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市民に身近な法律家としての取り組み

古根村 博和氏(神奈川県司法書士会会長)

聞き手:鈴木大介 株式会社東京リーガルマインド専任講師/認定司法書士

近年、司法書士は、簡易裁判所代理権が与えられ、弁護士と同じく簡易裁判所で訴訟代理人として活躍出来るようになったほか、高齢者や障害者の権利を擁護するために成年後見人となり、財産管理や身上監護などを行ったり、遺言・遺産相続などの個人向けサービスと幅を広げたりと、業務に広がりをみせています。そのような中、全国最年少36 歳という若さで神奈川県司法書士会会長に就任され、生活保護など弱者を守る取り組みをされてきている古根村博和氏に、市民の身近な法律家としての司法書士のあるべき姿についてうかがった。


■ 当事者目線でのフォロー

鈴木

古根村先生が司法書士を目指されたきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

古根村

学歴がないと苦労するなど、会社の中で働いていく難しさを痛感していた父親の影響で、わりと早い段階から独立開業型の仕事を、と考えていました。そのような中、法学部に進学したこともあり、専門性の高さも踏まえ、司法書士になろうと思い、目指すようになったのです。

古根村 博和氏(神奈川県司法書士会会長)

鈴木

目指されたのが学生時代ということは、就職活動はされなかったのでしょうか。

古根村

弁護士の事務所で2年くらい働いていました。大学3年次からLECに通い、平成9年に合格しました。

鈴木

古根村先生は、ホームレスの方々の自立支援や自殺対策、生活保護対策など、積極的に弱者保護に取り組まれていらっしゃいますが、どのような経緯で取り組まれようと思われたのでしょうか。

古根村

平成16年ごろから全国青年司法書士協議会の役員を務めており、その関係で、生活困窮状態の方と直接話す機会がよくありました。ハンセン病療養所に行って法律相談を受けたり、児童養護施設に行って、そこにいるお子さんと話をしたりしていたのがきっかけです。そこでご相談等を受けたりした方々の多くは、今まで私が相談や対応にあたってきた依頼者とは全然違う、想像もし得ない問題を抱えた状況にいる方であることが分かりました。本当に困っている方々を目の当たりにして、自分たちに何かできることがないのか、と考えるようになったのです。
神奈川県内には、児童養護施設はあったのですが、ハンセン病療養所はありませんでした。そのような中、自分に何ができるだろうかと考えたとき、ホームレスの支援をしている東京の司法書士と話す機会がありました。その方から、私の事務所近くにも、ホームレスの支援をしている民間の団体があり、おにぎりを配ったりしている活動をしているということをうかがい、そこに参加してみました。そこで初めてホームレスと呼ばれる方と話をしました。それまでホームレスに対して偏見があったのかもしれませんが、少し前までは普通に働いていたような方で、意外でした。話してみると、たまたまそういう状態になってしまっている方だということが分かり、誰かの支援があれば、以前と近いかたちで生活できるのではないかと思いました。では、何が必要なのかと考えたときに、例えば生活保護の知識が必要であるとか、多重債務の問題があればその解決が必要だとか、「目の前にいる人を何とかしなければいけない」ということを元にした、何とかするための知識が必要だと思いました。これだというきっかけがあったわけではありませんが、手付かずであった分野に対して、自ら動かなければと考えました。

鈴木

普通の人がいつホームレスになるか分からない時代になったのだと思います。そういった状況からも、生活保護問題はこれから取り組んでいかなければならない分野ではないかと思います。しかしながら、生活保護を受ける人は年々増加傾向にあり、市役所や区役所が対応に苦慮しているようですが。

古根村

多くの問題があります。特に、地方に行けば行くほど深刻であったりします。先週も、家がなくなってしまって知人宅に居候している70歳代の高齢の方と市役所に行きました。その方は以前一人で市役所に3回相談に行かれたそうです。しかし、その時は、生活保護を受けられない可能性が非常に高いという説明を懇々とされたそうです。私から見ると、その方は生活保護を受ければ一人で生活できるような方でした。

