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vol.2
新 知的財産ウォッチング
〜 パ チ ン コ ・ ウ ォ ー ズ 〜
振譜 真朗

パチンコはお好きですか?
 皆さんパチンコはお好きですか?
   筆者は、生来、パチンコは言わずもがな、競馬、競輪、碁、将棋、麻雀等々、賭事勝負事の類はからきしダメな方であるが、それでも若い頃は何事も経験とばかりに一応チャレンジしてはその度毎に痛い目にあっていた次第。
 パチンコも同様で、昔は、現在のようなハイテク機ではなく、左手に一握りの打ち玉を持って親指で一玉ずつ投入口に弾き入れながら、右手親指で弾機のハンドルを操作して玉を打つ単発式という類のものであった。
しかし、「チューリップ」と呼ばれる型の機械が導入されてからはギャンブル性も高くなり、パチプロらしき人が大量の出玉を木箱に入れて足下に置き、そこに片足を掛けながらくわえ煙草で悠然とパチる姿がなんともカッコ良く見えた。一度は自分もそれをやってみたいと安月給のうちのわずかな可処分所得の大部分をパチンコに費やしたこともあったが、結局は夢がかなうこともなくパチンコ熱は冷めた。30年以上も前の話である。


 それ以後はパチンコ屋に足を向けたことはないが、昨今、大通りの目抜きの場所に何か豪華な店ができたなと思って総ガラス張りのドアから中を覗いてみると中は更にゴージャスな感じのパチンコ遊技場なのである。安っぽい蛍光灯の光がヤケに明るく、 「軍艦マーチ」だけが勢いよく鳴り響く中でなけなしの小遣いを注ぎ込んで充血した目で玉の行方を追う人々といった何かうらぶれた「パチンコ屋」という昔のイメージは微塵もない。今や健全なる大衆娯楽の殿堂と言わんばかりの様子には全く隔世の感を禁じ得ない。


巨大産業に成長
 さて、そのパチンコ屋が再び筆者の興味をひく事件が起こった。
 パチンコ機の主要メーカー10社が公正取引委員会から平成9年8月6日に勧告審決を受けたという事件である。すなわち、メーカー10社が特許プールを形成して新規参入を希望する業者に特許権等の実施許諾を拒絶することで当該事業分野における競争を実質的に制限しており、これは、特許法による権利の行使とは認められず独占禁止法第2条5項の私的独占に該当し、独禁法に違反するものとして、その排除措置が命ぜられたものであった。公取委がパチンコ機製造業界の状況に着目したということは、
産業としてそれなりの規模を有し、その動向が公共の利益に影響を及ぼすとの認識があったからであろうと思いパチンコ産業についてチョット調べてみた。そして、パチンコ産業はなんと我が国の基幹産業の一つである自動車産業にも匹敵する大産業に成長していたことに、度肝を抜かれるような驚きを味わったのである。最近のパチンコ遊技場がパチンコホールとかパーラーとか称してヤケに豪華になったものだとは思いながらも産業としてそれほどに巨大なものになっていようとは露知らずにいた自分の不明に恥じ入った次第。


 しかし、パチンコ産業に関する公の統計はほとんどない。唯一、通産省の外郭団体(財)余暇センターの「レジャー白書」がパチンコに関する統計を発表し、また、日本パチンコ学会の室伏哲郎氏が「パチンコ白書1997」を著しておられる。それらを参照すると、我が国のパチンコ人口は約2,800万人、1回の遊びに2万円弱を使うそうで、パチンコ遊技場は約18,000店、 その総売上が約32兆円(平成7年度。この数字は総務庁の平成6年サービス産業基本調査の結果である30兆円強と符号するので信頼できよう)であり、これにパチンコ機新台、景品、店舗新改築、玉補給機、防犯セキュリティ機器等々の設備費や管理費を加えれば、部品、付属品を含めた自動車産業の年生産額約40兆円に匹敵するというのも強ち誇張とばかりは言えない。


