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vol.4

今月のことば

司法書士新時代へ−司法制度改革が目指すべきもの−

反町 勝夫
■ LEC東京リーガルマインド代表取締役会長 ■ 


一.司法制度改革審議会の動向は?
 内閣の司法制度改革審議会は今年7月27日に初会合を開き、2年間の審議日程をスタートさせた。これまで、かつての司法制度改革の動き、審議内容の公開方法、審議会が行うヒアリングの対象者の選定について討議がなされてきたところである。審議会では、法曹人口の増大(司法試験合格者数の見直し)、新しい法曹養成制度の確立(いわゆる法科大学院構想の立上げ)、法曹一元制度の導入、国民の司法参加、法律扶助制度の改革などのテーマが予定されている。これらの論点が具体的な審議期間を前提として公表されるのは、今年の12月である(予定)。
 この点、上記の各論点を見る限り、審議会は司法制度の概念を狭義に解し、
人的・物的インフラの整備を裁判関係のものに限定してしまっているが、妥当ではない。なぜなら、規制緩和策の効果として、市民、企業の間で複雑な法律関係が増え、法分野が難化、専門分化しているが、裁判外のリーガルマーケット(実体面)の需給関係に着目し各法律実務家の制度改革を進めることは、司法制度改革の前提であるからである。
 そこで、審議会の論点公表前には、裁判外の制度にも視点をあて、法曹、準法曹、研究者、経済界などから具体的な問題点の指摘を行うべきであり、改革の好機を逸すことは許されない。
 その重要論点の一つが「司法書士制度改革」である。


ニ.司法書士制度改革がなぜ必要か
 司法書士は、不動産登記、商業登記、訴状作成などの裁判事務、供託手続等を行う法律実務家である(司法書士法第2条)。司法書士が少額請求事件などの本人訴訟をサポートするほか、企業法務部で活躍するケースも既に定着しており、国民生活、企業活動の全般的な法務担当として、抜群の実績を築いている。
 ところが、司法書士には弁護士法の規制が立ちはだかる。弁護士法第3条、第72条は弁護士による法律業務独占を規定するが、逆に司法書士による法的サービスを利用する国民の側からすると、
法律業務の適正配分どころか、近時はむしろ弊害のほうが目立っている。
 司法書士法は来年で施行50年を迎えるが、この間司法書士の社会的地位の確立と向上を目指して、職責規定(第1条の2)が設けられるなど様々な法改正がなされてきた。また、日本司法書士会連合会、各単位会は、司法書士の業務を国民に幅広く知らしめ、司法教育の充実を図るため、全国の高等学校で出張講演を精力的に行っている。
 こうした活動が功を奏し、司法書士は現在、町の法律家として約17,000人が全国各地で活躍している。


 特に弁護士と決定的に違うのは、市区町村における普及率である。全国3,400の市区町村のうち、弁護士の普及率がわずか14.8%、司法書士は64.8%と格差が開いている。全国市区町村の約3分の2には少なくとも司法書士が一人活躍している計算になる。
 司法書士制度が国民レベルで認知され、定着してきていることは事実だがしかし、国民の利便性の向上を考えると、
政府は弁護士法の改正を速やかに実施し、簡裁代理権、及び家事審判、家事調停、民事執行事件の代理権を最低限付与すべきである。また、その前提となる法律相談業務についても、民事一般について当然に認めるべきである。
 司法書士制度改革は、時代の必然である。2000年4月からスタートする成年後見制度を例に考えてみる。


三.成年後見制度がスタート 〜1億2千万人の福祉と司法書士〜
 高齢社会を支える社会制度の柱は、介護と財産管理である。わが国でも2000年4月に介護保険制度と成年後見制度が同時にスタートする。
 成年後見制度は、従来からの法定後見と新設された任意後見のニ類型からなる。特に高齢社会では、自己決定権に基づく自由な財産処分が意思能力低下後も効力を有しなければ、経済活動そのものの停滞を招く。それ故、意思能力が完全な時点で、任意後見契約の締結をすることが重要である。
 成年後見制度が始まると、司法書士は後見人として依頼者の財産管理、身上監護にあたることになる。
具体的には市民生活法務の専門家として不動産、高価な動産の取引、保険契約など重要な法律行為の保護に携わりながら、ホームヘルパーなどと協同して日常面のケア、施設入居に関する事項についても担当する。さらに、家庭裁判所より任意後見監督人として選任され、後見人に対する指導監督、後見監督を行うことも想定される。
 誰でもいずれ高齢者となるのであり、1億2千万人全員が成年後見制度の潜在的利用者である。司法書士は全国民を相手に、法律福祉の担い手としての活躍が期待されているのである。


四.公証業務の権限を司法書士に与えよ
 成年後見制度は、公証業務に関して問題を一つ浮き彫りにする。それは、法務局に任意後見契約の登記をなす際に必要とされる公正証書が、公証人の権限下に置かれているという点である。
 一人の司法書士が何百人というレベルで後見業務を行わなければならなくのは想像に難くない。公正証書を入手するのに公証人役場へいちいち出向かなければならないのでは不便極まりなく、余計な社会的費用が生じてしまう。
この点、不動産登記の場面でも指摘されてきたように、登記原因証書の作成は実体的な権利変動を把握している司法書士が行うのが実態に即している。司法書士も国家資格であり、公証業務に不適任というわけではない。同様のことが、成年後見制度にも当てはまる。
 そこで、成年後見制度の成立を機に、是非とも公証業務を司法書士の業務権限とするべく法令の改正を実施すべきである。


五.新時代の司法書士
 成年後見制度のスタートなど、司法書士をとりまく好環境は将来も続く。
 21世紀に司法書士が市民の法律家として一層の地位を固めるためには、司法書士一人一人が自らの職域に甘んじることなく、むしろ業際を開拓し、裁判外の法律業務をリードしていくという気概を持つことが大切である。
これが新時代の司法書士の姿である。
 同じく政府は、司法制度改革において司法書士制度を論じることの意義を踏まえ、時宜適切な改革を進めていくことが求められている。司法制度改革を行うのは新時代の司法書士像を築くためでもある。このことを忘れてはならない。 



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