「予 算が通ったら春に改造をやるから」と匂わされていたのに,それもまた先送 りされて,もはや暴発寸前の状態である.
 そこで小渕の選択は,小渕・森・亀井の3派を新主流派として3役を分け 合うか,それとも,現在と同様小渕派が遠慮してその分を加藤派に回して融 和を図るか,ということになろう.


 前者はかなりリスクがあって,加藤・山崎両派を非主流派に追いやること になる.冷や飯を食わされた加藤に対しては,民主党がここぞとばかりに「加 藤さん,あなたが決起すれば民主党が支持してリベラル政権が出来ますよ」 と働きかけるに違いない.もちろん,保守本流意識を引き継いでいる加藤は 余程のことがない限り自民党で造反を起こしたり離党したりすることはない し, 自分が自民党を制覇した上で民主党と手を組むなら組むのが本道と考え ているから,簡単にその誘いには乗ることはない.しかし,仮に自由党と公 明党が中立を保った場合,衆議院では民主党プラス加藤・山崎両派と,自民 党マイナス両派とはほぼ拮抗するというきわどいバランスになる.自由党が 自民党につき,公明党がまた宗旨がえをして加藤プラス民主党と組めば,確 実に加藤政権になる.


 その可能性を封じることも,自自公協調路線の狙いの内なのだから,小渕 がわざわざ加藤を野に放って自らを危うくするわけがない.従って後者の加 藤取り込みがベターな選択となるが,亀井あたりは「総裁選で雌雄を決した のだから加藤を優遇するのはおかしい」などと声を荒げそうだし, どこより も小渕派の膝元から「最大派閥であり総裁派閥であるのに3役入りをいつま で遠慮しているのか」と不満が噴き出すかもしれない.そのときに「総選挙 は挙党体制でなければ戦えない」という小渕の説得が通用するかどうか.


★総選挙の行方
 総選挙のタイミングは,理屈上は(1)今の通常国会の会期末,(2)秋の臨時 国会の会期末,(3)11月12日に政府主催で行われる天皇在位10周年記念式 典が終わった11月半ば以降,年末まで,(4)来年1月下旬の通常国会冒頭, (5)沖縄サミット後の来年初夏,(6)来秋の任期満了――といろいろある.
 このうち(1)は,大幅な会期延長の可能性がなくなり,野党が内閣不信任 案を出すきっかけを掴みかねている上,自自公連立が事実上,成立して公明 党が早期解散反対論を尊重しなければならなくなったことなどから,すでに 消えた.(2)も公明党が反対するので可能性が小さい.
 (6)は小渕の主導権で行う総選挙でなくなるので,ありえない.
(5)は,出 来ればそれまでやらずに済ませ,沖縄サミットのお祭り騒ぎの余勢をかって 一気に政権浮揚を図るという意味では理想的だが,4月から始まる介護保険 の負担感と景気回復のテンポとの兼ね合いが計算しにくいし,第一,沖縄サ ミットが狙いどおりの成功を収めるかどうかは分からない.
 となると,年末ないし来年早々という線に絞られてくる.小渕のほうから 見れば,ようやく上がってきた内閣支持率がまだ何とか維持できている間に, 補正予算と産業活性化策でもう一段と景気に弾みをつけ,しかも介護保険の 負担増が現実のものとなる以前――というタイミングとなる.


★公明党は“危険物”?
 どういう選挙になるだろうか.公明党は中選挙区制の復活に命を懸けてお り,そのためにガイドライン法案も盗聴法案も自民党に全面協力という恥も 外聞もない態度をとっているけれども,少なくとも半年後までにそれが実現 する可能性は残念ながら絶無で,現行の小選挙区制のままの選挙となる.
 自自公3党の全面的な選挙協力が実現した場合,3党の合計は400議席を 超えて,史上最強のスーパー保守政権が誕生するだろうが,そのような選挙 区調整は現実には不可能である.
 3党がバラバラに選挙に臨んだ場合,自民党は現有266を大きく減らして, 最大でも前回総選挙の239,おそらく220代から230前後になる可能性が大 きい.宮沢政権の崩壊以来6年間,有権者は一貫して,「自民党に2度と過 半数を与えない」という選択を示していて,この流れはおいそれとはひっく り返ることはないだろう.今の266というのは有権者の意思ではなく,同党 が新進党の瓦解に乗じて一本釣りで呼び戻した結果で,言わば未公認の数で ある.


 公明党も単独では現有52を半分近くまで減らすし,自由党も同様に39が 20以下まで激減する公算が大である.両党はいずれも,単独では生き残れ ないという切羽詰まった判断から,自民党との選挙協力に望みを託し,その ためにやりたくもない連立に踏み込んだわけだから,自民党としては両党を つなぎ止めて,「自自公を合わせて過半数を超えたのだから, 小渕政権の実 績が認められたことになる」と言える状況を作るためには,何らかの選挙協 力を実現しないわけにはいかない.しかし現実には調整は難しく,利害の衝 突が少ないいくつかの選挙区でシンボリックな協力をする程度にとどまるの ではないか.その場合,協力の効果は小さく,公明・自由両党は多少とも議 席減に歯止めがかかることはあるかもしれないが,自民党にはほとんどメリ ットがない.


 逆に,先の都知事選での明石康候補を押し立てた自公協力がそうだったよ うに,とくに大都市では,公明党=創価学会を嫌悪する自民党本来の保守マ シーンや反創価学会の宗教団体が動かないだけでなく,無党派層も自公協力 のうさん臭さを忌避することになり, マイナスの効果が大きくなるかもしれ ない.
 小渕は,5月訪米前にガイドライン法案を通すという目先の目的のために 公明党を引き込んで,それを政権維持に利用しようとしたのだが,それがか えって重荷というより小渕の命取りになりかねない.


