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2000.vol.1

今月のことば

実務法律界の構造変革
−労働者派遣法・成年後見法−


反町 勝夫
■ LEC東京リーガルマインド代表取締役会長 ■ 


 第146回臨時国会が12月15日に閉幕した。この臨時国会も、第145回通常国会と同様、実務法律界に影響の大きい法律が多く成立した。
 まず、(1)中小企業対策の理念を自立支援型と明確に位置付けた改正中小企業基本法、円滑な資金調達を目的とした中小企業活性化法、(2)経営不振となった企業の再建手続きを定めた民事再生法、(3)借家市場の流動化を図る良質賃貸住宅供給特別措置法(定期借家権法)、(4)年金給付水準の抑制等を柱とする年金改革関連法、などが挙げられる。(1)については中小企業診断士、(2)(3)については弁護士と司法書士、(4)については社会保険労務士が、それぞれ職務上
密接に関わり、新法成立後の実務に対応していく。現在、政府の行政改革推進本部に置かれた「規制改革委員会」と内閣の「司法制度改革審議会」が実務法律界の今後の方向性について議論している最中であるが、両会の具体的結論を見るまでもなく、施行される法律及びその下位規範である命令・規則の内容とその運用により実務法律家に課された役割と構造とが刻々と変化していく状況がわかる。
 さらに、実務法律界の構造変革をもたらすものとして、改正労働者派遣法(1999年12月1日施行)と成年後見法(1999年12月1日成立、2000年4月1日施行)が重要である。


士業の派遣・斡旋紹介を自由化した改正労働者派遣法
 改正労働者派遣法は、港湾運送業務、建設業務、警備その他政令で定める業務を除いて、労働者の派遣を自由化した(いわゆるネガティヴリスト化)。
 労働者派遣の原則自由化は、働き手にとっては、自らの職業能力を活かして自由な時間に働けること、企業側にとっては、事業環境の変化に機動的に対応できることや、知識・技術・経験のある即戦力としての労働者を採用できるというメリットがある。このようなメリットを法律、会計、税務、経営に関する専門家(士業)を派遣・斡旋紹介する場合にも活かすことができる。
 我国の各種士業は、開業登録をした上で独立の個人事務所を構えて、実務に携わることを前提としている(弁護士法第8条、第20条、司法書士法第6条等参照)。しかし、専門業たる資格試験に合格したあとも、開業登録をせずに、一般のサラリーマンのように、企業に就職する者が多い。特に、司法書士、社会保険労務士の試験に合格した人に多い。このような合格者は、専門的能力において開業登録している人と何ら異なるわけではない。そこでこのような人に専門職への就業の途を開いたものが、今回の改正労働者派遣法なのである。


 つまり、今回の改正労働者派遣法の施行により、登録した士業は斡旋・紹介により、また未登録の有資格者は派遣や斡旋紹介により就業することが可能となり、この意味で高度な実務能力を求める企業と有資格者のニーズが同時に拡大、強化されることとなった。企業法務の現場に司法書士、弁理士、社会保険労務士などの実務家が多く加わり、企業の法律案件の迅速な処理が可能となる。さらに有資格者の派遣や斡旋紹介 のニーズは、法律、会計、税務、経営に限らず、社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、ホームヘルパーなどの福祉の資格職に拡大してきた。2000年4月に始まる介護保険制度、成年後見制度により、これら福祉の資格者の派遣斡旋紹介が急増するものと予想される。
 このように改正労働者派遣法の施行は、企業や福祉の現場で多くの士業が活躍するきっかけとなる。


福祉法務の担い手を生みだす成年後見法
 身上監護、財産管理の両面で高齢者福祉を法的にサポートする成年後見法が成立した。介護保険制度とあわせて、2000年4月に施行される。
 新しい成年後見制度は、任意後見制度と法定後見制度に分けられ、両者に共通する新たな成年後見登記制度が創設された。任意後見制度は、委任者(本人)が、受任者(任意後見人)に対し、精神上の障害により判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護および財産管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託にかかる事務について代理権を付与する委任契約であって、家庭裁判所により任意後見監
督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
また、法定後見制度は、本人の判断能力が不十分な状態になってから、法律の規定に基づいて、家庭裁判所が、補助人、保佐人、または成年後見人(以下「法定後見人」という)を選任し、その補助人等に権限を付与するものをいう。
私法における私的自治の原則に鑑み、任意後見制度が優先して適用される。
したがって、本人の自己決定権を最大限に尊重する任意後見制度が、今後の高齢者福祉の法的なセーフティネットとして機能を発揮することになる。このことは、2025年にピークを迎えると予測され


る高齢化社会には、2千万人以上の規模での福祉法務の需要が見込まれる。この点、1997年には第二東京弁護士会が中心となって「高齢者財産管理センター」が設立され、また1999年には日本司法書士会連合会により「成年後見センター・リーガルサポート」が設立されるなど、高齢者福祉を支援する弁護士、司法書士の活動がはじまる。
 成年後見制度による、実務法律界への影響は次の点である。
 まず、法廷活動が中心である弁護士にとって、裁判外の福祉法務の需要に目を向ける契機となる。今後、弁護士も後見人、後見監督人に選任されることによ
り、福祉施設、社会福祉法人で活躍する弁護士が増えていくであろう。
 また、登記実務を実務の中心に据えている司法書士にとっては、後見登記制度の創設により、登記実務が新しく誕生する。成年後見制度を契機として、任意後見契約の締結、その旨の公正証書の作成と認証に関連して将来、法律相談権、訴訟代理権などが司法書士の新たな職域として拡大することであろう。
 さらには、複数後見人制度が導入されることで、弁護士、司法書士、社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、ホームヘルパーなどの実務家が相互に協調し、被後見人へのサ


ポートを行うことが可能となった。成年後見制度が効果的に機能するためには、弁護士、司法書士などの法律職にある者が、被後見人の身上監護を通じて福祉制度に十分な理解をする必要があるし、また社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、ホームヘルパーなど福祉職にある者が被後見人の日常生活の事実行為に着目するだけでなく、生活物資の購入、預貯金の出入れ、不動産管理などの法律行為についても助言を行うなど、相互に積極的な関与が求められよう。
 これからの福祉法務は、従来の専門
職が縦割りのままの業際問題をそのままにしていたのでは対応できないことを如実に示すものである。弁護士だから、司法書士だから、・・・と狭い垣根争いに拘泥している暇はない。
 今、実務法律界は、裁判外での法律需要の急拡大、対外活動における法的需要の拡張を原因として、リーガルサービスの量的・質的拡大が急務となっている。「国民に利用しやすい司法制度の実現」(司法制度審議会設置法第2条)も、企業内法務・福祉法務・対外活動での法務の視点から考えていくと、自ずと骨太な理念が見出されるであろう。



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