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通巻196号

今月のことば

21世紀にふさわしい国家公務員制度の改革を

反町 勝夫
■ LEC東京リーガルマインド代表取締役社長 ■ 

 日本の世論は、国家公務員についてよいイメージをもっていない。国家公務員は、特殊法人や大企業への天下りを行うこと、所属官庁や関連業界をバックに国会議員に転出すること、法律に明確な根拠がない通達・行政指導等により関連企業を規制すること、在職中の大きな権限を基礎に尊大な態度や癒着が目立つこと、等がマスコミに頻繁に取り上げられるからであろう。
 しかし、いかなる主権国家も国家公務員が国家機構の骨格を維持し、国家公務員の公正・円滑な公務の執行により、国家の発展と繁栄が図られることに異論はない。国家公務員が国民のサーバントとして(国家のサーバントではなく)国家100年の計のために誠心誠意職務に邁進できる制度を作らなければならない。特に省庁改革基本法により、現在約85万人(自衛官を除く)の国家公務員のうち郵政職員約30万人を除いた55万人の25%の削減を2009年までに実行し、約41万人に減らす計画が決定され、1府12省庁への再編も平成13年1月から施行される。この改革が国家公務員に与える影響は極めて深刻である。
 そこで私は、次のような制度改革を提案したい。
 第一に、在職中知り得た国家機密の漏洩を防止することと生活維持のために応分の年金制度を拡大充実することが必要である。いわゆる高級官僚の天下りは50歳台から始まっている。高齢化社会の今日、60歳台、70歳台まで現役で活動している民間に比べ、あまりにも早い退職が慣行化している。これでは退職後における相応の待遇と収入の確保ができる天下りが横行するのは避けられない。国家公務員は在学中のエリートであって、民間企業で高給を得ている同期の仲間と比較して、彼らに負けない待遇と報酬を期待するのは当然であろう。まして、公務員は私利私欲ではなく、国民全体のため、究極的には日本国全体の利益のために滅私奉公しているのである。この公務員の行動規範を我々は正面から素直に認めなくてはならない。優秀な頭脳と頑強な体力をもって、20〜30年にわたり深夜から朝方にまで勤務する高給官僚の勤勉さに対し、我々は素直に敬意を払って、退職後に十分な年金支給を行うべきである。同じく、国民と国家のために働く国会議員には、歳費・政治資金をはじめ退職後の年金が多額に支払われている。これとのバランスからみても不公平ではない。このような制度により、退職する公務員にとっては、自分の信念に忠実な第二の人生を選択することが出来るはずである。公務員の天下りは、小さな政府や規制緩和廃止による民間活力の拡大にとって、大きな弊害となっている。このような弊害を消滅させるコストと考えれば、公務員に支払う年金の増額は、微々たる額である。
 第二に、課長職以上の地位にある公務員には、その専門職種に応じて弁護士・公認会計士・弁理士・税理士等の専門資格を与える制度をつくるべきである。現在政府は、規制改革委員会において公的資格の規制緩和・廃止を推進中であり、これらの資格取得者の早急な増加が計画されている。これらの専門職は、民間においても官公庁においてもますます必要になる。米国には弁護士100万人以上、公認会計士50万人以上おり、その約10%が官公庁で働いているといわれている。21世紀に向けた日米関係の相互信頼を築くために、このような専門職を米国並に配置することは肝要なことである。
 第三に、米国に見られるポリティカルアポインティ(政府任命制)を課長職以上に適用する制度を作ることである。これにより、官産学の人材交流を活発化することができる。課長職以上に専門職種の資格を付与することがこのような人材交流の促進に大きく寄与することは言うまでもない。
 我国の国家公務員の国民人口あたりの比率は、主要先進国に比べ少ない現実を見落としてはならない。いたずらに日本国の優れた知能の持ち主である人的資源を無駄にすることは、外国を利することはあっても日本にとってプラスにはならない。有能な人材を無能呼ばわりしても無能な人材が有能になるわけではない。
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