★迷走する公明党
 公明党はそもそも,すでに何年も前に池田大作名誉会長が「公明党を作っ たのは間違いだったかもしれない」と言った時点で,事実上,存在意義を失 っている.布教のためには政治の場にも影響力を持たなければと言って純真 な信者を選挙運動に駆り立て,目覚ましい躍進を遂げたまではよかったが, それで実際に一定の政治的影響力を持つ存在となったとたんに, 池田の個人 的スキャンダルや学会の財務問題などを自民党から突つき回され,事あるご とに「池田国会喚問」を持ち出されて,そうなると宗教政党の悲しさ,教団 と教祖の擁護に回らざるを得ないという右往左往を繰り返してきた.池田に してみれば,公明党を作って政治に進出しさえしなければ,自民党から目の 敵にされることもなかったのに――という思いに駆られるのも当然である.


 公明党の当て所ない自立=学会離れの旅は,竹入・矢野時代から始まり, 石田・市川時代の細川政権イチイチ・コンビを経て,新進党結成に至ってよ うやく新たな安住の地を見いだしたかに見えたが,それも分解して,元の黙 阿弥,公明党に戻ってしまった.神崎公明党に求められているのは,この党 が単なる学会の番犬でないとすれば, 国民にとって何なのかという,政党と しての存在意義そのものであり,そこがはっきりしないまま,取り敢えず今 ある勢力を維持することが自己目的となってしまえば,キャスティングボー ドと言えば聞こえがいいけれども,政策判断の基準さえ失ってただ強い者に すがって生き延びるしかない,哀れな漂流者になってしまう.


 この間のガイドライン法案や盗聴法案での自民党との抱き合いぶりを見れ ば,教団の長い歴史の中で青年部・婦人部を中心に反戦・平和への希求を培 ってきた学会員でさえ,公明党のありように疑問を抱くことになろう.増し て,すでに存在意義を失った自分らの生き残りのためだけに中選挙区制の復 活を図ろうとするのは,改革の前進を願う国民から見れば犯罪行為以外の何 物でもない.
 そういう意味で,公明党は出口を見失って自滅する道に入った.同党が一 定の数を持っている間は,自民党は利用しようとするだろうが,次の総選挙 で勢力を半減させれば,自民党にとっての利用価値も半分かそれ以下になり, その次の総選挙までには限りなくゼロに近づいて,中選挙区制復活などとい うタワゴトは誰も口にしなくなる.誰にでも見えるその先行きが見えなくな るほど,公明党は度を失っていると言える.


 自由党も,総選挙の惨敗を受けておそらく小沢一郎代表が辞任し,残党は 自民党に引き取られることになろう.自民党との連立に踏み込むことで政策 的なイニシアティブを発揮して存在感を示し,取り敢えずは選挙協力で自民 党を利用しながら勢力を温存し,時機を見て同党の優良部分を引き剥がして 再び新党へ―― という小沢の思惑は完全に外れ,ガイドライン1つとっても, 小沢の安保哲学とは似ても似つかないものになってしまった.雑誌論文で憤 懣をぶちまけても犬の遠吠えにすぎず,政権内部で暴れ回って自民党をひっ かき回すのでなければ連立の意味がない.小沢ももう終わった.


★苦悩が多い民主党
 政権構想の中心パートナーと考えてきた公明党を自民党にさらわれた形の 民主党は,当面,政権奪取への道筋を見失って苦悩している.
 思えば,昨年の参院選挙後,首班指名で自由党や共産党を含む全野党が「菅 直人」に投票したときが,菅民主党の絶頂だった.その直後の金融国会では, 同党がそれなりの政策的イニシアティブを発揮し,自信なげな小渕政権に野 党案を丸呑みさせるという前代未聞の追い込み方をして,そこで全野党が結 束して一押しすれば,
自民党内の梶山支持派や若手政策通たちも造反して小 渕の首を掻くチャンスが訪れたかもしれなかったのに,菅直人代表の「金融 問題を政局にはしない」の一言で自由党が失望してそっぽを向き,やがて同 党を自自連立に向かわせるきっかけを作ってしまった.さらに菅の個人的ス キャンダルで求心力は霧散し,それでなくとも寄り合い所帯の民主党は,何 事によらずきっぱりとした政策や見解を打ち出すことが出来ないまま存在感 を薄れさせていった.


 ただの是々非々なら,昔の民社党と変わらない.そうではなくて,過去を 引きずって生きるしかないがゆえにシステムの改革と社会の改造の全体像を 示すことが出来ないでいる自民党に対して,民主党は,若い世代が中心の党 として,未来から現在を批判して大胆な改革プログラムを示して政権交代を 訴えるという, 鳩菅民主党の結成時の発想を貫くことが求められたが,現実 はそれとはほど遠い有様で,今度は公明党がそれに失望して自自公に走る結 果となった.その意味でこの難局は,菅が自ら招いたようなものなのである.


 こうなっては,秋の党大会で代表を鳩山由紀夫に譲って体制を一新するし かないとの意見や,鳩山になるかどうかは別にして,正面切った代表選を実 施して党内を活性化させ,国民にも存在感をアピールすべきだとの意見も党 内外にある.しかし,ただ代表選をそれらしくやるということなら, 今年1 月の菅・松沢対決の繰り返しでしかない.
 当初の民主党は「ネットワーク型の政党」を標榜したが,それがバラバラ にならずに機能するには,内からいくつもの強力な知的なイニシアティブが 生まれて競い合わなければならない.民主党もまた原点の確認を迫られてい るのである.


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