鈴木

その方は、なぜ生活保護を受けられないというような説明をされたのでしょうか。

古根村

扶養義務を果たせる身内がいるのであれば、まずはその方に面倒を見てもらうようにということでした。知人宅といっても、家族のある家の知人だったのですが、そこで今後も面倒を見てもらえないかという話をされたのです。本人からすれば、これ以上傷つきたくないという思いがあり、事情をさらけ出して話しても無駄ではないかと考えてしまうわけです。厳しいことを言われるので、それに絶望される方もいます。そのようになってから私のところに話がきて、一緒に役所へ行ってみると、30分で生活保護の申請まで終わってしまいました。本人は、「今までの3回が何だったのだろう」とびっくりされましたが、何らかの支援をする法律家がいることで対応が違ってくるというのは、今でもよくあることなのです。

鈴木大介 株式会社東京リーガルマインド専任講師/認定司法書士

鈴木

生活保護申請に現職の司法書士が同行するというのは、初めてうかがいました。このような支援をされている司法書士の方は多いのでしょうか。

古根村

日本司法書士会連合会でも、そのような司法書士を支援する動きがあり、全国的にも徐々に広がってきているのではないかと思われます。成年後見でも、多重債務の問題でも、最低限の生活を確保しないと全く先が見えないということがあります。最低限の生活を確保した上で、浪費癖や精神的疾患などさらに眠っていた問題があれば、それを関係団体と協力してどうしていくかということになるのです。

鈴木

アフターケアも大切なのですね。

古根村

生活保護の申請に同行して生活保護を受けることができたら離れた方がよい場合もあります。しかし、今後何したらよいのか分からず、住む所が決まっても、仕事が見つからず、孤独になっていくこともあります。したがって、生活保護を受けることができたらそれでおしまいということではなく、その後のフォローも考えなければならないと思っています。

鈴木

一人ひとり抱えている問題も違うでしょうし、難しいところです。

古根村

社会が複雑化、多様化に伴い、DVや虐待、アルコール依存など、様々な問題を個人が抱えています。最低限の生活保障だけでは、個人の尊厳が守られているとは言えないこともあるのです。したがって、法律家は先も考えなければならないのですが、一人ではできないので、専門団体などと協力しながらやっていくことになります。一人ではできないことが多いと分かってくると、ネットワークの中で自分の役割を考えるようになります。

鈴木

生活保護の問題については、理想と現実のギャップに直面されたこともあるかと思います。例えば、窓口での給付申請受付対応のほかに、給付額の面などで問題視されていることはありますでしょうか。若手司法書士がこのような業務にあたる際、留意すべき点についてお聞かせください。

古根村

ケースワーカーと呼ばれる福祉事務所の担当の方を援助することがひとつ挙げられます。彼らが抱えている案件は、一人につき80世帯ぐらいあるそうです。一人当たりの仕事量には限界があり、多すぎるときめ細かな対応が難しくなります。生活保護を受けたら、自立して生活できるような人が埋まってしまう可能性もありますし、福祉がなければ生活できない方もいます。したがって、生活保護申請の段階で、その垣根を越えることも必要なのではないかと考えるわけです。対立することなく、一緒に本人のためにいろいろな方法を探っていくということに留意しなければなりません。行政も限界を認識し、民間などと協力するようなことが必要になってくるのではないかと思っていますが、当事者目線ということが、共通項になるでしょう。

■ 「市民に一番近いところにいる」ことを貫く

鈴木

古根村先生は最年少で会長に就任されましたが、神奈川県司法書士会は、どのような分野に力を入れていこうとお考えでしょうか。

古根村 博和氏(神奈川県司法書士会会長)

