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中小企業診断士レッセフェール
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第3回 平均では分からない中小企業の特性!?(統計のイロハ 後編)の巻

【今回のまとめ】
1.寄与度(*1)とは、時系列データの変動要因(原因)を特定するのに使う指標である。
2.変動係数とは、平均の異なるデータ間のばらつきを比較するのに使う指標である。
3.中小企業の特性とは、ばらつきの大きさ――すなわち、多様性にある。

前回は、「最小二乗法は、データによるロジカル・シンキングである」という観点から、統計データを解釈するためのテクニックを説明しました。
その内容は、1.説明変数とは原因で、被説明変数とは結果である、2.決定係数(RSQ)とは、推計式の説明力(パフォーマンス)の高さを示した統計量(指標)である、ということでした。
この基本をマスターすれば、最小二乗法に関する白書の図を読むことができます。あとは、こういった図に多くあたって、統計の勘どころを磨くだけです。
今回は、統計のイロハの後編として、最小二乗法以外の統計学の手法について、白書を題材に説明します。統計学的厳密さは別として、分かりやすく説明するつもりなので、もう少し我慢してください。

まず、2004年版 中小企業白書第2部 第1章第3節「技術革新を生み出す中小企業」では、中小企業が経済社会の発展・多様性のシーズになりうるかについて、全要素生産性という概念を用いて説明しています。全要素生産性とは、簡単に言うと技術進歩率のことです。
白書では、「経済成長の源泉となるのは、資本、労働力など経済資源の投入増加によるだけでなく、技術進歩や各種の効率性向上の効果を意味する全要素生産性(*2)の増加である。日本においても、〜全要素生産性が経済成長率に与える影響は大きい」(白書 P.72左中)と述べ、その根拠として第2-1-20図「日本における実質経済成長率への全要素生産性の寄与度」を示しています。
政府は、少子・高齢化等により労働力や貯蓄(資本)の伸びが期待できない中、グローバリゼーションの進展や産業構造等の変化で、「技術進歩(全要素生産性)こそが経済発展の原動力になる」と考えているわけです。

では、第2-1-20図の表題にある寄与度とは何でしょう?
図には、算出方法に関する説明がありませんが、寄与度とは、「時系列データの変数の変動に対して、各項目がどれだけ影響(寄与)しているか」を表す指標のことです。変数の変動要因(原因)を探すのに使えます。統計学的な論理のつながりです。
図から、71〜75年は、実質成長率の4.8%のうち4.1%までが資本投入によるものと分かります。当時は最新設備を導入し、大量生産によるスケール・メリット(規模の経済)を追求する資本集約的な産業(化学、鉄鋼、造船等…)が成長をリードした時代だったのです。
同様に、成長率が低下した90年以降は、全要素生産性の寄与度が大きく低下していることが分かります。理由は、研究開発集約的な産業構造の転換がうまくいってないからです。これこそが「経営の革新及び創業の促進」(中小企業基本法 第5条 基本方針)が求められる理由なのです。

図

また、第2-1-21図「中小企業と大企業の全要素生産性成長率の比較」では、「イノベーティブな活動では、中小企業も活躍」「技術進歩などの面での技術革新において中小企業が活躍していることが想像できる」(白書 P72左下)と述べ、中小企業の活躍が今後ますます日本経済の成長にとって必要であることを示しています。
資料は古いのですが、平成11年(1999年度)白書 第2章「中小企業の実態と多様性」 第2節「中小企業の生産性」 第1-2-35図「規模別TFP成長率(平成4〜9年)の平均とばらつき」(一部加工)、第1節「中小企業の位置付け」 第1-2-24図「企業規模別、変動係数一覧」(一部抜粋)、が内容的に関係しているので、紹介しておきます。

その前に、図の表題にある「平均」と「ばらつき」について確認しておきます。
まず、統計学的厳密さは別として、平均とはデータの中心(重心)、ばらつきとはデータの散らばり具合(分布状態、密度)を意味すると、理解しておいてください。
つまり、ばらつきが大きいと、データがまばら(密度が薄く)で、ばらつきが小さいと、データが密集(密度が濃い)します。ばらつきとは、平均に対しデータがどの程度密集しているかを知る統計量(指標)なのです。ばらつきを表す指標として、標準偏差がよく用いられます。

第1-2-35図(下図)を見ると、全要素生産性の平均(A)は、中小事業所が0.02なのに対し、大規模事業所が0.37です。でも、ばらつき(B)は、中小事業所が150なのに対し、大規模事業所が11です。
目につくのは、中小事業所の技術進歩の低さですが、注目すべき点は技術進歩のばらつきの大きさ――多様性です。これは、中小事業所の中に、大規模事業所さえ顔負けのもの凄い技術を持ったニッチ企業やオンリー・ワン企業がたくさん存在している証拠なのです。

第1-2-35図「規模別TFP成長率(平成4〜9年)の平均とばらつき」(一部加工)
  平均(A)  ばらつき(B) 変動係数(B÷A)
中小事業所 0.02 150 7500
大規模事業所 0.37 11 30
*資料:旧通産省「工業統計表」再編加工
*けんけんで変動係数を計算した

