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通巻 194号

未来予測

  
 1999年7月28日、内閣に司法制度改革審議会が設置された。審議会は、「二十一世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する」ことを所掌事務とし(司法制度改革審議会設置 未来予測


法第2条第1項)、2001年夏の最終答申に向け、現在審議の真っ只中にある。同年12月21日の論点整理では、法曹人口増加、法曹養成制度改革、法律扶助制度の拡充、法曹一元制度の導入、陪審・参審制の導入、弁護士と隣接法律専門職種との関係見直し、などの検討項目が公表された。それに合わせ、実務法曹界、経済界、大学、市民団体を中心に、司法制度改革が熱心に議論されている。 すでに第147回通常国会では、司法制度改革の要諦ともいえる民事法律扶助法案、犯罪被害者保護法案、弁理士法改正法案が提出されたところである(民事法律扶助法案は4月21日に参議院で可決、成立、弁理士法改正法案は4月18日に衆議院で可決、成立した)。
 ところで、「21世紀のわが国社会において司法
が果たすべき役割」とは何か。幅広い視点からその大綱を考察するならば、次の3分野にまとめることができよう。
 第1は、裁判外における市民生活、企業活動、行政活動等の分野における法の支配の実現・拡充である。
 第2に、法曹三者によって構成される司法(裁判所)を中心とした改革である。
 第3に、冷戦終結後10年を経た今日の国際化、グローバル化に対応した国際活動、国際関係における企業活動や政府関係における法の支配のサポート(支援)である。
 先に出された「論点整理」は、主として第2の分野について焦点が当てられているが、第1、第3の分野についての歴史観、問題意識が希薄であると言わざるを得ない。


 そもそも戦後50年以上にわたって、わが国の国家理念は国民主権及び自由主義を市民生活・企業活動・行政行為の全ての分野で実現することにあったが、その成果は悲壮的であり、国民自身の血肉となっているわけではない。
 現在、この第1の分野における法の支配の本格的実現による改革こそ重要である。
 この分野は、裁判手続外で活躍する準法曹の活動領域であって、これらの専門サービスを市民生活・企業活動の隅々にまで浸透させることが肝要である。
 他方、第3の分野について言えば、社会主義圏の崩壊により今や19世紀末、20世紀初頭の社会主義国家成立以前の主権国家間の競争、民族対立、宗教間の争い、資本主義経済下の弱肉強食
、いわゆる乱世の時代に突入しつつある。
 このような国際経済社会において、世界第2位の経済大国である日本の対外的活動は、経済活動をはじめ、政府の活動及び市民の海外渡航等、膨大な国際関係をもたらし、外国人や外国企業、政府との接触はますます増加の一途にある。特に、海外での企業活動は、現地の法制度と自国の法制度との整合性など、多難な問題を抱えている。
 ますます国際化していく企業、市民の活動を支援するには、正義の理念を体現した実務法律家、国際関係に通じた法律家を育成する以外にない。これが第3の分野における司法制度改革の要諦である。
 なお、第2の分野における論点につい


て付言する。裁判手続に関連し、訴訟提起から判決に至るまでの改革に力点が置かれているが、最大の問題点は、当初の契約事項について当事者がどのような内容の合意をしたか、明らかでないまま裁判に至るケースが多いということである。
 この点フランスでは、公証人が当事者の契約内容を確定・認証する。アメリカでは、弁護士が裁判外の契約についてサインをしている。それ故、契約内容をめぐる紛争が少ない。
 わが国では、契約の内容確定は私的自治に任されている。このため、訴えが提起された際、当事者がいかなる内容の合意をしたか不明確なまま、裁判官が法を適用する前段階での契約内容の確定に徒に時間が費やされている。  従って、わが
国も公証人による契約内容の認証による確定化、あるいは実務法律家(弁護士に限らない。準法曹を活用すべきである)による認証・確定を制度化すべきである。
 次に、わが国の裁判制度は判決後の執行段階においても不十分である。判決内容が100%実現されるためには執行官による執行手続が迅速・確実に行われなければならない。しかし現状では、執行官制度の運用が旧態依然として機能していない。判決が「絵に描いた餅」に終わってしまっている。
 特に民事司法の分野では、公証人・執行官の制度改革も視野に入れる必要がある。
 いよいよ今秋には、審議会の中間答


申が提出される見込みとなった。中間答申の内容は事実上、先の論点整理に添い、最終答申の骨組みとなることから、重要な意味を持つ。そこで、審議会での中間答申に先立ち、連立与党内での十分な方向付けを期待し、ここに『司法制度改革審議会中間答申に向けての提言』を取りまとめた。
 提言は、審議会の論点整理(法曹三者の法廷活動を対象にした項目)に限定していない。実に幅広い裁判外の法律実務が、弁護士以外の実務法律家によっても担当されることが真の国民の利益に適うとの立場に則り、それを実現するための制度改革に言及している。
 与党内で十分な検討が加えられることを強く要望する。
 


 
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