古根村

今までお話した生活困窮の問題に関しては重点的に対応していきたいと考えています。具体的申しますと、対応する委員会をつくって、直接現場に出てもらう体制をつくっていきたいと考えています。また、今年に入って、司法書士会としては初めて、自殺対策のシンポジウムを開催しました。政府も、自殺対策の基金を設立するなど、自殺対策積極的に取り組んでいます先のも述べましたが、司法書士会が単独でやるのではなく、ほかの団体と協力して活動をしていくべきであると考えています。司法書士は、もっと外部とつながっていくべきであると考えます。例えば、成年後見の分野であれば、地域包括支援センター(※)があります。どうしても成年後見だけの分野に偏ってしまっていますが、財産管理や悪質商法、家族との関係などもあります。法律家がそこに入っていくことも必要でしょう。また、在日外国人の方にも貧困、雇用の問題がありますが、その支援もまだ手つかずの状態です。司法制度改革の中で司法書士に課された役割は、多重債務の問題だけではないはずであり、司法書士がもう一歩踏み込んで活躍できる分野はまだまだあると考えます。したがって、司法書士がもっと街に出て市民の声を聞き、使命を果たす方策を考えています。

鈴木

簡裁代理権は、司法書士としても課題であります。140万円の壁があります。例えば、テナントの賃料であれば3ヶ月滞納というケースは、140万円を超えてしまうという場合もあります。
140万円という範囲内において、司法書士が出て行くべき新たな分野というのは、具体的にどういった分野があるのでしょうか。

古根村

140万円を超える案件は代理できない分野です。もともと本人訴訟は司法書士の本来のかたちで、本人と二人三脚で訴訟に参加していくことは必要なことです。今後頻繁に出てくる問題としては、更新料や敷金・礼金など市民の関心が高まっている分野が挙げられます。しかし、相談者は、専門家に相談すると多額の費用がかかってしまうのではないかという心配をお持ちなので、今後、司法書士会が少額の案件をどのようにして支援していくかが重要です。

鈴木

弁護士にも司法書士にも応じてもらえなければ、泣き寝入りすることになってしまいます。
これから法曹人口が増加してくる影響については、どうお考えでしょうか。

古根村

法曹人口の増大によって市民が気軽に相談できる機会が増えるのであれば、それは本来のあるべき姿であり、よいことだと思います。しかしながら、本当に支援が必要な人こそ法律家に届きにくいような問題もあるでしょう。

鈴木

その点も踏まえ、今後の司法書士業務の広がりについて、いかがお考えでしょうか。

古根村

まず、司法書士は、市民に一番近いところにいるということを貫くという原点に戻らなければならないと思います。制度的に司法書士の職域拡大などという話も出てくるかと思いますが、そういったことよりも依頼者にとって一番よい解決を考えることの方が大事だと考えます。それがすなわち、依頼者の一番近い所にいるということになるのだと思います。一つひとつの仕事を丁寧にやって、依頼者の信頼や社会的な信頼を得ることによって役割は自ずと決まってくるのではないかと思います。周りが司法書士のさまざまな取り組みを見て、「司法書士にはこんなことができる」と、司法書士が認知されて期待されていく流れの中で広がっていくかたちがよいのではないかと考えます

鈴木

司法書士は市民にとって身近な信頼できる存在であることによってこそ、業務も広がっていくということですね。先生のお取り組み話からも、その大切さが大変の本日は、ありがとうございました。

(※)地域包括支援センター
2005年の介護保険法改正で創設された、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関。各区市町村に設置されている。センターには、保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士が置かれ、専門性を生かして相互連携しながら業務にあたっている。

≪ご経歴≫

神奈川県司法書士会会長
古根村 博和(こねむら ひろかず)
昭和48年生まれ。青山学院大学法学部私法学科卒業。平成9年に司法書士試験合格、翌平成10年に厚木市に司法書士事務所開業。神奈川県司法書士会人権委員会委員長、全青司人権擁護委員会委員長、全青司副会長、神奈川県司法書士会理事などの要職を経て、平成21年に神奈川県司法書士会会長就任。全国の司法書士会の中でも史上最年少の会長。その他、神奈川県ホームレス自立支援計画策定会議委員、かながわ自殺対策会議委員、神奈川県地域(大和市)自殺対策連絡協議会委員を担当し、現在、ホームレス支援団体・厚木パトロール事務局長、生活保護問題対策全国会議事務局次長を務める。

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