ところが、中小事業所と大規模事業所のばらつきを比較するにあたって、注意すべき点があります。それは、平均が大きいと、ばらつきも大きく、平均が小さいと、ばらつきも小さくなる一般的な傾向です。つまり、平均(特性)が大きく違うデータ同士は、ばらつきの比較が一概にできないのです。
そこで、標準偏差(*3)を平均で割ることで、ばらつきを比率にし、平均の違いの影響を除去します。これが変動係数(*4)で、データ間のばらつきを比較するのに用いられます。
35図では、中小事業所と大規模事業所のばらつき(B)の倍率は13.6(150÷11)ですが、変動係数でこれを見ると、250(7500÷30)と、さらに拡大することが分かります。

同様に、第1-2-24図(下図)を見てください。変動係数の違いから、中小企業の多様性が分かっていただけるかと思います。これらの資料は、規模の経済性が必ずしも業績の格差になりえないことを示唆しているのです。
このように、「多様で活力ある中小企業の成長発展」(中小企業基本法 第3条 基本理念、上図参照)とは、キャッチ・コピーや仮説などではなく、ファクト・ファインディング(事実確認)にもとづいた真実であることが分かるのです。

第1-2-24図「企業規模別、変動係数一覧」(一部抜粋)
  中小企業 大企業 中小企業/大企業
収益性
(H9)
製 造 業 3.97 1.44 2.76
卸 売 業 8.28 2.41 3.44
小 売 業 9.56 4.38 2.18
サービス業 182.89 4.58 39.93
*旧通産省「企業活動基本調査」、「工業統計表」旧大蔵省「法人企業統計調査年報」 各々再編加工
*けんけんで、収益性のみを一部抜粋した

今回は、かなり文章が増えてしまいました。けんけんも大変でした。皆さまも疲れたと思います。
当初は、QC活動等で使う相関係数の使い方や注意事項も扱うつもりでしたが、相関係数は白書であまり使われないため、説明を最小限にしました。これで、統計のイロハ編はおしまいです。いかがだったでしょうか?

次回は、多様で活力ある中小企業の実態を踏まえながら、学習の困難な中小企業政策に関するお話しをします。では。
(次回に続く)

参考文献

中小企業白書 平成11年版
(中小企業庁 編/ぎょうせい)
関心のある方は、図書館等で過去の白書を眺めてみることをぜひお勧めします。
計量経済分析の基礎と応用
(刈屋武彦 監修 日本銀行調査統計局 編/東洋経済)
エコノミストが必要とする統計学をコンパクトにまとめたテキストです。ただし、経営学系の本でないので、診断士試験的にはお勧めできません。
目次
第1回
ロジカル・シンキングで白書を解剖する!?の巻
第2回
統計データもロジカル・シンキング!?(統計のイロハ 前編)の巻
第3回
平均では分からない中小企業の特性!?(統計のイロハ 後編)の巻
第4回
中小企業政策の歴史もロジカル・シンキング!?の巻

(*1)【寄与度】
時系列データの変動に対して、各項目がどれだけ影響(寄与)しているかを示した指標です。寄与度は、白書 第1部「中小企業の景気動向」第1-1-1図 「実質GDPの項目別寄与度」のように、マクロ経済の現状分析によく使われます。
ここでは、第1-1-1図「実質GDPの項目別寄与度」を題材に、寄与度の計算方法を簡単に説明しておきます。
1.今期の実質GDP(Y)の増減を需要項目ごとの増減に分解します。
寄与度:計算方式

(*1-2)【寄与率】
寄与度と似た指標として、寄与率があります。寄与率とは、各寄与度を変動全体に対する百分率で示した指標で、合計が100になります。

(*2)【全要素生産性】
経済学では、全要素生産性を技術進歩率と定義し、イノベーションや労働・資本の質的向上、経営の効率性などを表したものと解釈しています。
全要素生産性とは、生産関数の想定する労働・資本といった生産要素の投入量だけで説明できない生産の増加分(残差)のことです。TFP(Total Factor Productivity)とも呼ばれます。

(*3)【標準偏差】
標準偏差:解説文
標準偏差:式
標準偏差の特徴は、1.平均値からの乖離(かいり)を二乗することで、プラス・マイナスの影響を除去していること、(2)二乗した数値を平方根することで、平均値と同じ尺度(次元)に戻していること、です。
統計学的厳密さは別として、もし平均からの距離だけでばらつきを定義してしまうと、ばらつきの合計はプラス・マイナス0(ゼロ)になってしまいます。ばらつきの度合いが分からなくなってしまうのです。その欠点を解消するため、ばらつきを二乗しているのだと理解しておいてください。

(*4)【変動係数】
変動係数とは、標準偏差を平均で割り算したもので、平均値の異なるデータ間のばらつきを比較するのに便利です。変動係数は、次の式で表されます。
相関係数:式

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