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通巻 195号

特集 労働市場最前線 ―労働力需給調整システムをとりまく環境―
 ○文部省の検討会議がスタート
 4月25日、司法制度改革審議会の第18回会合で、審議会は法科大学院設置に係る専門的・技術的事項の検討を文部省に依頼することを決定した。審議会から文部省に対する協力依頼事項は、(1)新しい法曹養成制度の一環としての法科大学院(仮称)構想に関し、入学者選抜の方法、教育内容・方法、 教育体制等についての基本となるべき事項を、司法試験及び司法(実務)修習との有機的な連携に配慮しつつ 大学関係者及び法曹三者の参画を得て適切な場を設けて検討の上、その結果を提出すること。 (2)上記1の検討の際、法科大学院(仮称)における教育内容・方法等との関係で司法試験及び司法(実務)修習の在り方についての意見があれば、付言して提出すること。 (3)下記の回答期限(今年9月:筆者注)までの間においても、当審議会の求めに応じ、随時、検討状況を報告すること。 の3点である。
  文部省はこの依頼を受け、高等教育局長の裁定により省内で検討を図ることとなった。検討協力者として法曹三者・文部省・大学より9名、審議会委員より4名、計13名の参加が決定
○これまでの検討経緯
 5月30日、検討会の第1回会合が開かれた。協力者の中から、小島武司・中央大教授が座長に選任されたほか、9月の回答期限まで月3回のペースで会合が開かれることが確認された。
 6月7日の第2回会合では、伊藤委員より第5回までの検討項目が提案され、了承された。具体的な検討項目は、次のとおりである。
第2回(6月7日) 検討の前提として確認すべき事項、法曹養成のための法学教育を担うべき主体に関する考え方、法科大学院における法学教育の基本骨格と修業年限
第3回(6月23日) 法科大学院入試、法科大学院における教育内容、法科大学院における教育方法
第4回(6月29日) 法科大学院における教員組織、法科大学院の設置形態
第5回(7月5日) 第三者評価のあり方、司法試験、実務修習との関係
 これまで5回の会合では、法科大学院制度導入に係る上記重要論点を学者中心に議論が進められてきた。 検討会議ではまた、司法制度改革審議会の夏季集中審議(8月7日〜9日)にあわせ、何らかの報告を行うとともに、8月中旬〜下旬には検討会議としての中間報告をとりまとめる予定となっている。
  検討結果は今年9月中にまとめられ、審議会に最終報告がなされる。審議会は10月末に「中間答申」を出す予定であり、法曹養成制度改革の論点の中で検討結果が反映される模様である。
○文部省検討会議の問題点
 文部省で本格的な検討が始まったことは、法科大学院の早期制度化に向けて大きな前進といえる。しかし、問題点もないわけではない。
 まず、検討会議でどのような議論がなされようとしているのか、論点整理が十分緻密に行われていない。法科大学院設置の理念設定に始まり、卒業者が実務修習を経て法曹資格を得るまでの間には実に多くの論点、問題点が存在することは、検討会議委員の間では十分認識されているはずである。
 しかし、意図的に検討会議の論点から外したものがあるとすれば、それはなぜ文部省内で議論できない(議論するべきではない)のか、国民に対してその理由を説明するべきである。検討項目では少なくとも、(1)認定校制度を大前提とするか、(2)現行の司法試験をどうするのか、(3)広義の法曹(弁護士との隣接法律職種、企業法務社員等)の養成を視野に入れるか、(4)そもそも、本当に日本型ロースクールというスタイルでよいのか(法学部の存置論)、という論点が看過されている。
  また、審議会の中間報告に間に合わせるためだけに全論点について結論を出す必要はないので、意見対立が残る点、社会的合意が必要な点については拙速な結論をとりまとめるべきではない。特に、上記(1)〜(2)では国立大と私立大、司法試験合格実績の高い大学とそうでない大学、都会の大学と地方の大学、という複雑な対立構図の中で、合意形成が難しいところである。審議会の中間答申後も、大学審議会ではなく当検討会議が引き続き、法科大学院制度の詳細を詰めるという姿勢が必要である。
○大学はどう対処すべきか −望まれる
「法科大学院構想シンポジウム」とは−
 現在もなお、全国各地の大学で頻繁に法科大学院構想のシンポジウムが開催されている。政府に議論を任せきるのではなく、「大学の自治」の理念に則り、大学側から積極的な意見表明をすること自体は大変に意味のあることである。
  しかし、国民サイドは法科大学院制度の問題を全国的な視野で見ている。一部の大学がこのような構想を表明する結果として法学部教育がどう変わるのか、ということに関心があるのではない。現在主張されている構想の中には、ある論点につき既に通説化していると勝手に思い込み、それを前提とした議論を行っているもの、また先程述べたように認定校制度導入の可否は大きな論点であるにもかかわらず、自校は法科大学院として認定されて当然という論調で主張されているものがある。これでは一部の大学が特権を狙ったものとの誤解を招きかねない。
  自校の評価、歴史・伝統の回顧もいいが、少なくとも検討会議で示された論点と私が先に指摘した論点(1)〜(4)について、どういう立場をとるのか明確にするべきである。
  そうすれば、問題点が共有化され、各大学の構想の比較・検討が容易となることで、国民にとって分かりやすく実のあるシンポジウムとなると思料するがいかがだろうか。

○「検討会メンバー」 ※50音順
井田 良 (慶應義塾大学法学部教授) 伊藤 眞 (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
遠藤純一郎 (文部大臣官房審議官) 加藤 哲夫 (早稲田大学法学部教授)
金築 誠志 (最高裁判所事務総局人事局長) 川端 和治 (日本弁護士連合会副会長)
小島 武司 (中央大学法学部教授:検討会座長) 田中 成明 (京都大学大学院法学研究科教授)
房村 精一 (法務大臣官房司法法制調査部長)  
井上 正仁 (司法制度改革審議会委員) 鳥居 泰彦 (司法制度改革審議会委員)
山本 勝 (司法制度改革審議会委員) 吉岡 初子 (司法制度改革審議会委員)
*なお、文部省検討会議の議事概要は、司法制度改革審議会のホームページでみることが出来ます。
(http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/index.html)



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