 ところで、パチンコ産業を規制している法律・規則の主なものは[1]刑法第185条の賭博に関する規定、[2]風俗営業適正化法の関連規定(ここではパチンコは風俗営業として麻雀と同列に扱われている)、[3]国家公安委員会規則の遊戯機の認定及び型式の検定等に関す規則等である。 風適法の実務執行が警察によって行われるのは当然かと思われるが、パチンコ機の製造は機械産業の分野であるからその試験・検定等は通産省が所管するかと思えばさにあらず、警察庁の外郭団体である「保安電子通信技術協会」が行っているのである。


人気の秘密は高い技術力
 さて、その大パチンコ産業の一翼を担うパチンコ機製造業界が独禁法違反とは聞き捨て鳴らない話である。統計によれば、パチンコ機の生産台数は平成7年で約400万台強でその売上高は約6,000億円強であり、その後は不況の影響か漸減傾向という。パチンコは勿論戦前からあったが、今日の隆盛は戦後のことで、その間、連発禁止令など厳しい規制により幾度も存亡の危機に見舞われながらもそのつど魅力ある新機種を開発して、つまり技術革新によってそれらを乗り越えてきたのである。 したがって、パチンコ機の主要メーカーはきわめて高い技術開発力を持ち、結果として多数の重要な特許を有している。このようなメーカーが自分たちの技術的優位性をできる限り長く維持するために各自の特許をもちよってそれらを共同で管理運用する特許プールを形成することは珍しい話ではない。遊戯機メーカーの共同組合(遊戯機工組)が(株)日本遊戯機特許運営連盟(日特連)を設立して特許権の運用を委託することにしたのも当然のことであった。


特許プールと独禁法
 しかし、今回公取委が勧告審決をしたのは次のような状況にあったためである。[1]特に主要10社の委託した特許は重要特許でそれらの実施許諾を受けないで風適法等の検定に合格する機械を製造することはできないこと。[2]10社は日特連の株式の過半数を所有すると共に役員の相当数を派遣していて実質上日特連の管理運営を支配していた点。[3]参入希望者に実施許諾を拒絶する、許諾する場合も契約中に相手方の商号、標章、代表者及び役員の変更や企業の構成及び営業状態を変更する場合は契約が失効する等の条項を設けて買収等による第三者の参入を阻止するなどの方針を確認している点。 [4]日特連は製造業者間の価格競争を防ぐ目的で実施許諾契約中に乱売を禁止する旨の条項や実施許諾を証する証紙の貼付を義務付ける条項を設けて組合員を指導し販売価格を監視するなどをしてきたことなどである。
 そこで公取委は10社と日特連が結合及び通謀して(これは10社が株式を保有し役員を派遣し、また種々の合同会議を行って実施許諾政策に関与したことを指す)外部に対しては排除行為を、内部に対しては廉売の防止を行ったものと認定して前述したように独禁法違反として排除措置を命ずる勧告審決を行ったのである。


 勧告審決とは、公取委が違反行為があると認めたときに違反者に対し適当な措置をとることを勧告し、それを違反者が応諾したときはそれと同趣旨の審決をすることができるという争いのない事件に対する簡易な審理方法であるので、その意味では10社及び日特連は素直に違反を認めその排除措置をとったということである。その後、メーカー各社は個別に自社の特許の管理運用を行っているとのことである。
 特許プールは一つの製品やシステム等にかかわる特許を一括して利用できるようにする仕組みであって
多くの特許権者が個々に実施許諾を行いあうといった煩瑣な手続をなくして互いに円滑な特許利用ができるようにするためのものであるから、それ自体は独禁法に反するものではない。しかし、有力な特許が多数集積されるとその特許プールの動きは当該業界に大きな影響力を持つことになるので、結果として公正な競争を阻害する場合も生ずる。特許権の行使による独占は独禁法第23条により独占の例外と認められているとは言っても何をしてもよいというものではないというわけである。



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