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通巻 196号

特集 労働市場最前線 ―労働力需給調整システムをとりまく環境―
○ここまでの経緯
 昨年12月21日、司法制度改革審議会は「論点整理」の中で、「法曹養成のためのプロフェッショナルスクールの設置を含め、法学教育の在り方について抜本的な検討を加えるべきである」とし、法科大学院の設置を検討することを明らかにした。また、今年5月18日には自民党司法制度調査会(保岡興治会長・現法相)が「21世紀の司法の確かな一歩」と題する報告書をまとめた中でも、法科大学院制度導入には前向きな結論を下している。
 他方、設置主体となる(という意味では当事者の)大学では、昨年7月3日の京都大学を皮切りに全国93の大学法学部のうち約3分の1が、法学部・大学院教育の新たな展望を探るためのシンポジウムを開催してきた。これまで法科大学院の設置をめぐって、政府・与党サイド、大学サイド、法曹界、経済界で、活発な議論が展開されてきている。また、法曹を輩出することは大学の権威と表裏一体にあることから、構想案に係る大学間の意見対立も日々激しくなる一方、様々な思惑が見え隠れしていることも事実であり、6月13日には関東の13私立大学が一部の有力大学に対抗・牽制する意味で、法科大学院設置基準の公表を求める要望書を審議会に提出したところである。
 司法制度改革審議会は今年10月31日に、中間答申を首相に提出する。法科大学院構想をめぐっては論点が多岐にわたるため、審議会単独では中間答申までに一定の結論に達することが不可能との判断から、審議会は細部・専門事項の検討について文部省に協力を要請し(4月25日)、8月上旬の審議会集中審議において何らかの中間報告を、9月30日に最終報告を審議会に提出するように併せて依頼した。
 こうした経緯のもと、文部省高等教育局大学課の管轄で「法科大学院(仮称)構想に関する検討会議」が設置された。そして、検討会議では5月30日から週2、3回のペースで議論が進められ、8月7日の審議会第28回会合において「検討会議における議論の整理」(以下、「中間報告」)と題する報告がなされるに至った。
  ○論 評
 まず、文部省検討会議には大学代表として、東大、京大、早大、慶大、中大の5大学から参加があったことから、当初から中間報告は5大学寄り、即ち旧帝大、有力私大に有利な内容で収まるのではないかと懸念されていたが、内容的には大学間で不公平を生じないように配慮されており、評価できる。全国的に地域性を考慮し、認定するという点、連合大学院の設置も認める点で特にそのことが顕著に表れている。
 また、(法曹人口の需給調整を行うという趣旨に間違いないのか)法科大学院の総定員は定めるが、別個に大学ごとの定員を規制しないという点も、各法科大学院の自主性を喚起し、設立のインセンティブを与え、他校との良い意味での競争を生むことにつながり、評価されるべきである。
 問題点を敢えて指摘する。まず、中間報告は法曹三者、大学、法務省、文部省等多数の利害関係者に配慮しすぎている。そのため、制度設計の議論は今後収束する見込みがあるものの、すべての論点につき相互に整合性を保ちながら、多数見解どおりに実現するのかどうか疑問が拭えない。
 また、検討会議における少数意見が今後どのような扱いを受けるのかが定かではない。具体的には、法科大学院の射程範囲の議論として、司法書士、弁理士、税理士などの隣接法律職種の養成をどうするかという問題、また法科大学院の制度理念として法曹一元制度とリンクさせたシステムを作るべきではないかという問題などが残されている。 さらに、今後の議論とも関係するが、法曹人口の増員策をどれくらいの規模でどのようなスケジュールで推進していくのか、いつ法科大学院を設置するのか審議会の側で事前に明らかにされていないために、多数見解がどれほどの意味合いをもつものなのか不明である。
○今後の課題
 基本的に今回の中間報告が審議会の中間答申に反映すると予想される。そこで、大学は検討会議のこれから1か月あまりの動向を注視しつつ、自らの構想案との擦りあわせを行う必要がある。そのためにも、今年秋以降もシンポジウムを開催し、幅広く意見を拾うのが妥当といえよう。
 審議会では速やかに、法科大学院のスケールを明らかにすべきである。総枠的なスケールが明らかになってこそ、各法科大学院間の競争の度合いが決まり、独自性を発揮するレベルが自ずと定まる。そうすると、法科大学院進学希望者にとっても、進路決定がし易くなるはずである。
 最後に、法科大学院には間違いなく認定校制度が採用されるわけだが、ある種の参入規制が作用することになり、必ずや規制改革の対象になることを付言しておく。

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