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日本の未来を支える弁理士

恩田 博宣氏 オンダ国際特許事務所会長/元日本弁理士会副会長

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

250名以上の従業員を抱え、拠点も本社のある岐阜のほかに、国内に東京・大阪の2事務所、海外には上海事務所を構えて、日本有数の国際特許事務所にまで育て上げられた恩田博宣氏に、近年、弁理士を取り巻く状況およびそれを踏まえた今後の展望についてお話いただいた。


■ 現場の経験は強い

反町

昨秋からの大不況以降、弁理士講座には、40〜50代くらいの方の受講が増えています。そのような方の中には、工場に務めていて弁理士の仕事をしていたわけではないが、目指せるものかといったご質問をされる方がいます。私は、ものづくりの現場の仕事をされていたのであれば、特許はどういうものかなど十分に想像できますし、大丈夫ですよと言っています。

恩田 博宣氏 オンダ国際特許事務所会長/元日本弁理士会副会長

恩田

そうですね。弁理士は、新卒で工学部を出ていても、さらに実務的経験があれば弁理士の特許業務には大変有効です。工場でも開発でも現場を何年か経験されている人は特許法に強い弁理士になれると思います。

反町

しかしながら、そういう人に限って「受からないのではないか」と心配するように見受けられます。理系で知財に関心を持っている人が弁理士を取らないでどうすると思うのですが。

恩田

ただ、弁理士になって実力を蓄えたとしても、独立して自分のファームを持つことは、決して簡単ではないので、そのあたりが躊躇われるのではないでしょうか。

反町

最近は、資格を取っても独立よりも事務所なり企業なりの中で活躍しようという方が増えています。特に最近の若い人は、生まれた頃から右肩下がりの経済だったので、貯金等して生き残ろうといった保守的傾向が強いように思います。弁理士に限ったことではないですが、本当に独立へ行動を移す人はわずかではないでしょうか。

恩田

最近の大不況もあるでしょうが、そういった時代背景もあるかもしれないですね。今、特許事務所が人材募集すると、かつてないほど優秀な人が集まります。経験者で立派な明細書を書ける人が、景気がいいときに来るのは、何か問題がある場合が多いですのですが、今のように景気がよくないときの応募は、「私の事務所は見込みがなくて…」と、弱気になってしまっている方が来るのです。

反町

大企業でも潰れるかもしれないと大騒ぎをしているときに、サラリーマンが独立して孤軍奮闘は厳しいのでしょう。

■ 夢に燃えた人をサポートする明るい弁理士業務

恩田 博宣氏、反町 勝夫対談

恩田

よく、近所の弁護士が「弁理士はいいですね」と言います。弁理士の仕事は創造的でおもしろい。だから弁理士の事務所には、「これから、この発明で自分の人生を膨らませよう」という夢に燃えた人が訪ねて来るけども、弁護士の事務所を訪ねる人のほとんどは、人生最悪の状況で来るとことが多い。

反町

おっしゃる通り、弁護士に明るい事件はないですね。前向きなものは非常に少ないのではないでしょうか。この不況で、今は倒産と民事再生が盛んです。

恩田

弁理士の通常の業務では、特許出願が圧倒的に多く、「この特許をとらないと、会社が潰れてしまう」というような案件は極めて少ないので、明るいですね。

反町

弁理士は、未来をつくる前向きな分野のお手伝いをしているわけで、明るい仕事です。

恩田 博宣氏 オンダ国際特許事務所会長/元日本弁理士会副会長

恩田

とはいえ、長年やっていますと、大変なこともあります。例えば、特許明細書を書くと、非常に高い精神的負担があります。以前、優秀な女性に大手自動車メーカーの特許明細書を担当してもらったとき、あまりの負担に辞めてしまったことがありました。また、どんなに小さな事業でも、グローバルな競争になっていて、あらゆる分野が厳しくなっています。そこに大不況の波が押し寄せ、厳しくない分野なんてどこにもない状況です。

反町

それでも今の若い人は、案外たくましいと思います。生まれたときから右肩下がりの経済の中を生きてきて、身をもって厳しい現実を知っています。採用の減少も相俟って、大学3年ですぐに就職活動を始め、内定取り消しということもありますが、資格取得やインターンシップなどキャリア形成にますます熱心に取り組んでいます。今の厳しさもわれわれとは感じ方が違うのだと思います。

恩田

私が年初に回った企業の中に、開発予算50%カットになったところがありました。しかし、知財部の部長さんが元気で、「50%もカットされたら知財部は死にます。開発も死にます。だから社長も自分も財務部門を口説いて予算を復活させます。」とおっしゃっていました。大変な中にも明るさがあるのです。
先の見えない長いトンネルに入り、企業によっては出られないところもあるかもしれませんが、かろうじて出たとしても、トンネルの中でも開発をやっていなかったら、トンネルを出たところで開発し続けていた企業にたたかれてしまいます。結局、開発は続けざるを得ず、その成果たる特許出願はせざるを得ないというのがものづくり企業の実態です。

反町

わが国の将来も考えたら、企業は開発を続けないとなりません。弁理士の方々には、そういった企業のギリギリの中での取り組みを支えていただき、わが国の発展に寄与していっていただきたいと思います。
本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

≪ご経歴≫

オンダ国際特許事務所会長/元日本弁理士会副会長
恩田 博宣(おんだ ひろのり)
1966年弁理士登録。1968年恩田特許事務所開業。1988〜1991年愛知学院大学講師。1992〜1994年名古屋経済大学講師。1997年日本弁理士会副会長。1999年黄授褒章受章。2000年〜岐阜大学地域共同センター客員教授。発明協会岐阜県支部顧問。岐阜県研究開発財団理事。

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