今後通関業者、通関士に求められるコンプライアンス
2008年に入って関税法上の規制緩和が加速しています。財務省を中心とした行政当局はこの急激な緩和促進を日本版AEO(認定された経済事業者)制度と呼称し、商社、メーカー、船会社、航空会社、運送業者、そして、通関業者も巻き込んで貿易制度全体のコペルニクス的な変革を目標にしています。この制度を簡単に述べるならば、限りなく民間業者のコンプライアンスを基調とした自主管理に委ねた行政形態になるということです。コンプライアンスとは「法令遵守」という意味ばかりではなく社会的モラル(道徳)もその中に入ります。「法令遵守」と「モラル」に秀でた業者に対して一定のベネフィット(特典)を与え、その分、行政組織をスリム化することがこの日本版AEO制度の趣旨です。言い換えると、行政手続をなるべく簡略化し物流を迅速化、加えてテロ等に備え、セキュリティも確保するという欲張った制度となっています。
通関業者もこの貿易制度の一大変革の渦から逃れることは出来ません。2006年度から導入された「特定輸出申告制度」等と併せ、2008年4月からコンプライアンスに優れた通関業者に対しても特典を与える「認定通関業者制度」がスタートしました。この制度を利用して「認定通関業者」の資格を取得すると、輸出入申告等については適正(間違いない)であろうから、それを参考にして税関が審査するということになります。
具体的には、認定通関業者の情報に関してNACCSシステムにプログラミングされることになり、現在も実施されている申告、即時許可という簡易審査に反映されることになり、その結果、通関手続が迅速化し、通関業者も依頼した荷主も恩恵が増すものと想定されます。(ここでは、特例輸入申告の特典に関しての記述は割愛します。尚、2008年12月9日現在、認定通関業者は5社です。)
では、「認定通関業者」に求められるコンプライアンスとは何かというと、貿易関連法令の遵守は勿論の事、通関業者に雇用される通関士、従業者の業務知識のレベルアップ、モラルの向上等が求められ、顧客である商社、メーカー等に対しても適正、的確な助言をしていけるという企業体質を確立することです。認定に当たってはこれらのことが税関当局からも要求される事になります。
通関士試験がここ数年難易度が向上したのもこの政府方針に添ったものに他なりません。通関士のレベルアップなくして通関業者の質の向上は望めないからです。ここ数年の実務試験の難易度のアップはこの方針に添ったものであるといえます。
通関士という資格はいままで地味な存在でしたが、この日本版AEO制度の構築の旗の基、一躍脚光を浴びることになりました。認定通関業者制度は顧客の立場からも認定業者に委託した方が特典を受けて、許可がスムーズに受け易くなるはずです。そして、認定を受けるためには今以上にコンプライアンスの徹底を求められる事になり、それに沿った通関業務管理規程の提出、組織整備、例えば総括管理部門、内部監査部門の設置、文書保管等セキュリティ対策等も整備しなければなりません。
政府としては、このAEO制度を発展させて諸外国との相互認証という仕組みにもっていこうとしています。それはどういうことかというと日本のAEO業者を通して輸出された貨物はヨーロッパで輸入する場合もセキュリティ等が確保された貨物として取り扱うということです。勿論、ヨーロッパからの貨物も日本に輸入する場合は同様に取り扱う事になります。究極的には、日本のAEO通関業者に雇用された通関士に審査された輸出貨物はヨーロッパでも信用のおける貨物として輸入手続が限りなく簡素化されるということが想定されます。
私見ですが、AEO制度の今後の展開次第では将来的に通関士という資格は単に通関業者にのみ雇用される職業ではなく、巾広くメーカー、商社等に雇用される独立した職業になる可能性を秘めていると言えるでしょう。そのためには日常から、より一層の関税法関連法令知識に加え、貿易関連知識の習得に努めなければいけません。
日本は貿易が無ければ成り立たない貿易立国です。ここ数年、試験の難易度はかなりあがりましたが、それだけ価値のある資格になりつつあるという証拠でしょう。これから資格取得を目指すみなさん 、是非、合格の栄誉を勝ち得、業務知識とコンプライアンスに優れた貿易パーソンとして日本の経済を担っていきましよう。
2008年12月 LEC専任講師 大庭 元
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