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通巻 194号

<司法制度改革懇話会>
【提言 1】  弁護士へのアクセスの拡充
1―1 弁護士法第30条を改正し、弁護士が登録したまま官公庁、企業に就職する際には所属弁護士会への 届出制とすべきである(現行は許可制)。
1−2 弁護士事務所の法人化を早期に実現するべく、立法作業を急ぐべきである。
1−3 弁護士法第20条第3項を改正し、複数の事務所の設置を認めるべきである。
1−4 弁護士広告解禁(2000年10月)に伴い、弁護士に関する基本データの情報公開を促進すべきである。
<理由・解説>
1−1 について
 弁護士法は「報酬ある公職」を原則禁止し(第30条第1項)、会社経営者となり、その従業員となる際には「所属弁護士会の許可」を必要としている(同条第3項)。この許可制度が多くの単位弁護士会で極めて硬直して運用されているために、民間企業に籍を置き活躍する弁護士が日本では実に稀な存在となっている。いわゆる「企業内弁護士」について日弁連は実態を正確に把握していないが、企業法務部や知的財産管理部門で活躍する弁護士は全国を見渡してもせいぜい50名程度であろう。
 アメリカでは、全州で年間50,000名近い司法試験合格者を輩出する。弁護士資格を有していながら民間企業に就職する者も相当の割合に上る。議員、官僚、会社役員、渉外担当社員にも、弁護士が多いのが特徴である。「高度な法化社会」がすでに完成されている。
 特に企業が弁護士に対する容易なアクセスを確保するには、弁護士が法廷だけでなく企業内で活躍できるシステムを築くことが不可欠である。また近時は、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の重要性が指摘され、社外監査役への弁護士登用など株主利益保護のための施策が求められている。  届出制に変更し、事実上自由化することにより、司法修習生増加への社会的受け皿にもなる(企業内弁護士としての就職を促進する)。
1−2について
 弁護士事務所の法人化を認めるか否かについては、法務省と日弁連の間で長期にわたって意見調整が続けられている。
 そもそも、事務所を法人化するメリットは、(ア)所属弁護士の死亡、休職、退職その他の去就に法人格が影響を受けないため、継続的・安定的なリーガルサービスの提供が可能となること、(イ)従来からの組合形態とは根本的に異なり、法人に対して信用度が向けられる。そのため例えば、銀行等からの多額かつ迅速な資金調達が可能となること、(ウ)法人が直接雇用する事務所スタッフについても多数、雇い入れることが出来ると同時に、社会保険、労働保険に加入することも出来ること、(エ)70代以上の高齢弁護士を事務所長として経営参加させることで雇用の確保につながり、長期間、若手弁護士の指導に該らせることができること、などである。ユーザー、所属弁護士双方にメリットが大きい。
 近時、法務省法制審議会は、構成員(社員)の利益を目的とする非営利団体を中間法人として法人格を認める方向を打ち出した。弁護士事務所の法人化についてはこの中間法人を軸に検討される模様であり、法務省は次期通常国会に関連法案を提出する予定と伝えられている。
 そして、政府の「規制改革推進3か年計画(再改定)」(2000年3月31日)にも、弁護士事務所の法人化を平成12年度中に措置すべきことが盛り込まれている。法案作成を急ピッチで行うべきである。
1−3について
 複数の弁護士事務所設置は、弁護士法第20条3項によって禁止されている。その趣旨は、弁護士活動が過度に営利性を帯びることを防止し、過当競争を抑止し、個人事務所の安泰な経営を確保することにある。
 しかし、弁護士事務所を法人化すれば経営規模が拡大し、出先事務所(支店)の設置は当然の要請である。また、複数の事務所設置が設けられることにより、いわゆる「弁護士過疎」が発生している地域への弁護士サービス進出を促す契機ともなり、弁護士へのアクセスは飛躍的に改善される。
1−4について
 弁護士へのアクセスが拡充されるためには、個々の弁護士についての情報がユーザーに開示されていることが必要である。実務法律のスペシャリストとしての弁護士と、ユーザーである市民、企業との間に厳然として存在する「情報の非対称性」は、機会費用、取引費用を増大させ、ひいては弁護士制度の発展を阻害する大きな要因となっている。
 日弁連会則の改正により、2000年10月から弁護士広告が原則解禁となる。だが、広告解禁によって17,000名すべての弁護士の情報が明らかとなるわけではない。むしろ「情報の非対称性」によるデメリット、例えば非弁提携弁護士による悪質な広告、勧誘が懸念されるところである。
 ユーザー側が必要とする基本的なデータは、日弁連が中心となって積極的に公開することが望ましいが、やはり個々の弁護士がホームページ等を活用して広報を行うべきである。

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