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通巻 195号

処罰法案
 7月5日、民主、自由、共産、社民の野党4党は、「国会議員地位利用収賄処罰法案」を衆議院に共同提出した。  公共事業の指名競争入札をめぐる中尾栄一元建設大臣の受託収賄事件を契機に、国会議員と不透明なカネとの関係に批判が集中している。この法律は、国民からの期待に応えることができるか。
 
法律案の概要
 「国会議員の地位利用収賄等の処罰に関する法律案」は、交通違反記録のもみ消し事件等、国会議員の職務関連性が刑法解釈上疑義を生むことに着目し、収賄罪(刑法第197条以下)でカヴァーすることのできない行為類型を新たに処罰の対象とすることを狙う。
  第1条は、国会議員地位利用収賄の構成要件を定める。
  まず、行為主体は「国会議員」である(真正身分犯)。
  また、主観的要件として「特定の者に不当に利益を得させる目的」が必要である(目的犯)。
  そして、処罰の対象となる実行行為は「その地位を利用して他の公務員にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をした」ことである。
刑法の収賄罪規定とどこが違うか
 国会議員地位利用収賄罪は、目的犯である。収賄罪のように職務関連性や請託がなくとも、特定の者に利益を得させる目的さえあればよい。国会議員の一般的職務権限に属さない行為であっても、また具体的な請託の事実が微妙なケースであっても犯罪は成立することになる。
  そして、国会議員が「その地位を利用」することが要件となっている。地位を利用するということにつき提案者がどのようなイメージをもっているか定かではないが、「議員の○○だが、・・・」と明示・黙示を問わず氏名を語り、権威を振りかざし、他の公務員の職務に口を挟むということであろうか。
いくつかの問題点
 第一に、地位利用収賄を行いうる行為主体は、国会議員に限らない。同様の社会的・政治的影響力を持つ者として、首長(知事、市町村長)を挙げることができる。首長についても、同様の処罰規定を設けるべきではないだろうか。
  第二に、国会議員や首長に限らず、それぞれの地位を利用するのは本人だけでない。議員秘書、親族がその典型であり、同一の保護法益が害される。国会議員の法定刑と同等以下で処罰すべきではないだろうか。
  第三に、罪刑法定主義の観点から、「その地位を利用して」という構成要件要素の明確化が必要である。国会議員という身分がつきまとう以上、常に地位を利用しているという判断にもつながりかねない。逆に、地位を利用しない場合とはどういう場合なのか。地位利用について、客観・主観を総合した具体的な行為態様を規定すべきである。
  最後に、法定刑である。法案では、三年以下の懲役となっているが、単純収賄罪(五年以下の懲役)よりも軽いというのは妥当でない。単純収賄罪と同様、五年以下とすべきである。

 刑罰の存在、刑罰権の発動がなければ維持されない国会議員の活動とは一体何なのか。

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