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現状に即した政策を実現するための国会運営のあり方

浅野一郎氏 元参議院法制局長/LEC東京リーガルマインド大学教授

聞き手:反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

ねじれ国会で内閣提出法案の成立率が低くなった。世界恐慌で社会経済がますます混迷を極める中、日本は国会の迅速かつ適確な運営が求められる。そこで、元参議院法制局長の浅野一郎氏に、現状および今後の国会のあり方についてうかがう。また、自らの経験を各方面・各媒体で伝えていらっしゃる浅野氏の今についても触れた。


■ 理性を持った議事運営を

反町

浅野先生は、参議院法制局長をという要職をお務めになられたお立場から、衆議院、参議院とで多数派が異なる「ねじれ」の国会をどのようにご覧になっているのでしょうか。

浅野

今年3月、日銀の正副総裁人事や税制関連法案等において「ねじれ」の問題が顕在化し、マスコミでも連日大きく取り沙汰されました。税制関連法案に関しては、与野党が議事手続きの解釈まで対立し、与党が、「民主党提出の対案の可決は政府案の否決と見なさざるを得ない」といった見解を示し、衆議院において3分の2以上の多数をとって再可決、成立させようとしていたようです。しかし、民主党の対案の可決を政府案の否決と見なすことは、憲法解釈として無理があります。

反町

政府案を否決しているわけではありませんからね。

浅野

条文をきちっと読めば、その点お分かりいただけるかと思うのですが。日銀正副総裁人事にしても、衆参権限は同等が原則ですが、決まらないからといって長期間、放置してよい問題ではありません。私は、今回おきたような「ねじれ」による問題を踏まえ、現在衆参同等の権限がある案件でも、案件によっては国民により近い立場である衆議院が優越する規定を法律で設けるように見直してもよいと考えます。一連の「ねじれ」による混乱を見ると、政治の停滞、国会の機能不全が心配されます。

反町

今年6月まであった通常国会では、内閣提出法案の成立率が78.8%にとどまり、昨年通常国会の91.8%を大きく下回ったようです。

浅野一郎氏 元参議院法制局長/LEC東京リーガルマインド大学教授

浅野

数が力とはいっても、議事運営のルールは、理性を持って冷静に考えなければいけません。そうしなければ、国会は本当におかしなことになってしまいます。

反町

100年に一度といわれる世界的な大恐慌になり、さまざまな施策が求められ、ますます迅速な議事運営が必要になっている今、ご指摘の点は大変重要ですね。その一方で、時代の変化に即した抜本的な改革も必要でないかとは思っています。例えば憲法改正。安倍元首相のときにはかなり取り上げられたものの、最近は全く音沙汰なしですが、今後どのようになっていくとご覧になっていますか。

浅野

本体が動かない限りどうにもならないのですが、重要な問題です。おっしゃったように、今は世界的な大恐慌で、日本も経済対策、景気対策に注力せざるを得ない状況もありますが、国会を政局中心で動かしていってはいけないと思いますね。

■ 今だからこそ伝えたい

反町

浅野先生は、長年にわたって立法の最前線にいらっしゃったご経験をもとに非常に多くの書籍、論文を執筆されていますが、その中で法律専門職を目指す方にお奨めのものはございますか。

反町勝夫 株式会社東京リーガルマインド代表取締役

浅野

そうですね、司法試験を受ける方によいものとして、衆議院法制局長を務められた上田章さんとの共著『憲法』(ぎょうせい・1993)があります。上田さんは統治機構の方を執筆され、私は人権の方を執筆しました。また、本書は、「『国会は国権の最高機関(憲法41条)』というのは政治的美称に過ぎない』といった通説について、憲法は、国会に立法権のほか、「国権の最高機関としての権限」も配分しているのであって、本質的事項を決定する権限を有すると解すべきで立法権はその例示とでもいうことができる。』という「本質的機関説」とでも呼びうるような新しい説を述べています。このいわば「本質的機関説」とでも呼びうるような解釈によって、第41条全体を第65条や第76条第1項と同様に権限配分規定として読む均衡の取れた説明が可能となるばかりでなく、総合調整機関説や政治的美称説がいうような帰属不明の国家権限の国会への推定の問題はもちろん、「実質的な立法」と国会の権限ととの関係も整合性のとれたものになるのです。最近、京都大学法学部教授の土井真一さんがその説を引用してくださっており、その説は浸透してきています。

反町

素晴らしいですね。浅野先生は、実務的観点から書かれていらっしゃいますし、説得力が違うのでしょう。 最近出されたものでは、『新・国会事典(第2版)』(有斐閣・2008)もあるそうですが。

浅野

これはもう、ずっと前に出た『国会事典』の新版『新・国会事典』を改訂したものです。『国会事典』は評判がよく、どの図書館でも置いてくれています。また、最近では新聞記者の方も利用されているようです。

反町

事典は非常に実用的なものですし、『国会事典』となれば浅野先生をおいてほかに編著者はいないでしょう。 浅野先生には、弊社からも『立法政策の企画と立案』を出していただいていますね。この著書は、立法に携わっている現役公務員の方々を中心に大変ご好評いただきました。

浅野

それはうれしいですね。共に制作、編集にあたったスタッフの中には、その後、参議院の法制局で活躍している方もいます。

反町

先生に直接指導を受けてこのような本を制作したのであれば、公務員試験はすぐに受かりますよ。先生のご経験に基づいた説得力あるお考え等を、より多くの法律に携わる方々にお伝えいただきたいと思います。

浅野

そうですね。最近は、ねじれ国会などもあって、マスコミにコメントも求められる機会も時々あります。いろいろな場面で、私の経験、経験に基づく考え等を伝えていきたいと思っています。

反町

浅野先生のご活躍を祈念いたしております。本日は誠にありがとうございました。

≪ご経歴≫

浅野 一郎(あさの いちろう)
1926年岐阜県生まれ。1948年京都大学法学部卒業。参議院法制局長、徳山大学学長を歴任。主な著書に『議会の調査権』(ぎょうせい・1983)、『法律・条例 ―理論と実際―』(ぎょうせい・1984)、『立法の過程』(ぎょうせい・1988)、『情報化社会と法』(啓文社・1991)、『憲法』(ぎょうせい・1993) 、『国会と財政』(信山社・1999)、『選挙制度と政党』(信山社・2003)、『憲法答弁集』(信山社・2003)、『立法政策の企画と立案』(東京リーガルマインド・2003)など多数。

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