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中小企業診断士レッセフェール
けんけんの白書 ウラ読み タテ読み ナナメ読み

第1回 ロジカル・シンキングで白書を解剖する!?の巻

【今回のまとめ】
1.中小企業白書とは、論理に忠実な政府の報告書である。
2.白書のあらすじを知るには、章や節のタイトル、図表の小見出しを眺めるとよい。
3.主張の根拠は、統計データにあることが多い。

皆さんは、助言理論でロジカル・シンキング(*1)(もしくは、クリティカル・シンキング)という言葉を聞いたことがあると思います。
診断士に限らず、自らの考えを他人に伝えるには、相手が納得できるように話さなくてはなりません。自らの考えが、相手にきちんと伝わるとは限らないからです。
グローバル・スタンダードの進展や外国企業の進出により、欧米の思考方法がコミニケーション・スキルの一つとして注目される理由です。

ロジカル・シンキングでは、「主張の根拠(理由)は、○×である」といった論理のつながり(因果関係)が大切にされます。論理のつながりを辿る(たどる)ことで、主張の誤りを発見したり、優劣を付けられるからです。でも、悲しいことに、「あうん」の呼吸で和を尊んできた日本人には、こうした思考は苦手なのだそうです。

話が脱線しましたが、「中小企業白書とは、中小企業に対する現状認識や政策の根拠を示した政府の報告書である」ということを、まず覚えておいてください。それは、言葉による論理かもしれないし、統計データによるものかもしれませんが。。。
いずれにせよ、白書とは、読み手(国民)が論理と事実(データ)によって、検証できる政府の公式見解(主張)なのです。

では、2003年版中小企業白書 第2部「日本経済の再生と中小企業の役割」 第2章「参入の活性化と円滑な退出、再生・再起」を題材に、論理のつながりを見てみます。
テーマは、「低迷する我が国の開業の動向」(第1節)、「開業率低下の要因」(第2節)、「退出をめぐる経済社会的コストの縮減と企業、経営者の再生・再起」(第3節)の三つです。
ここでは開廃業率を出発点に、開業率と廃業率の2つの項目に分解(ブレークダウン)した構造になっています。開業率がプラスで、廃業率がマイナスなので、開廃業率はこの二つの数値の影響を受けるからです。早速、論理のつながり(因果関係)がハッキリしましたね。
下図は、この論理のつながりを図にしたものです。財務会計で学ぶデュポン方式(*2)に似た構造となっています。





ロジカル・シンキングでは、このような図をロジック・ツリーと呼びます。
「データをモレなく、ダブリなく網羅したか(MECE)(*4)」を視覚的に検証するのに便利な図(ツール)です。
ちなみに2003年版白書 第2-3-67図「株式会社の資金調達方法」もロジック・ツリーのよい例です。興味のある方は、ご覧になって論理のつながりを考えてみてください。

では、この章のあらすじを見てみます。
まず、第1節(白書 P.84下〜)では、開廃業率の推移について図表で説明を行い、「1980年代以降、低下する開業率」の現状と、3つの出所データに関して定義を述べています。
そして、分析をマクロ(全体)からミクロ(部分)に掘り下げ、1.地域別では、「東京、大阪等の大都市圏で高い開業率であること」、2.業種別では、「ほとんどの業種で高い割合を個人企業が占めていること」、を明らかにしています。

ここで強調したいのは、このあらすじのかぎ括弧部分は、白書の図表にあった小見出しから引用してきた文であるということです。「1980年代以降、〜」は第2-2-1図から、「東京、〜」は第2-2-10図から、「ほとんどの〜」は第2-2-12図の小見出しから、引用しています。白書の内容と読み合わせてもらえば分かりますが、小見出しをつなぎ合わせてるだけで、白書のあらすじが出来上がってしまうのです。
理由は、白書の根拠が、統計データにあることが多いからです。

