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vol.4

法科大学院構想の行方

  動き出した大学院改革 −法科大学院構想−


 平成10年10月26日の文部省大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」では、大学院の教育研究の高度化・多様化が重要政策の柱とされた。研究者の養成という旧来からの大学院の設置目的に加え、経営管理、法律実務、ファイナンス、国際開発・協力、公共政策、公衆衛生の各分野で高度な専門的知識・能力の育成に特化した実践教育を大学院修士課程で行う、いわゆる専門大学院が平成12年度から本格稼動しようとしている。  法科大学院は、上記専門大学院の一種で、一定の修了要件を充たせば司法試験に合格しなくとも法曹資格が与えられる新しい法曹養成システムである。但し、大学院の修了要件と法曹資格制度の関係については、司法試験改革を含む法曹制度の根幹に関わる問題であるため、現在内閣に設置されている司法制度改革審議会の審議状況に歩調を合わせざるを得なくなっている。


この点、東北大学法学部が来年春から学部・修士の6年一貫教育を行うとして、法科大学院の先行実施と伝えられたが(読売新聞平成11年8月31日朝刊等)、修士課程卒業者に法曹資格が付与できるのかどうか未だ不確実である。法科大学院設置の意義はあくまで、司法試験に合格しなくとも法曹資格が付与されることにあるのだから、司法試験制度改革の見通しが立たない現状では、東北大学の構想は未だ修士課程専修コースの延長の域から外れるものではない。  法科大学院の設置を検討する場合、[1]国公立、私立含めて、現在の法学部教育をどうするのか、[2]大学院の定員をどう決めるか、[3]現在の法律実務教育を担当する司法研修所をどう位置付けるか(裁判所法第67条等)、[4]司法試験制度との関係(併存、もしくは廃止)をどう考えるか、[5]大学院の入試、講座カリキュラム、卒業試験をどうするか、などの重要かつ難解な問題をクリアしなければならない。


  法科大学院構想の試案をめぐって


 近時、文部省や内閣司法制度改革審議会の動向を睨み、法科大学院の試案が数多く出されている。  東京大学大学院法学政治学研究科の「法曹養成と法学教育に関するワーキンググループ」(座長 菅野和夫教授)は、今年9月20日に大学として初めて法科大学院構想の試案を発表した。東大試案では、現在の法学部の存置を前提として、学生は前期2年間で一般教養、憲法、民法、刑法、法哲学、法制史などを学ぶ。 そして、法曹を目指す学生は後期2年間で「法曹コース」(仮称)に進学し商法、訴訟法をはじめとする実定法を必須科目として学ぶ。
 そして、ロースクール課程(大学院修士課程)では、専ら法学理論教育を行う。法曹資格を得るためには、ロースクール課程修了時に司法試験を受験しなければならない。合格者は司法研修所で法律実務の技術訓練を行う。 


 9月26日に神戸大学法学部が発表した試案も、学部教育の存続、司法研修所の存置については東大試案と変わりがない。しかし、現行の司法試験を廃止し、競争試験ではなく純然たる資格試験としての新・司法試験の導入を目指す点は注目すべきである。それは、法科大学院に在籍する者が現行の司法試験を受験することの禁止をも視野に入れ、法科大学院→新・司法試験→司法研修所における実務修習というプロセスを貫徹させようという意図があるからである。 逆にいえば、法科大学院に入学し、卒業できない限り、法曹になることは出来ないのである。
 また、第二東京弁護士会も独自に、法科大学院構想の試案をまとめた(平成11年10月12日)。
 これまで、法科大学院の設置と法曹一元制の導入とはリンクしないというのが、法務省側の見解であり、その他の試案でも特に言及はなかった。二弁試案は、法曹一元制への移行を前提としているのが特徴である。


 二弁試案によると、法科大学院=ロースクール課程に弁護士会が加わり、大学専門教育と実務法曹養成教育は 一体化して行うものとされる。修了者は司法試験を受験し、合格した者には弁護士資格が与えられ、裁判官・検察官を目指す者はさらに2年間の実務研修(司法研修所における統一修習ではない)を経ることが必要とされる。司法試験改革については、年間1,500人ずつの増員を図るほか、 試験科目に法曹倫理を加え、法曹の質と量を確保することを主眼としている。
 これまで、東大試案、神大試案、二弁試案と概観してきたが、いずれも日本型ロースクール構想と範疇化されるものである。法学部に独自の存在意義を認めること、現行の司法試験を(改革を行ったとしても)継続して実施することを前提としている点で、アメリカ型ロースクールと大きく異なるからである。


  日本型ロースクールの限界
 −抜本的な司法試験改革、法科大学院の自由化を目指して−


 法科大学院は、日本型を基調とすべきか。結論は否である。  まず、現行の法学部の役割であるが、法曹に限らず官公庁、民間に幅広い人材を輩出していることは事実ではあるが、それは学部教育がそれ相応の専門教育を行ってきたからではなく、司法試験の勉強に挫折した結果としてそうなっただけである。法科大学院が全国各地で開設され、専門教育機関として機能すれば、法科大学院出身の官僚、ジャーナリスト、経営者など多数現れ、先の大学審議会答申が期待するところの高度な専門実践教育が活きるといえよう。法学部法律学科は廃止し、法科大学院へと昇華させるべきである。  また、法科大学院でどのようなカリキュラムを、一体誰が教授するのか、具体的な議論がなされていない。
 法科大学院の設立趣旨に則った専門実務教育は、現在の大学教官には無理だと考える。それは、憲法、民法、刑法、すべての科目でそうであるが、大陸系法学教育の無用な部分を今日まで引きずりすぎているからである。実用よりも観念が先行し、「意思」とは何か、「行為」とは何か、「所有」とは何か、哲学論争を繰り広げるのに奔走し、法律実務の専門分化についていけないのが大学教官の実態である。やはり、裁判官、検察官、弁護士、そして司法書士などの準法曹が教官として相応しい。


 そして、現行の司法試験をどう改革すべきかが最重要の論点といえる。東大試案では将来の検討課題として位置付けられている。
 そもそも、法曹の質と量の確保を狙って法科大学院構想が提唱され始めた背景には、現行の司法試験が資格試験というより競争試験の様相を呈し、世間で言われているような様々な弊害をもたらしていることがある。そうであるならば、法科大学院の導入を論じる前にまず、司法試験合格者の大増員(年間5,000人は必要)を行い、
資格試験であることを制度として定着させるべきである。法科大学院の設置後も、司法試験は廃止すべきでない。
 最後に、法科大学院の設置は、原則自由とすべきである。事後チェック型の自由競争社会を担保するものとして司法制度改革がスタートし、その一環として法曹養成制度の見直しが論究されているのだから、法科大学院、弁護士の良し悪しは国家ではなく、利用者自身がリーガルマーケットで決めるべき事柄であると考えなければならない。


 年間5,000人以上の合格者を生む司法試験に合格するか、全国各地に散在する法科大学院を修了するか、このどちらかの自由選択により、法曹となる道を保障すべきである。そうでなければ、法科大学院構想は既存の法学部の権威確保、法科大学院入試を第二の司法試験と転化させるだけである。


評論家:美浪 法子

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