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今、地方自治体に求められるフロンティア精神

露木 順一氏 神奈川県開成町長/地方分権改革推進委員

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

地方分権の議論が進む中、各自治体は大きな変革が迫られている。政府の地方分権改革推進委員会委員も務め、地方の立場から分権改革を訴える神奈川県開成町長の露木順一氏に、開成町を通して見る市町村といった基礎自治体の現状について、さらに今後の地方公務員に求められることについてうかがった。


■ 当面は、市町村合併せずに広域連携でスケールメリットを生む

反町

「平成の大合併」により、市町村合併が随分と進みました。露木町長は地方分権改革推進委員を務められていらっしゃいますが、開成町はどのような状況でしょうか。

露木 順一氏 神奈川県開成町長/地方分権改革推進委員

露木

開成町にも合併の話はあります。神奈川県西部は、中心都市の小田原市とそれを取り巻く小さな地域から成り立っているのですが、かつては小田原藩、小田原県とまとまっていたこともあり、歴史的にも一体感がありす。戦後も、一流企業の研究所等が置かれるなど、小さいながらも財政的にはこれまで安定してやってきました。われわれの広域連携は非常に進んでおり、ごみ処理や消防といったものから観光事業、住民間の交流事業といったものまで、さまざまな分野の連携が図られています。既に、そのようなスケールメリットがあることから、合併の必要はないという声も出ています。

反町

合併によってさらなるスケールメリットもあるというわけでもなければ、確かに必要性を感じないかもしれません。

露木

小さい単位の自治体の方が、トップの声も届きやすく、まとまって俊敏な決断ができ、市民ニーズについても迅速に対応できます。そうなると、何も無理して合併するよりは、独立しながら広域連携を活かしていく方が、効率的で効果的な行政ができるのです。ただ、地方分権改革が進み更に地方の役割が重くなると広域行政だけで対応できるかどうかわかりません。市町村合併も視野に入れる必要があります。

■ 市町村首長と知事の違いとは住民と接点の有無

反町

首長の方は、自分の理念をもって市民のために行政改革ができる点が、国会議員と大きく違うところであり、素晴らしい点だと思います。

露木 順一氏、反町 勝夫対談

露木

市長と知事とでは、性質が異なります。知事は、全体のビジョンを大きく示すことができます。しかし、それを具体的に実行する基礎自治体の市町村長は、住民と接点があります。格好の良いことを言っても、住民の声を無視して行政は展開できません。メディアなどであまり大げさな振る舞いはしにくいです。突如、アドバルーンを揚げて、住民が戸惑うことになれば、住民を苦しめることにつながります。都道府県が直接できることは限られていますし、知事が住民の痛みや苦しみを直接見ることはなかなかありません。逆に市町村は、最前線で住民と接点を持っていますので、そういった住民のことを強く意識しなくてはならないですし、するべきなのです。

反町

よく都道府県は、国と住民の真ん中にいると言いますが、それを実感します。

露木

市町村の行政において肝心なことは、現場を知っているか否か、住民の痛みを知っているか否かということだと思います。

■ 地方公務員になろうとする人は、フロンティア精神を持って欲しい

反町

この不況の中にあって、公務員志望者が増えていますが、「不景気だから公務員」とか「安定しているから公務員」という考えでは困ります。公務員としての信念がなくてはなりません。

露木 順一氏 神奈川県開成町長/地方分権改革推進委員

露木

全くその通りです。特に住民生活に最も近い市町村は、国や都道府県の指示に従って仕事をこなしていているだけでは、実情に合ったサービスを展開することができません。市町村は、新たな課題を見つけて解決策を提供する場なのです。挑戦する気概が不可欠です。時代の大転換期には、これまで光が当たってこなかった大都市以外の市町村、特に小さな町や村にも、知恵と工夫次第で一挙に光が当たる時代です。地方公務員になろうとする人は、フロンティア精神を持って欲しいと思います。

反町

開成町の採用試験を受ける方には、どのような傾向があるでしょうか。

露木

開成町では、採用試験で面接を行っていますが、受験生は皆同じようなことを答えます。最近は、女性の方がしっかりとした受け答えをしていると見受けられます。女性は、結婚、出産など節目節目で大変な面もありますが、有能な女性職員も大勢います。次は、いかに管理職に育てるかです。

反町

最近は優秀な女性が増えています。しかし、管理職や上司と言えば、まだ男性がほとんどというのが現状です。女性の管理職が少ない職場では、女性管理職が特別な目で見られますから、男性を部下に抱えていくというのは本当に大変だと思います。また、いくら優秀な人材であっても、組織の取りまとめの経験等が不足している場合があり、その結果、管理職として身につけるべきスキルを持っていないということもあると思います。男性の場合、若いときに、同僚や上司に教わってビジネススキルを身につけている場合が多く、周囲も気軽に注意したりして環境が整っていると思いますが、女性の場合、男性に比べて同僚や上司とのつきあいにおいてビジネススキルを身につけるような場面は少なく、環境も違うように思います。そのようなことを考えると、女性の管理職はいかに大変か察せられます。そのようなこともあってか、最近、能力のある女性は専門職に就く傾向があるように思います。

露木

私も、専門職を希望する女性が多くなっているということは感じます。

反町

もっと女性が上の地位でもやっていけるように、周囲がサポートしていかなくてはいけません。出産・育児に対するバックアップはもちろんのこと、やる気や能力のある女性には、きちんと補助をし、表舞台に出してあげるべきだと思います。

露木

なるほど。組織の中でインフォーマルなサポートをしていくことが大切ですね。

反町

組織の中で見ていくことも重要ですが、一個人として見守っていくことが大切です。それぞれの信念や理念をきちんと理解して、個人として存在価値を認めることです。

露木

これからは、組織や会社の中でいかに女性を活力ある存在にしていくかがポイントとなりそうですね。

反町

露木町長には、自治体の発展ひいてはわが国の発展のために、ご活躍いただきたいと思います。本日はありがとうございました。

≪ご経歴≫

神奈川県開成町長/地方分権改革推進委員
露木 順一(つゆき じゅんいち)
1955 年神奈川県生まれ。東京大学教育学部卒業。自らの責任を持って社会を変革しようと1993年長年勤めたNHK(政治部記者)を退職。1996年衆議院神奈川17区選挙区へ立候補、落選。1998年出身地である同県開成町の町長選に出馬し、初当選。親子2代で町長となる。現在3期目。2007年4月から政府の地方分権改革推進委員会委員を務める。

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