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vol.4
ワールド トレンド レポート
韓国
 韓国の憲法裁判制度の歴史と憲法裁判所の役割

西海法律事務所 弁護士  申 在均(シン ジェ グン)


1948年憲法の憲法裁判  

 韓国では、憲法裁判が1948年憲法から採択された。これ以降、憲法裁判は実質的な内容と運用面での紆余曲折を経て現在に至っている。
 1948年制定の憲法では、違憲法律審判については憲法委員会、弾劾審判については弾劾裁判所を設置して処理する旨規定し、これを具体化するために1950年2月21日に憲法委員会法、弾劾裁判所法が制定された。
憲法委員会は、副大統領を委員長に、最高裁判官、国会議員がそれぞれ5名ずつ合計10名の委員により構成された。弾劾裁判所も副大統領を裁判長に、最高裁判官5名と国会議員5名が審判官として構成した。
 なお、憲法委員会は1950年から業務を開始したが、活動自体微々たるもので、10年間でわずか6件の違憲法律審判事件を処理したに過ぎない。


1960年憲法の憲法裁判 

 1960年憲法は、1948年憲法下での憲法委員会の役割が微々たる点であったことに留意して、これを廃止し、代わりに憲法裁判所制度を導入した。これを受け憲法裁判所法が1961年4月17日に制定された。
 ここでの憲法裁判所は、違憲法律審判、権限争議審判、政党解散審判、選挙訴訟審判などを担当し、現行の憲法裁判所とほぼ同じ役割であった。
また、裁判所に継続中の事件については、裁判所または当事者が憲法に関する解釈を要請した場合には、憲法裁判所が決定を通して最終的に憲法を解釈する権限もあった。
 1960年憲法の憲法裁判所は、1948年憲法の憲法委員会とは違って常設機関であり、9名の裁判官で構成し、任期を5年としていた。しかし、朴大統領による軍事革命が起きたため実現しなかった。


1962年憲法の憲法裁判

 1962年憲法では、憲法裁判機関を特に置かず、最高裁判所が違憲法律審判と政党解散審判、選挙訴訟審判を行い、弾劾審判については弾劾審判委員会が担当した。弾劾審判委員会の設置と権限および手続を規定するため1964年12月31日弾劾審判法が制定され、弾劾審判委員会は最高裁判長を委員長に最高裁判所の判事3名と国会議員5名の委員から構成されていた。
 しかし、違憲法律審判は活発ではなく、1971年の国家賠償法と裁判所組織法に対して違憲判決を宣告したのが全部である。


1972年維新憲法での憲法裁判

 1972年の維新憲法からは、最高裁判所は法律に対する違憲審査をすることができなかった。代わりに憲法委員会を設置し、違憲法律審判、弾劾審判、政党解散審判を担当させ、1973年2月16日に憲法委員会法が制定された。憲法委員会は9名の委員から構成されていた。
 同法は、地方裁判所と高等裁判所の段階で、ある法律が憲法に違反していると判断し、違憲法律審判を要請する場合でも、最高裁判所が必要がないと決定すれば、
憲法委員会へ違憲立法審査の要請ができないように規定した。この規定から、最高裁判所に法律の合憲決定権が与えられてた。
 しかし、実際には、国家賠償法などによる違憲判決で違憲意見に賛成した最高裁判所の判事たちが裁判官再任用過程で全員脱落するため、裁判所が萎縮し、実際には違憲要請権を行うことができなかった。その結果、憲法委員会の違憲立法審査は1件も行われなかった。


1980年憲法での憲法裁判

 1980年憲法も憲法委員会を設置し、違憲法律審判、弾劾審判、政党解散審判を担当させた。しかし、最高裁判所の判事全員の3分の2以上で構成された合議体で、法律が憲法に違反していると認められた時だけ憲法委員会に違憲法律審判を要請できるとしたため、従来の手続よりも厳しく、結果的に憲法委員会には仕事がなかった。


現行憲法(1988年憲法)と憲法裁判

 現行憲法により現在の憲法裁判所制度が導入された。これまでの経験から、憲法委員会と最高裁判所に憲法裁判を担当させるのでは、国民の基本権保護が不充分だとの判断で憲法裁判所を設置した。
 憲法裁判所は違憲法律審判、弾劾審判、政党解散審判、権限争議審判、憲法訴願審判を担当することになった。憲法裁判所は1988年9月1日憲法裁判所法が発効し、同月15日裁判官9名が任命され、誕生した。
 特に始めて導入された憲法訴願審判は、公権力の行使または不行使により憲法上保障された基本権が侵害された場合、国民が直接これを救済してほしいと請求をすることができる制度であり、韓国の憲法裁判史上とても重要な意味を有している。
 憲法裁判所は憲法第6章により上記の権限を有し、憲法秩序を守り、国民の基本的自由と権利を保護する砦となった。


