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vol.1
社会人キャリアアップ
社会人のキャリアアップを国が積極支援
〜教育訓練給付制度・緊急中高年再就職促進訓練制度の意義・展望〜

今日の日本の雇用環境は決して明るいものではありません。完全失業率が過去最悪の3.6%に達した平成10年2月以降、微増を続け、現在は4%台で推移しているような状態です。 就労経験の浅い若年層に限らず、管理職クラスの中高年層までがリストラの対象となり、完全失業者数も300万人を超えている状況です。

 バブル経済の絶頂期の10年程前には、新卒大学生は難なく上場企業に入社したほか、企業側の人手不足という認識も手伝ってか、入社5年以内の若年層を中心に「転職ブーム」が起こり、他の一流有名企業へと転身していきました。 しかし、現在の有効求人倍率が0.5を下回り、150万人にも達すると言われる企業内失業者が存在し雇用市場が閉塞している現況では、有利な条件での転職はなかなか難しいようです。

 労働省・通産省が中心となって行った規制緩和政策によって、確かに一時期は雇用形態の多様化が進展し、雇用市場が活性化しました。しかし、今ではそれが逆効果となって雇用に対する不安、政府の雇用政策への不信感、将来に対する漠然とした暗いイメージが社会に蔓延し、雇用市場がきわめて不安定になっています。 労務を提供し、その対価として報酬を得ることの充実感を国民一人ひとりが真に感じること、または資格等を取得し、自らの職業能力をさらに向上させることの意義と楽しさを実感することが、暗い雇用環境を逆転させる契機になるのではないでしょうか。

 働くことは国民の権利であり、義務でもあります(憲法27条1項)。この労働基本権はいわゆる生存権的基本権に属し、国民の労働権が実質的に平等に保障されるように、戦後各種の立法がなされてきました。雇用対策法(昭和41年法律132号)を中心に、職業安定法(昭和22年法律141号)、職業能力開発促進法(昭和44年法律64号)、高年齢者等雇用安定法(昭和46年法律68号)など、雇用の創出から労働者の権利保護その他社会保障に至る法的システムの構築が図られてきました。しかし、現在の深刻なデフレ感と 有効需要の創出が結果として露見しない現代版経済政策の限界を考えますと、雇用者と労働者の法的、経済的関係を国家が憲法の理念から規制、保護するといった従来の政策手段では事態は打開しません。労働力の提供者である私たち国民が、自ら能力開発のための訓練を行い、その能力が十分に発揮しうる職場についての情報を収得した上で雇用市場で取引する(すなわち、雇用者側に対して自分の専門性と技術力をアピールしていく)ことが必要なのです。

 労働省では、このような主体的な能力開発を経済的に支援するため、教育訓練給付制度並びに緊急中高年再就職促進訓練制度を始めています。
 教育訓練給付制度とは、5年以上雇用保険の一般被保険者である方、もしくは既に離職した場合でも受講開始まで1年以内である方が、
労働大臣が指定する教育訓練講座を受講した場合、その受講料の80%(上限20万円)を各地方の公共職業安定所(ハローワーク)から支給されるというものです。1998年(平成10)年12月1日よりスタートしました。

 雇用保険一般被保険者の期間5年以上(簡潔に言えば、社会人経験5年以上ということです)という条件があるために、多くは30代以上の方々がこの制度を利用しています。 教育訓練給付制度を利用して宅地建物取引主任者、社会保険労務士、不動産鑑定士等の資格を取得しようと、資格ブームに拍車がかかっています。

例えば、宅地建物取引主任者という資格では、建設会社の従業員はもちろんのこと、一般企業の不動産部、法務部の社員にその資格が奨励されています。しかし、現実には、働きながら試験勉強することに金銭的、時間的な制約などさまざまな心理的不安がつきまとうものです。 この点宅建の資格取得に成功すれば自分のスキルアップにつながることはわかっていながら、学習を開始するきっかけがつかめなかった方にとっては、教育訓練給付制度はきわめて効果が高いと言えるでしょう。

 今、人気が急上昇している資格としてはコンピュータネットワークのシステム開発を行うシステムアドミニストレータ、米国公認会計士(U.S.CPA)、ファイナンシャル・プランナー(FP)があります。 すぐに仕事に直結させないで、単に資格武装をして資格人気にあやかる目的であっても教育訓練給付制度を活用することができます。

 政府与党では教育訓練給付金に関連して来年度も十分な予算を確保し、制度の向上が実現できるよう検討が始まっています。また、野党・民主党では、雇用保険の一般被保険者の加入要件を6ヵ月以上に大幅短縮する旨政策提言を行っています。将来の目標を達成するために離職した方、また不本意ながらも一方的に解雇を言い渡された方、 そして現在の会社業務には満足せずキャリアアップを目指そうと決意している方等、社会には実にさまざまなきっかけで給付金制度を利用しようと考えている人たちがいます。ですから、労働省実施の雇用活性化総合プランの中核として教育訓練給付制度が雇用市場の安定と不況脱却の両面において十分な政策効果を発揮することが期待されています。

 教育訓練給付制度と並行して、緊急中高年再就職促進訓練制度が実施されています。これは45歳以上60歳未満の離職者で現在失業手当をもらっている方などを対象に労働省が全国の民間教育訓練機関にさまざまな職業訓練を委託しているものです。 受講料は国が全額負担し、受講生は一切の金銭的負担をしません。
 民間教育訓練機関には、(イ)ホワイトカラー高度化コースと(ロ)職種転換促進コースの2つのモデルコースが設定、委託されています。

 まず、(イ)ホワイトカラー高度化コースでは税務会計実務、財務管理実務、営業実務、経営管理実務の各セクションに多種多様な訓練内容を設け、マネジメントスペシャリストの再訓練、レベルアップが図られています。
 また、(ロ)、職種転換促進コースでは、
測量、不動産サービス、介護福祉サービス、医療事務、OA事務等のカリキュラムを用意し、事務系から技術系へ、サービス系から情報系へと異なった職種間への転職を容易にするためのノウハウが提供されています。

 教育訓練給付制度とは別に緊急中高年再就職促進訓練制度が実施されている意義は以下の点であると思います。
 まず、当然のことですが、教育訓練給付制度と併用し、講座受講料の8割を教育訓練給付金で充当し、それとは別に再就職訓練のモデルコースを受講することが可能です。 また、教育訓練給付制度の支給要件を満たさない場合でも、緊急中高年再就職促進訓練制度はいったん教育訓練給付金を受給した人であっても対象者となり得ます。 資格取得を考えている方にはぜひとも、これらのメリットを最大限活かしていただきたいと思います。
「転ばぬ先の杖」という諺があります。個人の価値観が多様化し、自由競争が活性化する中、実務界で成功するためには、まず、自己責任原則に基づき、実務レベルに耐え、活躍範囲をさらに拡大していくための知識を習得しておく必要があります。 主体的な能力開発を実践しようとする社会人の皆さんには、教育訓練給付金制度、緊急中高年再就職促進訓練制度を十分に活用し、将来の企業社会の第一線を担われることを期待します。

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