↑What's New ←目次
2000.vol.1
ワールド トレンド レポート
ロシア
 ロ シ ア 選 挙 法

佐藤賢明(糸賀法律事務所ロシアプロジェクト研究員・二松学舎大学講師)


 1999年末にはロシア国家会議(下院・ドゥーマ)の選挙、そしてエリツィン大統領辞任発表が行われた。今年3月には大統領が実施される予定である。そこで、ロシアの選挙法令について述べることにした。
 選挙に関連する法令には1)93年憲法(93年12月)、2)ロシア連邦市民の選挙権及び国民投票(レフェレンダム)参加権利の基本的保証に関する法律(97年9月、全11章66条)、3)ロシア連邦国家会議(ドゥーマ)代議員選挙に関する法律(99年6月、全13章94条)、4)ロシア連邦大統領選挙に関する法律(99年12月、全12章83条)、その他知事選挙法など
の一連の法律がある。この中で基本的な法令は上記の1)憲法及び2)市民の選挙権及びレフェレンダム参加法であるが、特に重要なのは2)である。例えば3)のドゥーマ選挙法第2条には、「ドゥーマ代議員選挙法令は憲法、市民の選挙権及びレフェレンダム参加法、本法律及びその他の連邦法令で成り立つ。」、また4)の大統領選挙法の第2条においても同様の規定を明記している。すなわち、2)の法律が選挙全体・原則的規定をおこない、3)、4)などは、個々の選挙について規定している。また上院である連邦会議は各ロシア連邦構成主体から2名、すなわち権力機関の代表(地方議


会議長)と執行機関の代表(知事)から構成されるので、特別な選挙法はない。
 93年憲法 第1章憲法体制の原則第1条「(3)人民の権力の最高の直接的表現は、人民投票(レフェレンダム)および自由な選挙である。」、また第2章人と市民の権利および自由第32条に市民の参政権が以下のとおり述べられている:同条「(1)ロシア連邦の市民は、直接に、またはその代表を通じて、国家の事項の管理に参加する権利を有する。(2)ロシア連邦の市民は、国家権力機関および地方自治機関における選挙権および被選挙権、ならびに人民投票および住民投票(レフェレンダム)に参加する権利を有す
る。(3)裁判所によって行為無能力と認定され、または裁判所の判決によって自由剥奪施設に収容されている市民は、選挙権および被選挙権を有しない。」。すなわち国事の最高決定は自由な選挙で選ばれた議会で、あるいはレフェレンダムにて決定されることを憲法で明記していることが重要である。社会主義ソ連時代では、社会団体であるが、全人民国家を指導する立場にあった共産党が実際的には候補者を絞り国家体制を維持していた。非党員が候補者になるのは非常に困難であった。
 同憲法の第4章ロシア連邦大統領第81条では大統領選挙についてふれている:


「(1)ロシア連邦大統領は、4年の任期で、ロシア連邦の市民によって普通、平等および直接の選挙権にもとづき秘密投票で選挙される。(2)ロシア連邦大統領に選挙されることができるのは、ロシア連邦に10年以上定住する35歳以上のロシア連邦市民である。」。また同様に、第97条では「国家会議(ドゥーマ)に選挙されうるのは、21歳以上の選挙に参加する権利を有するロシア連邦市民である。」と規定している。(憲法の条文は、大空社「現代のロシア」から。)
 ロシア連邦市民の選挙権及びレフェレンダム参加権利の基本的保証に関する法律 同法は、97年9月5日にドゥーマに
て採択され、19日に大統領が署名し効力を有している。同法前文では、「民主的、自由的および定期的な国家権力機関および地方自治権力機関への選挙並びにレフェレンダムは人民に属する権力の最高直接的表現である。」とこの法律の目的を規定している。続いてこの法律の適用範囲(第1条)、選挙実施の基本原則(第3条)ちなみにロシアでは18歳から選挙権がある。被選挙権には、選挙の種類に応じ年齢や居住年数の条件を付けることができる。選挙委員会(第W章):選挙委員会は中央にそして連邦構成共和国に各都市・地域にとピラミッドのように形成される。ロシア連邦中央


選挙委員会は15名のメンバーからなり、そのうち5名は下院・ドゥーマから、5名は上院である連邦会議、残り5名は大統領が指名する。委員は大学の法学教育を受けた者また法律分野の学位を有する者であり、任期は4年である(第22条)。選挙委員会の活動原則は公開性である(第26条)。候補者登録(第X章)大統領選挙、ドゥーマ代議員選挙は投票45日前に候補者名簿が作成されなくてはならない。このように選挙手続を規定し、候補者の選挙運動(第Y章)も規定している。選挙運動で日本と比較し特徴的な事は、マスコミの自由な活用である。一応、法律上各候補者は平等とされているが 資金力のある候補者が勝利する場合が多い。
 ロシア連邦国家会議代議員選挙に関する法律 下院・ドゥーマの選挙法である。昨年6月に大統領が署名した新しい法律である。代議員総数は450名内半数の225名が小選挙区(1選挙区1名の代議員)残り225名は比例選挙でもって選出される(第3条)。小選挙区は原則人口比でもって設定されるが、少人口であっても連邦構成主体には最低1選挙区が保証」されている(第14条)。そこで1票の格差問題がすでに生じている。小選挙区の候補者は当該選挙区有権者数の1%以上の支持署名を、比例選挙に候補者


を送っている選挙ブロックなどは20万人以上の支持署名を集めなくてはならないが、1連邦構成主体から1万4千以上の署名を集めることはできない(第43条)。ただし、供託金制度がある。小選挙区の候補者は所定の最低労働賃金の千倍、比例選挙の選挙ブロックなどは所定の最低労働賃金の2万5千倍の供託金を選挙委員会に支払えば、上記の支持署名を集める必要はない(第64条)。  
 外国(国際)監視人の受入規定がある(第30条)。招待状を発送できるのは大統領、連邦会議、ドゥーマ、政府、連邦人権擁護全権及び中央選挙委員会である。送り先は、国際機関、外国政府、非
政府組織、並びに人権擁護、人及び市民の自由の分野で権威を有する個人に直接送付される。監視期間は、中央選挙委員会からの信任状を受けた日より公式の選挙終了日までである。監視人は独自また独立し活動をおこなう。その経費は監視人を送った側が負担する。外国監視人がロシア領内で活動する間、ロシア連邦の保護下にあり、国及び地方の権力機関は必要な協力をおこなう義務があると定めている。監視には投票後選挙に関する報告を行うことができる。また、候補者との会談を行うことができる。外国監視人がロシアの法令又は国際法で一般的に認められている規範


や原則に違反した場合、当該外国監視人を中央選挙委員会は信任状を没収する権利を有す。
 ロシア連邦大統領選挙に関する法律 この法律はエリツィン前大統領が昨年12月31日辞任発表直前に署名した法律である。この法律が掲載されている今年1月5日付「ロシア新聞」では通常大統領の署名は日付だけであるが、この場合は特に9時00分と時間まで記載されている。
 基本的には、この法律は上記の各法律と選挙運動などで異なる点はない。ただし、支持署名は百万人以上、また1連邦構成主体において7万人以上の署名を集めてはならない(第36条)。供託金制度はない。外国監視制度はドゥーマ選挙法と同様の規定がある(第22条)。

←目次

↑What's New ←目次
2000.vol.1
Copyright 2000 株式会社東京リーガルマインド
(c)2000 LEC TOKYO LEGALMIND CO.,LTD.