 違憲法律審判

 違憲法律審判とは、裁判所で裁判中の具体的な訴訟事件で、その事件に適用される法律が違憲か合憲かが問題となる場合、裁判所が直接、または訴訟当事者の申請を受け、法律の違憲可否の審判の要請を憲法裁判所に対して行い、憲法裁判所が当該法律の違憲か合憲かを決定する審判を指す。憲法裁判所が違憲決定をした場合、その法律は効力を喪失し訴訟当事者はその適用を免れる。
 また、訴訟当事者が法律の違憲可否を裁判所に申請したところ、当該裁判所が憲法裁判所への審判の要請を
行わなかった場合、 訴訟当事者は憲法裁判所法第68条第2項にしたがって憲法訴願の形式で、直接憲法裁判所へ法律の違憲可否の審判を請求することもできる。
 なお、憲法裁判所が違憲法律審判制度を通じ、国民の自由と権利を伸張した代表的な事例としては、同姓同本の禁婚規定に対する違憲決定と映画法規定に対する違憲決定があげられる。このうち映画法では、映画上映前に公演倫理委員会の事前審議を受けなければならなかったが、これを違憲であると憲法裁判所は判断した。


弾劾審判

 弾劾審判は、大統領、国務総理、長官、裁判官などの政府高官が職務執行において、憲法または法律に違反し、国会で弾劾訴追の発議と議決の後、憲法裁判所が当該公務員の免職決定を宣告できる審判制度である。
 国会だけが弾劾訴追をする権利を有しており、一般国民は憲法裁判所に直接弾劾審判を要請する事はできない。
ただし、一般国民が国会に対して弾劾訴追の申請をすることは可能である。なお、これまでに国会で弾劾訴追を行い憲法裁判所までに回った事件は存在しない。


政党解散審判

 政党解散審判というのは、政党の目的または活動が民主的基本秩序に違反した場合、政府の要請によって憲法裁判所がその政党の解散を命ずる決定をすることによって違憲的な政党を解散させる審判制度である。この審判制度は自由民主主義体制を破壊しようとする政党から自由民主主義と憲法秩序を守護する役割をしている。 政党解散審判は政府だけが要請する事が出来るので一般国民は憲法裁判所に政党解散審判を要請することができない。


権限争議審判
 権限争議審判は国家機関相互間、国家機関と地方自治体相互間、地方自治体相互間で権限の範位に関して争いが生じた場合、憲法裁判所が憲法解釈を通じ、職権的に当該紛争を解決することで、国家機能の円滑な遂行を図り、国家権力間の均衡を維持して憲法秩序を守護維持しようとする審判制度である。
 権限争議審判の代表的な事例として、国会議長と国会議員間の権限争議事件があげられる。国会議長が
野党議員たちに本会議開始時間を国会法に規定した通り適法に通知しなかったため、法律案の審議票決に参加できなかったというものであり、憲法裁判所は憲法の法律案審議票決の権限を侵害したと決定した。ここでは、法律案の変則処理の違憲性を確認した。
 なお、権限争議審判は国家機関または地方自治体相互間の権限紛争を解決する制度なので一般国民は憲法裁判所へ権限争議審判を要請することはできない。


憲法訴願審判
 憲法訴願審判というのは公権力の行使または不行使によって憲法上保障されている国民の基本権が侵害されている場合に国民が憲法裁判所に対して自分の基本権の救済を要求する制度である。憲法訴願に十分な理由がある場合、憲法裁判所は基本権を侵害する公権力の行使をとりやめさせるか、違憲の確認をすることによって国民の基本権を救済する審判である。
 憲法訴願審判は基本権を侵害されている国民を救済する審判であるので一般国民が憲法裁判所に憲法訴願審判を要求できることはもちろんである。憲法裁判所の発足以来1998年4月30日まで総3,607件の憲法訴願を受付して3,161件を処理、そのうち、憲法訴願を受け入れ国民の権利を救済したのは159件にのぼる。 

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