さらに、第2節(白書 P.90右〜)では、前節での「低下する開業率」の現状を踏まえ、その低下要因について仮説の検証を行っています。目的は、開業率低下の要因を明らかにし、政府の解決策(政策)を導き出すためです。

今回は、ロジカル・シンキングによる白書の読み方についてお話ししました。説明する側にとって、かなり都合のよい題材でしたが、白書が論理に忠実な報告書であることを実感していただけたかと思います。白書を読むときの一つのヒントになればと思います。

繰り返しますが、白書のような専門性の高い文章を読むときは、論理のつながりを大切にしてください。
例えば、「この節は、中小企業の現状について説明しているのだ」とか、「この節は前の問題提起を受けて、仮説の検証をしているのだ」などと、論理のつながりに気を配って欲しいのです。そうすることで、白書の理解度が高まるからです。

でも、「白書なんてゆっくり読んでいられないョ!」という方は、関心のある図表の小見出しだけでも追ってみてください。図表はちょっとしたプレゼンテーション・スライドなので、眺めるだけで何か発見があるはずです。
また、「白書なんてだいたい読んだョ!」という方は、章や節のタイトル、図表の小見出しをパラパラと眺めてみてください。もし、それで白書のあらすじがイメージできるなら、あなたは完璧な白書通です。

次回は、統計のイロハについて学びます。統計と聞くと、数学アレルギーの方もおられるかと思いますが、統計データの解釈だけなら、中学レベルの数学で充分です。
統計の考えは、戦略レベルの意思決定から業務レベルまで、あらゆるビジネス・シーンに活用されます。経営情報システム、マーケティング、生産管理…。統計とのつきあい方を修得するだけで、新しい世界が広がるはずです。
計算はパソコンでできる時代です。人は計算結果の判断基準を知っていればよいのです。難しい理屈はありません。統計もロジカル・シンキングの一つであるということがきっと分かります。
(次回に続く)

参考文献

1. MBAクリティカル・シンキング MBAクリティカル・シンキング
(グロービス・マネジメント・インスティテュート/ダイヤモンド社)
ボリュームがあるので、読み終えるのが大変な本です。ご存知の方も多い専門書です。念のため、挙げておきます。
2. 通勤大学MBA3 クリティカル・シンキング 通勤大学MBA3 クリティカル・シンキング
(グローバルタスクフォース(株)/総合法令)
クリティカル・シンキングの全体像を簡潔に知りたい方に、お勧めのテキストです。お値打ちな一冊です。
目次
第1回
ロジカル・シンキングで白書を解剖する!?の巻
第2回
統計データもロジカル・シンキング!?(統計のイロハ 前編)の巻
第3回
平均では分からない中小企業の特性!?(統計のイロハ 後編)の巻
第4回
中小企業政策の歴史もロジカル・シンキング!?の巻

(*1)【ロジカル・シンキング】
論理的に考えるための手法です。また、クリティカル・シンキングは、物事を批判的に考えるための手法です。いずれも論理のつながりを重要視します。こうした手法を修得することで、自らの考えを他人に分かりやすく論理的に伝えられるようになります。

(*2)【デュポン方式】
アメリカの化学会社デュポンが、事業部管理のために使い始めた分析手法です。総資本利益率を出発点に、総資本利益率と売上利益率に分解(ブレークダウン)し、それをさらに細かくしていった構造です。財務数値の分解により、企業の問題点を抽出します。

(*3)【ロジック・ツリー】
論理のつながりを視覚的に表した図です。診断士試験のテキストに頻出するチャート(図)もその仲間です。ロジック・ツリーでは、原因に対する対策や、目的に対する手段等、分析のフレーム(視点)によって、その「切り口」が変わってきます。

(*4)【MECE】
ミーシーまたはミッシーと読みます。Mutually Exclusive Collectively Exhaustiveの略です。互いに重なりなく、全てを網羅するという意味です。情報を客観的かつ構造的に把握するのに、MECEは不可欠です。偏りのない議論や分析を可能にするためです。

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